第二十一話
「テスト? 魔法の?」
「一月に一回、行われているものですがデータ取の面が強いのでそこまで気にすることはありませんわ」
「しかも今日なんだろ?」
「ええ」
翌日の朝、朝飯を食い終わった俺に唐突にイリナがその話をし始めた。
一月に一度行われるそのテストは学園の領土となっている特殊な塔があるらしく、そこでそれぞれの魔法に分かれテストを行うらしく、課題はクラスで与えられるらしい。
行事はいっぱいあるわ、テストはいっぱいあるわ……あ、でも行事がいっぱいあるからそれを補うためのテストなわけか。
確か女王様がこっちに来るのも明後日って言ってたからその前にやるべきことはじゃんじゃんやっておこうっていう魂胆なわけか。
「その塔っていうのはなんなんだよ」
「学園所有の物ですが次元魔法で各階層を分けているので見た目は細長いですが中は広大になっていますの。一階は属性魔法、二階は強化魔法、三階は超常魔法といった具合に分かれていてそれぞれの課題をこなすために一日をかけて行われますわ」
「魔法って三種類だけじゃないのか?」
「大まかに分ければそうなります。次元魔法も超常魔法の一種ですし」
なるほどね。超常的な現象を引き起こす魔法は全て例外なく超常魔法に分類されるっていう話か。じゃあ俺の魔法もそうなんだろうけど破壊魔法って超常的なものなのかな?
まあ、触れただけで破壊できるっていうのは俺くらいだし、他の奴らが魔法を使うときに出してる魔法陣だって出したことないし。
「イリナの魔法使うときって魔法陣でないよな」
「私はそのプロセスを省略しているだけですわ。より正確に、より遠くに行く場合は魔法陣を出しますが」
「なるほど」
気のせいか、最近イリナの受け答えがだいぶ柔らかくなったというか好意的になったというか……まあ、俺のことも認め始めてるってことでいいのかな。
その時、始業を合図するチャイムが鳴り響くと同時に教室の扉が開き、いつもの面倒くさそうな表情をしたグラン先生が入ってきて速攻で椅子に座って教卓に突っ伏す。
この人マジで教師なのか疑いを持つわ。
「あ~今日はテスト……面倒だ……イリナ・エルスタイン。君の魔法で私たちを飛ばしてくれ」
「よろしいのですか?」
「良いよ良いよ。私が許可する。ほれ」
そう言いながら先生の手が出される。
イリナが大きくため息をついた瞬間、一瞬にして教室から塔があるという場所へと転移した。
イリナの魔法は以前の上級討伐クエスト内で一段階覚醒を果たしたのでたとえ触れなくても視界に対象物が入っているかつ頭の中に転移する先の景色があれば転移できるようになった。
だいぶ重宝しているらしく、しょっちゅうイリナは重い荷物などを自分の部屋へと転移させ、みんなのうらやましい視線を一身に受けながら調子よく生活している。
本当に羨ましい。俺なんか手袋付け忘れることよくあるから破壊しまくるし。
「にしても……低いな」
「三階層ですが中は広大ですわよ」
もっと背の高い物かと思っていたけど目の前にある実物の塔は本当に一戸建てマンション三階建てとほとんど同じ高さであり、塔の幅もそこまで広いわけじゃない。
でも中に入ったら次元魔法をかけられているから遥かに広大なんだよな……やっぱ魔法って凄いわ……でもなんで先生だけ、教卓と机ごと転移してるの?
「では課題を発表する。超常クラスの課題は巨大な迷宮のゴールを目指すこと。ゴールにたどり着くためならば道を破壊しようが転移しようが構わない」
「迷路ですか? 簡単じゃん」
「ふふふ、その余裕、いつまで続かな? では頑張ってきたまえ」
グラン先生が指をパチンと鳴らした瞬間、俺達の足元に大きな魔法陣が出現する。
「っしゃっ! イリナ、行こうぜ!」
「そこまで気張らなくても」
その瞬間、魔法陣から放たれる輝きが俺達の視界を塗り潰した。
―――――☆―――――
「今年もこの季節がやってきたか」
「学園長。今年はどんなギミックを組み込んだんですか?」
「ん? 色々。さ~て、一番最初にゴールするのは誰かな?
――――☆―――――
輝きが失せていくのを感じ、目を開けると塔の外観からは考えられない程、景色が広がっており、端の方は全くと言っていいほど見えない。
ただの塔なのにここまでの広さを誇る空間を入れられるなんて次元魔法ってどんなに凄いんだよ。
どうやら迷路は草で出来ているらしく、どこを見ても草しかなかった。
俺達よりも先に侵入している奴らがいるのかと奥の方から爆発音や他の奴らの悲鳴などがこっちにまで木霊してくる。
「要するにまっすぐ進めばいいんだろ?」
「それもどうかと思いますが……とりあえず道に従って進みましょう」
イリナの指示に従い、道に従って迷路を突き進み始めるがさっきから地面に穴や草に焦げた跡が残っているのがやけに目につく。
「い、行き止まりかよ」
「随分と早くに行き止まりに着ましたわね」
「う、うるせぇ。こうなったら壁を破壊して突き進んでやる!」
手袋片一方を外し、壁を殴りつけると一瞬にして壁が粉々に砕かれ、新たな道が見え、そこを突き進んでいくがまたもや行き止まりに辿り着き、もう一度壁を粉々に砕いて新しい道を見つけ、突き進んでいくがまたもや行き止まり。
こんなにも広大な迷路なのに何でこんなに短時間で何回も行き止まりに辿り着くんだよ! だから俺迷路とか嫌いなんだよな!
「ま、また行き止まり……もう勘弁してくれ」
「……もしかして」
「どうかしたのか?」
急にイリナが草の中に手を突っ込んでゴソゴソと探り始めた。
そして何か見つけたのか手を草から引き出すとその手には何やら正方形に切り取られたメモ用紙のようなものが握られており、小さな魔法陣が描かれている。
「なんだそれ」
「さっきから草や地面に穴が開いていたり、焦げていたりと不思議だったのですわ。超常魔法で穴は開けれど焦がすのは難しいですから。ですからどこかに隠されているのかと思って探してみたら」
イリナが紙を軽く握りしめた瞬間、描かれている魔法陣が淡く輝きだすと空中に魔法陣が映し出され、そこから小さな火球が生成され、草の壁に向かって放たれる。
もちろん草は炎によって燃やされるんだけど草が燃え、消えたその先に新しい道が見え、しかも一直線に伸びている。
「なるほど」
「何が?」
「ただの草だと思っていたのですがこれはマジックフラワーの一種ですわ。ある条件を満たした魔法の一撃をぶつけるとそのまま消えますが条件以外の魔法をぶつけた時は相手に幻覚を見せる」
「お前凄いな。よし! このまま突き進むぞ!」
――――☆―――――
「じゃ、お願いできるかしら?」
「どうしても行くの? 今行く必要はないんじゃないの?」
「あら。貴方がライバルの調子を見に行きたいって言ったんじゃない。でも貴方は仕事があるからいけない。だから私が貴方の代わりに行くのよ」
「殺さないでよ? ただでさえ君は手加減が下手なんだから」
「分かってるわよ。殺さない程度の炎で焼くから」
「不安だけど任せるよ」
「フフッ、じゃ行ってくるわ」