第二十二話
イリナの指摘は的中しており、行き止まりに到達するごとに周辺の草の壁に魔法陣が描かれたメモ用紙が埋め込まれており、それを使って行き止まりの草を燃やすと本来進むべき道が目の前に出てくる。
たまにメモ用紙がない時もあるけどその場合は本当にその行き止まりは行き止まりという事とし、別の道を探すようにしている。
多分、イリナと一緒に行動していなかったら俺絶対に迷ってたよな。
徐々にゴールに俺達が近づいてきているのかどこからともなく魔法が俺たちめがけて放たれてくるがそれらは全て俺の破壊魔法で破壊していく。
別にイリナの魔法でも良いんだけどこのあまりにも広大な迷路の景色などほとんど同じような物なので生徒がいるところに転移してしまうかもしれないという事で俺がすべて破壊している。
「今度は上空から落石ですわ」
「任せろ! せいぃ!」
上空から降り注いでくる岩石を一つ一つ破壊していく。
この程度の岩石じゃ触れただけで破壊できるぜ!
最後の一個を破壊しようとした次の瞬間、その岩石に赤い魔法陣が浮かび上がり、そこから岩石を覆い尽くすように炎が放出され、燃える岩石が俺たちめがけて落ちてくる。
「イリナ! あの近くに頼む!」
「いってらっしゃいな」
一瞬だけ視界がぶれたかと思えば燃え盛る巨大な岩石の近くへと転移する。
「一発目!」
殴りつけた瞬間、岩石を覆っていた炎が消え去り、岩石にも無数のひびが入るが大部分を炎で使ったためか一瞬で破壊しきれない。
「二発目! だぁぁ!」
無数にひびが入った岩石を殴りつけた瞬間、ひびが入る間もなく一瞬にして岩石が砕け散り、地上に無数の岩石の破片が降り注ぐ。
たとえ別の魔法でコーティングしていても二回、殴りつければすべてを破壊できる。
「よし、先行くか……ん?」
先へ行こうとした時、目の前に巨大な魔法陣が展開されたのが見え、思わず立ち止まった瞬間、そこから大きな手が出てきて地面に叩き付けられ、周囲を軽く揺らすほどの衝撃が走る。
巨大な手に続くように頭、胴体、足と続いて出てきてその全容は全身を岩石で作られたような感じを抱く巨人のような姿をした怪物だった。
「ゴーレムですわね」
「ゴーレムだろうが何だろうがゴールはもうすぐ! 邪魔をする奴はすべて破壊してやる!」
突き出されてくる巨大な拳目がけて俺も腕を突き出す。
――――刹那
「っわぁ!?」
突然、ゴーレムの足元に巨大な赤く輝く魔方陣が出現したかと思えばゴーレムを一瞬にして包み込むほどに太い火柱が空に向かって放たれて周囲を赤く照らす。
炎に包まれたゴーレムは一瞬にして破片となって火柱の中で消滅し、それと同時に火柱も消滅するが魔法陣が展開されていた地面に腰ほどの長さもある赤い髪をした女性が立っていた。
その女性を見た瞬間、俺は何故か既視感に襲われた。
……なんだこの感覚……今までに見たことがあるような感じだ……こいつがだれかは分からないけどただ一つ分かることはこいつは部外者だってことだ。
「っっ! イリナ!」
叫ぶと同時に俺達がその場から転移した瞬間、足元に魔法陣が展開されてそこが爆発を起こし、地面に大きな穴が開く。
な、なんて速度だ。今までに見たことがないくらいに魔法の発動時間が短い!
「おぉ~中々の反応速度。見たところ破壊魔法は全身で使えるけど両手以外は集中していないと使えないほど影響が薄いのね」
「……あんた誰だ」
「私はフレイヤ。よろしくね」
よく分からないけどこの人を見ていると本当にどこかで会ったことがあるみたいに既視感に襲われる……でも俺の記憶にこんな人と出会った記憶は一切ないし、喋った記憶も無い。
いや、それ以前にこの塔がある場所は学園の所有地だから部外者が入れば不可視の膜に引っかかってすぐに情報が学園長に行くはず……どうやってこの中に入ってきたんだ。
「気を付けてください、ユージさん」
「あぁ、分かってる……強いな」
今の魔法を見ただけで分かった。
この人は俺達なんかじゃ相手にならないくらいに強い……。
「なんでここに入ってきた」
「ん~いうならば様子見かしら? どこまで強くなったかのね!」
「っらぁ!」
放たれてきた火球を殴りつけ、一瞬で火球を破壊するが上空から炎の矢が俺めがけて降り注ぐ。
今の火球は俺の意識を逸らすための物!
両こぶしを握り締め、迎え撃とうとしたその時、上空から炎の槍が消え去り、女性に向かう形で炎の槍が転移されるが炎が噴き出し、槍を掻き消す。
「なるほどね~。ま、戦いなれていないっていう事も考えればまあまあかしら」
「何がだよ」
「別に~。その程度じゃまだあの人の足元にも及ばない」
「何言ってんだよ」
「そのうち会えるわ。あの人曰く、出会うのは運命らしいからっっ!?」
直後、突然女性が地面に膝をついたかと思えば徐々に女性の体が地面に抑えつけられていく。
この魔法は重力魔法……まさか!?
振り返るとそこには女性に向かって手を向けているグラン先生の姿があり、こっちの方にゆっくりと近づいてきていた。
「お久しぶりね、グラン」
「出来れば会いたくなかったよ、フレイヤ」
グラン先生とは知り合いなのかフレイヤとかいう奴は徐々に押さえつけられていく痛みに苦悶の表情を浮かべながらそういう。
知り合い……なのか?
「君の魔力を感じてすぐに飛んできたのさ……フレイヤ、君はいったい何を考えて行動しているんだ」
「ふふっ。私の想いは誰にも分らないわ。出来れば貴方とも話したいのだけどあの子に見つかったらまた面倒なことになるし、もう帰らせてもらうわ」
「させると思うか?」
直後、女性の足元に黒色の魔法陣が展開されると女性の体がふわりと持ち上げられるが相変わらず女性は苦悶の表情を浮かべたまま。
もしかして上からは押さえつける重力、下からは無重力を発生させてるっていうのか……もう意味わかんねえ次元の魔法じゃねえか。
「相変わらず押しつぶすのが好きの様ねっっ……でも!」
「っっ!」
「うわっ!」
「きゃぁ!」
女性が指を鳴らした瞬間、目の前で巨大な爆発が起き、先生が展開していた魔法陣ごと周囲一帯を吹き飛ばした。
爆風が止み、顔を上げてみるともうそこにさっきの女性の姿は無く、ただ地面に大きな穴が来、そこから黒い煙が噴き上げている光景しか残っていなかった。
「……相変わらず君も膨大な魔力を使うものだ」
どこか寂しそうな先生のその声だけがこの空間内に響いていた。