第二十四話
怒りをにじませながらこちらへゆっくりと歩いてくるアンナとフレイヤの姿を交互に見て、ようやく以前に感じた既視感の正体がわかった。
フレイヤはアンナにそっくりだ。アンナをそのまま大人に成長させたみたいに。
「ようやく見つけたわよ。フレイヤ!」
「んも~。妹がお姉ちゃんの名前を呼び捨てなんてお姉ちゃん悲しいぞ!」
「お、お姉……アンナのお姉さんがフレイヤ?」
「フレイヤ・プロメテウス。元はサバティエル魔法学園の生徒だ」
振り返ればそこにグラン先生と理事長まで一緒にいた。
フレイヤ・プロメテウス……元々ここの魔法学園の生徒だった奴がなんで今、女王陛下を狙うかのように攻撃をしたんだ。
「あらあら、学園長まで出てきちゃったか」
「フレイヤ君……今はテロリストか」
「ええ。おかげさまでこっちの方が私には合っていたみたいで毎日、快適に過ごしていますわ」
学園長のドスが効いた低い声を聞いてもフレイヤ・プロメテウスは恐れることも無く、快活な笑みを浮かべながら小さくお辞儀をする。
よっぽど自信があるのか、それとも学園長が出てきても問題なく行動が出来る方法があるのか。
「最近、私の学園に凶精霊をばら撒いているのも君か」
「ええ。どうしてもこの学園を破壊したいっていうお方から直々に凶精霊を配って内部から攪乱してくれと言われましたの。ま、それも無理だったようですがね。そこの少年によって」
「え? お、俺?」
「イリナ君にも奴は接触し、凶精霊を渡していたんだが彼女が使わずに覚醒を果たしたため、形そのままの状態で私のところに来たのだよ」
「そんなことどうでも良い……フレイヤ! あんたを……殺す!」
普段の彼女からは想像が出来ない程暴力的に叫び散らした直後、上空に超巨大な火球が一瞬にして二つも生成され、フレイヤ目がけて落下していくがフレイヤの足元からは巨大な炎の槍が射出され、火球を貫き、大爆発を起こして消え去るが爆風の中をアンナは鞭を握りしめて駆け抜けていく。
なんなんだよ……いったい何がアンナを突き動かしてるんだよ!
「先生……アンナは何であんなに」
「その話も大事だが……今は彼女を止める方が先だ」
グラン先生が手を翳した瞬間、二人の上空に魔法陣が出現し、重力をお幅に増幅させて二人の動きを完全に止める。
だが二人の周囲で大爆発が起き、上空の魔法陣を破壊し、また二人は戦いを再開し始める。
互いに鞭を握りしめ、ぶつけ合い、足元を爆発するが互いに炎を得意とする魔法使いなためかその炎すらも自らの物として相手に叩き込む。
俺も突っ込んでいって止めたいけど俺が突っ込んでいったら逆に被害が大きくなりそうだ。
「姉妹揃ってバカみたいな魔力量を持っているとはな……プロメテウス家は健在という事か」
確かプロメテウス家って神様がどうのこうのっていうレベルの大昔から存在してるっていう家だったよな……じゃあ、今までのアンナの実力は大幅にセーブした状態だったっていうことか……セーブした状態であれ程の強さだとしたら全力を出したらどこまで行くんだ。
「はぁぁ!」
「フフッ、無駄だって。やっ!」
「がぁ!」
炎を拳に纏わせたアンナの一撃を片腕だけで受け止め、アンナの腹部に炎を纏った拳を加え、軽く吹き飛ばし、余裕の笑みを浮かべる。
全力のアンナをはるかに上回る戦闘力……いったいどんな一家なんだよ。
フレイヤが手を上にあげた瞬間、巨大な火球が生成される。
っっ! あんなもん食らったらいくらアンナでも消し炭だ!
