第二十話
俺のいた世界で換算すると恐らく五月も末に入ったのか暑い日が若干、出てき始めた今日この頃、どこか学園内はそわそわしたような雰囲気に包まれていた。
今は食堂にいるんだが食堂にいる男子も女子もみんな一様にニコニコしており、何かプレゼントを待っている小さい子供みたいな感じを覚える。
「なあ、何かあるのか?」
「何がですか?」
「いや、何がですかってなんか最近、みんなニコニコしてるし」
「そうですか? もしかしたら」
「なんかあるんだ」
「ええ。以前、クエストをやったでしょう? その評価が今日、発表されますのよ。さらに優秀者には学園長から褒賞がいただけるとか」
納得。通りで連中がそわそわしてニコニコしてるわけだ。確かに何事の成績発表においても発表当日はそわそわするもんだしな。
でも多分だけど連中が欲しがってるのは優秀者に送られるっていう学園長からのご褒美なんだろうな。
にしても何を貰えるんだろうか。向こうの世界じゃどの道、生徒に褒美をあげるのはあまり好まれてなかったから賞状くらいしかもらえなかったけどこの世界じゃ普通に何かあげるのか?
そうじゃないとここまでのニコニコは説明できないしな。
「その褒美って何が貰えるんだ?」
「年によって変わりますわ。学園長の気分が良ければ相当なものを、良くなければ嫌がらせとしか思えないほどの褒美を。ですが重要なのは物ではなく学園長から褒美を頂いたという事ですわ」
確かにこの学園の一番偉い人から褒美をもらうってことはそれだけの実力を評価・担保されたようなものだし周りに若い間は誇れることだな。
「なるほどね~……ま、俺には無い話だろ」
「上級クエストを一年生でクリアするのは異例ですがね」
「あれは三人でやったからだろ。一人じゃ死んでたわ」
「ま、それもそうですはね。恐らくその時の成績は三等分されるでしょう」
死にかけたあの上級クエストの後にチーム全体の討伐クエストをやったんだけどそれがもうあまりにも簡単すぎて五分でケリがつき、一番最初に学園に戻ってきて学園長に驚かれたわ。
まあ、下級だったしイリナとアンナだけで終わったようなもんだし、俺なんか止めの際にアンナが全力で魔法使ったせいで落石が発生してその落石の後始末したくらいだし。
「それに女王陛下による演説もありますし」
「演説? 学園に?」
「ええ。この時期になると新入生向けての演説をなさりますの。この国にあるすべての魔法学園で」
「なるほどね」
学園長からの褒賞に女王様からのお言葉か……俺はそこら辺はよく分からないけどこの国のトップについている人の言葉を聞けるのは中々レアだしな。
「そろそろ教室に行くか」
「ええ、そうしましょう」
―――――☆―――――
「おめでとう」
「何故に?」
放課後、寮の部屋に戻るとドアの間に紙が挟まれていたのでそれを取ってみると学園長から出今すぐに学園長室に来いと書かれていたので学園長室に向かい、入るや否や、その言葉をかけられた。
ちなみにグラン先生も普通にいる。
「今回のクエスト遂行において君が最優秀と判断されたのだよ。もちろん君一人だけの力でないことは分かっているがチームを纏め、イリナ・エルスタインの魔法の覚醒にも携わったという事だ」
「はぁ……どうも」
「なんだ? 嬉しくないの? 寝るぞ?」
「あ、いやいや、そういうわけじゃなくて……なんというか俺、こういう公の場で褒められたことなくて」
自慢じゃないが小学校から中学卒業までに卒業証書以外に表彰状なる物を貰ったことは一度も無いし、先生から褒められるようなこともしてこなかったので結構こういう体験をするという事は意外だった。
それに今回のクエストはあの三人だったから行けただけであってあの三人のうち、誰か一人でも欠けていたらクリアできなかったし。
「ふむ、そうなのか。ま、とりあえず受け取っておきなさい。でだ、今回の私からの褒賞は」
