第二十六話
「おぉぉぉぉぉ!」
横一列に放たれてきた火球を腕を横薙ぎに振るう事で同時に全てを破壊し、アンナに向かっていくが俺のすぐ目の前に地面に大きな魔法陣が展開される。
「させるか!」
叫びながら片足で力強く魔法陣を踏みつけた瞬間、粉砕音が周囲に響きわたり、赤い魔法陣が一瞬にして破壊され、消滅する。
すぐさま顔を上げ、目の前を向いた瞬間、彼女の目の前に魔法陣が展開され、そこから炎が火炎放射状に俺に向かって伸びてくる。
「ぐぉぉぉぉぉ!」
両手で炎を受け止めるが間髪入れずに炎が噴き出されているので破壊しきれずにそのまま俺の体が炎の勢いによって後ろへと引きずられていく。
ヤ、ヤバイ! このままじゃ隙だらけになって!
「えあぁぁ!」
「げおぉ!」
そう思った直後、彼女が隙だらけの俺の腹部に飛び込んできて炎を纏わせた拳を俺に腹部に突き刺した瞬間、爆発させて大きく俺を吹き飛ばす。
二度、三度、地面にバウンドしながら吹き飛んでいき、ようやく止まったところで顔を上げるが上空からいくつもの火球が俺に向かって降り注ぐ。
「うあぁぁぁ!」
拳を突きだす暇もないまま、火球が俺の周囲に降り注ぎ、大爆発を起こして俺の体を容易に吹き飛ばし、地面に強く叩きつける。
クソ! 俺の体にあたった奴は破壊できても周囲の地面に落ちて発生した爆風までは俺の魔法でも破壊できない!
「げほっ!」
せき込み、いつもの癖で口を手で押さえると何か水っぽいものが手に付着したのを感じ、手を見て見るとべっとりと大量の血が手にへばりついていた。
「っっぐぇぁぁ!」
足元に赤い魔法陣が出現した瞬間、そこから炎の拳が伸びてきて俺の腹に突き刺さるが破壊魔法によって腕が破壊されるがそのまま大爆発を起こし、俺の体が容易に吹き飛ばされ、背中から地面に強く叩きつけられる。
だ、駄目だ……こいつ、俺が立ち上がる前に魔法を放って俺の動きを封殺してくる! それにこいつ、俺と一緒にクエストとかやったから俺の破壊魔法の弱点とかも熟知してやがる!
「なんであんたと一緒にクエストをやったりしたと思う? あんたが一番、あたしの障害になりえると踏んだからよ。破壊魔法なんてものはあたしだって聞いたことがないわ。本当にそんなものが魔法として存在しえるのかもね。でもそんなことはどうだって良い。障害になりえるならばその障害の弱点を熟知していれば対策なんてものは容易いわ」
「でも……げっほっ! 俺に近づいたからこうやって俺に止められてる。違うか?」
「ええそうよ。あたしはあんたに近づくべきじゃなかった。でも近づかなければあんたが障害として立ちはだかった時、対処が出来なかった。感謝するわ。あんたはあたしに有益な情報ばかりを言ってくれた」
「あぁ、そうだな……俺はお前に有益な情報を流しすぎた……でも逆に俺だってお前の魔法のことを知ってるんだぜ?」
「それが? あんたみたいな雑魚に魔法を知られた程度でどうにもならないわ。あんたの破壊魔法は触れた物をすべて破壊する魔法」
彼女の指先に火球が生み出され、それが俺に向かって放たれてくるがその勢いは先程の全速力とは違い、非常にゆっくりとしたものだ。
……何をしたいんだこいつは。
そして彼女が指をパチンと鳴らした瞬間、爆発し、その衝撃が俺の全身を叩き、数歩後ろへと後ずさってしまう。
あのサイズの火球でもここまでの衝撃が来るのか!?
「逆を返せばあんたの魔法は触れなければ発動しないし、魔法で発生した衝撃波などの目に見えない、そして触れることのできないものは破壊できない!」
「っっ! な、なんだこれ」
彼女が両手を大きく広げた直後、彼女の目の前に大きな魔法陣が出現し、そこから俺の周囲を囲うようにして小さな火球がいくつも吐き出され、辺りを浮遊し始める。
何をする気なんだ……俺に一気に集める訳でもなく、ただ少し距離を開けた位置に火球を置いて一体何をしようとしているんだ。
「炎で焼けなくても……衝撃を与えたら骨くらいは内臓に刺さるでしょ」
「っっ!」
「遅い!」
火球を破壊しようとした瞬間、俺の視界が真っ赤に染まりあがった。
―――――☆―――――
爆炎に包まれたユージを見てアンナは小さく笑みを浮かべながら穴が開いた不可視の膜へと向かおうと歩を一歩進めるがそれ以上、歩を進めることは無かった。
彼女がゆっくりと後ろを振り返った瞬間、炎の中に人影が立っているのが見え、彼女はすぐさま周囲に火球を生み出して放とうとするが炎から放たれた水の槍が火球を貫通し、火球が消え去る。
「あんたが出てくるか……サバティエル!」
その存在は歴史上、唯一属性・超常・強化の三種類の全てのタイプの魔法を扱うことができ、歴史に名を刻むことを許された存在であり、このサバティエル魔法学園という自身の名を冠した魔法学園を創設することを王族から許された稀有な存在。
彼女はこの学園長であるのと同時にこの国の最強兵器ともいえる。
炎の中から意識を失ったユージを抱きかかえて出てきたサバティエルは容赦なく水の槍をアンナに放っていく。
後ろへ飛び退き、放たれてくる矢を避けていくアンナの真後ろの地面が盛り上がったかと思えばそこから風の弾丸が飛び出してきてアンナの脇腹を突き刺さり、彼女を軽く吹き飛ばす。
アンナはどうにかして空中で体勢を立て直し、地面に足をつけてサバティエルの方を睨み付けるがすぐにその睨みは消え去る。
「アンナ・プロメテウス。選択するがいい。ここで私に痛めつけられることで拘束を受けるか、それとも今すぐこの戦いを辞め、この学園から去るか。出来れば君のような存在を出したくないと思っていたがどうやら今の君の感情では無理な話のようだ」
アンナの目の前には龍の形を模した炎・水・雷の魔法がサバティエルの背後に浮遊しており、いつでもすべてがアンナに向けて牙をむける状態にあった。
「一つ言っておこう。君がどれほど復讐を遂げるためにフレイヤ・プロメテウスのもとへ向かおうがきっと彼が君を止めるために追いかけるだろう」
「その度にそいつを倒すだけよ」
「果たしてそれがいつまで持つだろうか」
「……あたしがそいつに止められるっていうの?」
「彼は少し私の知っている人間とは違う性質を持っている……いずれ彼は君を止める存在になってくれる。私はそう信じているよ」
アンナは悔しそうな表情を浮かべながらも穴が開いた不可視の膜を通って学園から走り去っていった。
「…………残念だよ。アンナ・プロメテウス。君をお姉さんの二の舞にしてしまう事は……何もできなかった私を許してくれ」