フレイヤの手から火球が放たれた瞬間、その場から駆け出し、彼女の前に立って放たれた巨大な火球を殴りつけると一瞬にして火の粉となって消滅する。
「いくらデカく一瞬で破壊されるんだ……あの人とは真逆の能力ね」
「あの人?」
「退け! 邪魔よ!」
「ぅぉ!? 落ち着けってアンナ! こんなところで一人で暴走しても」
「うるさい! あたしは……あたしはあいつを殺さなきゃいけないのよ!」
「だからっっ!?」
アンナを必死に止めていたその時、突然体の奥底から何かが大きく膨らんだような圧迫感にも似た感覚が押し寄せ、思わず大きく息を吐き、腹を抑えてひざまずく。
な、なんだこれ……お、俺の中で何かが膨らんだような……う、動けねえ!
その時、手に着けていた手袋が一瞬にしてはじけ飛び、塵となって消え去った。
「な、なんだ……いったい何が」
「あ~。あの人の力に反応してるのね……ほら、着たみたい」
フレイヤがそう言いながら空を見上げた瞬間、上空にポッカリと大きな穴が開き、そこから白髪で俺よりも二、三歳年上と言った感じを抱かせる青年が出て来て地上に降り立った。
「やあ、僕のライバル」
「……誰だ、あんた」
「その様子だとまだワールド・ブレイクは発動していないみたいだね。残念だよ。僕のライバルがこんなにも弱い存在だなんて」
「だから誰だって言ってんだよ! ワールド・ブレイクって何なんだよ!」
「君の使っている魔法さ。全てを破壊する魔法、その気になれば世界をも容易く破壊する。そして僕は君とは全く逆の魔法を持っている」
そう言いながら手の平を返した瞬間、奴の手から白いオーラのようなものが噴き出し、一瞬にして消え去ると奴の手の中に一球のボールが握られていた。
あいつ、今までこんなボール握ってなかっただろ……転移させたわけじゃない……俺とは全く逆の魔法……破壊の全くの逆……まさか、創造。
「気づいたようだね。僕の魔法はワールド・クリエイト。全てを創造する力であり、世界をも想像することのできる力さ! 全知全能の神にも等しい!」
「そしてその全知全能の神である妻がわ・た・し。私はこの世界は嫌いなのよ。貴族・大貴族の使命だとか女王陛下が~とか魔法が存在する世界そのものが私は嫌いなの。だから創るのよ」
「そう。創るのさ」
「「魔法の存在しない世界を」」
魔法の存在しない世界を作るってことはこいつ、俺の世界と全く同じものを作ろうって言ってるのか……ただ単に理想として言っているのか、それとも俺の世界が存在していることを知っての発言なのか……そう言えば壺に吸い込まれて女の子2人に会った時、2人目の異世界転移者だって言ってたな。
まさかその一人がこいつ。
「そのために……そのために母さんと父さんを殺したっていうのか!?」
「うん。だって行くな行くなってうるさいし。次期当主はアンナでいいじゃんって言ったんだよ? 魔力量も申し分ないし、私の足元には及ばないけど十分当主の役目は果たすって太鼓判を押したのにあいつら私じゃダメだっていうからさ。思わず焼いちゃった」
「ふざけるな!」
アンナが走り出した瞬間、突然目の前に大きな壁が出現し、そのまま壁に顔から突っ込んで痛い音を辺りに響かせながら背中から倒れた。
全てを生み出すワールド・ブレイク……こんなことまで……しかも離れた場所に一瞬で。
「そうそう。一つ教えておいてあげるよ。彼女が配っていた凶精霊、あれは帝国が創り出した物。そこまではもう気づいているだろうけどエウリオス学園は皆、それで魔力の底上げやってるよ」
「エウリオス・グラヴィニア……やはりあいつは」
「そしてもう一つ……彼は貴方のことをとても憎んでいるよ。学園長」
奴がそう言った瞬間、足元に魔法陣が展開され、奴らはどこかへと転移していった。