そう言いながら学園長に後ろに置かれていた大きな木の箱を引きずりながら俺の目の前まで持って来るとその箱の蓋を勢いよく開ける。
中を覗いてみると木箱に入っていたのは手袋、それも二枚や三枚レベルではなく百枚くらいあるし、よく見たら今俺がつけている魔力を封じ込めている手袋と全く同じもの。
「この魔力を封じ込める手袋を君に贈呈しよう」
「良かったじゃないか。これで外に買いに行く必要がないな」
…………寝不足先生と面倒くさい先生はいったい何を考えてこの手袋を俺に贈呈しようと思ったんだろうか……これはギャグなのか? それともマジなのか? ギャグと捉えるならばツッコもうとも思うけどマジならばツッコんだら負けな気がする。
「あ、ありがとうございます」
「ん。じゃ、これで私は寝る。だから君は帰っていいよ」
「そ、それだけですか?」
「それだけ」
そう言いながら学園長は毛むくじゃらのソファに横になり、グラン先生もさっさと帰れと横目でそんな感じに雰囲気で伝えてくるので俺は手袋が百個くらい入ったお置き場木箱を持って学園長室から出た。
―――――☆――――――
「出ていったか?」
「はい」
グランの返答を聞き、学園長は横になっていたソファから起き上がると普段の眠たそうな目はどこへ消えたのか真剣な眼差しで椅子に座る。
「さて、君の目から見て彼はどうかな?」
「おかしな点があり過ぎます。過去を遡ろうにも遡れるほどの情報量が少ない上に出生記録にさえ彼の名前はありませんでした」
「そうか……まあ、そこら辺どうでも良い。で、魔法に関しては?」
いつもの面倒くさそうな表情をさらに面倒くさい色を濃くし、グランは話し始める。
「正直に言いますと触れただけで破壊する魔法は聞いたことがありません。ある特定の魔法だけを無効化する魔法はあれど彼の様に手で触れるだけで全てを破壊、さらに魔法陣の展開、および魔力の消費すら見られないことから言いますと本当にあれは魔法なのか、という疑問さえ湧きます」
本来、魔法を使用する際は魔力を一定量消費したうえで魔法陣を展開、そこから魔法を発動させる。
中にはそのプロセスを省略し、魔法陣を展開せずに魔法を発動する上位クラスの魔法使いもいることはいるが魔法使いは例外なく魔力を消費する。
「だろうね。あんな魔法、私でさえ知らないよ。無効ではなく破壊。一応、あの手袋で魔力を抑えるという事にしてあるが実際は吸収し、こちらへ送るようにしているだけの物。そろそろ最初に渡した物も限界が近づいているのでね」
本来、何も持っていない彼がこの名門と言われているサバティエル魔法学園に入学することは不可能であり、よっぽどのことがない限りはできない。
が、彼は研究対象として入学しており、彼が知らないところで実はすでに研究は始まっていた。
「数十年は使えるという代物がたった一カ月そこらでですか」
「うん。それにあの魔法、一応、超常魔法という事にしてあるが既存の枠組みに入れておいて良いのかさえ分からない。魔力を調べようにもその魔力自体、彼以外の人間が触れれば触れようとした物が破壊されてしまう。事実、不用意に触れた研究員が一人、小指の骨が」
「折れた?」
「折れたというよりも破壊されていたよ。どんな治癒魔法でも治せなかった」
「治癒魔法でさえ治せない破壊をもたらす魔法……凄まじいですね」
「仮にあの魔法を既存の枠組みから外へ出そうとするならば……新たな概念が必要かもしれない」
「強化・超常・属性しかないと言われている魔法に新しいものを」
「言うならば……神魔法」
「そこまでいきますか」
「触れた物を問答無用で破壊するんだ。神と言っても過言じゃない……もしも仮に彼がこのまま成長し、何らかの要因で敵へ回ったとすれば彼は世界を破壊するかもしれない」
「……なるほど」
「彼の魔法に名前を与えるとするならば」
学園長は少し間をあけ、言い放つ。
――――――ワールド・ブレイク。