第十九話
中途半端な終了だったので今日だけ三話更新です
「……」
「学園長、どこ見てるんですか?」
「いやな……また一人、壁を超えたかと思ってね」
「……イリナ・エルスタインですか」
グランの質問に学園長は首を縦に小さく振る。
魔法は才能によって発展するところもあるが超越者と呼ばれる次元にまで達しようと思った場合、それは才能だけでは到底到達できない。
才能だけで行けるのは上位陣の下の方だけであり、そこから先はもう一つ、大切な物が必要になる。
魔力は人間に宿る未知なる力であり、研究が進んでいる今でさえ、魔力が人間に及ぼす影響というものは計り知れないと言われている。
その魔力が人間に影響を及ぼす際に最も必要なものとされているのは
――――――人の想い。
「想いによって魔法は進化する。その存在が願ったものを叶えるために魔法はもっともその願いを叶えるために必要な形へと変わる……君はいったい何を願ったのかな~? イリナ・エルスタイン」
―――――☆――――――
「っっ!?」
拳を突き出すが目の前から突然超巨大な火球が消え去り、俺の拳が空を切った瞬間、上空から凄まじい爆音と爆風が地上へと叩き付けられる。
爆風によってバランスを崩した時、見えたのは俺の目の前に会ったはずの超巨大な火球が遥か上空にいつの間にか移動しており、そこで爆発四散している様子だった。
何が起きているのか全く理解できていないままアンナに回収され、地上へ降り立つ。
「イリナ……あんたまさか」
「……触れなくとも移動が出来るようになっていますわ」
イリナが驚きながらそう呟く。
あの巨大な火球を動かしたのはイリナなのか……今まで触れた物しか動かせなかったイリナが触れずに視界に入っていて遠く離れているものでも転移できるようになったんだ!
「すげえじゃねえかイリナ!」
「喜ぶのは後よ。相手はご立腹みたいだし」
振り返ってみると俺達に牙をむき出しにし、威嚇行動を見せ浸かるかのようには出に大きく行っているフレアサンドラの姿が見える。
よっぽどあの一撃を往なされたのがイラつくんだ……魔物でもイライラっている感情は存在するんだな。
「2人とも。私のことはもう放っておいていいですわ。貴方たちの本来の戦い方で行ってください!」
「やっとか……じゃ、最初は私から!」
彼女が力強く地面を踏んづけた瞬間、奴の足元に巨大な魔法陣が展開され、そこからいくつもの火球が奴の腹めがけて放たれ、連続した爆発が起きる。
さらに上空に炎の槍がいくつも生成され、奴目がけて落ちていくが奴の口が落ちていく炎の槍へ向けられ、巨大な火球が放たれる。
「っっ!? すげえ!」
が、火球がやりに直撃する寸前に炎の槍が転移し、奴の腹へ瞬間移動し、奴の腹をしたから串刺しにする形で突き刺さり、大爆発を起こし、大きな奴の体を持ち上げる。
その時、奴の腹が赤く染まっていないのが見えた。
そうか! あいつの全身は溶岩みたいに炎が噴き出しているけど腹だけは炎が噴き出していない! という事はあそこなら俺でも攻撃できる!
「アンナ!」
起き上がった奴の口から火球が放たれるが彼女の前に俺が立ち、その火球を殴りつけた瞬間、一瞬にして火球が火の粉となって消滅し、間髪入れずに火球がフレアサンドラに着弾し、いくつもの大爆発が奴の体の上で起きる。
直後、背後で鞭を打つような音が聞こえ、振り返ってみるといつの間にかアンナの手元に真っ赤な鞭が握られていた。
「岩石の鎧に覆われたあんたには効かなかったかもしれないけど鎧がないあんたになら十分効く!」
ヒュッと空気を切り裂く音の直後に鞭が直撃する音が響きわたり、あれほど巨大なフレアサンドラが一瞬にして横たわらされる。
どれほどの威力を込めてんだよ。しかも直撃した瞬間に爆発したぞ。
さらに倒れ込んでいるフレアサンドラめがけて上空から火球がいくつも着弾するとともに鞭による打撃が連続して叩きこまれていく。
その姿はまさに火を纏ったドSの女王様にしか見えない。
「はぁ!」
フレアサンドラの腹の下で大きな爆発が起き、奴の体を大きく逸らせた瞬間に奴の背後に魔法陣が展開されてそこからアンナの鞭が伸びて奴の首に巻き付くとともに上空から炎の槍が二本降り注ぎ、奴の足に突き刺さってその場に固定する。
「ユージ! あんたが決めなさい!」
「あぁ!」
その場から駆け出し、赤くなっていない腹に向かっていくが奴の体からいくつもの火球が俺に向かって上空に放たれ、落ちてくるが地上へ着弾する前に火球が転移し、奴に降り注ぐ。
爆発が起きる中を腹を見せている奴めがけて全速力で走っていく。
イリナの本当の気持ちを叶えるためにもこのクエストを遂行しないといけないんだ! 人を喰らい、人を脅かす魔物・フレアサンドラ! お前の命は俺がここでぶっ潰す! たとえ世界を破壊することになったとしても俺はこの魔法で仲間を傷つける奴を
「すべてぶっ壊す!」
奴の腹に拳を突き刺した直後、周囲に破砕音が響きわたるとともにフレアサンドラから悲痛な叫びが木霊し、上からどす黒い色をした液体が降り注ぐ。
ビクビクと痙攣しているかのように小刻みに震えていたフレアサンドラの足も徐々にその震えが止まっていき、やがては完全に動きを止め、背中から地面に倒れ込んだ。
「……終わったな」
動かなくなったのを確認し、後ろを振り返るとホッとした表情をしている二人の姿が見えた。
「ん~疲れた。早く帰って休もうっと」
「そうですわね……ユージさん」
「ん?」
「そ、その……い、一度しか言いませんわよ。心して聞いてくださいまし」
「お、おう」
「……あ、ありがとうございます」
顔を真っ赤にして礼を言う彼女の表情は今までに見たことがないくらいに輝いている笑顔だった。
――――――☆―――――――
「あちゃ~。君が渡した凶精霊・ブラッククローバーが相手の手に渡っちゃったね。彼女頭良さそうだから破壊せずに学園長に渡しちゃうかもね」
「構わないわ。どうせあの凶精霊を調べられたところで私に何のダメージは行かないもの」
「ま、ダメージが行くのは帝国だから僕たちには関係ないんだけどね」
「ええ……貴方のライバルさん、着々と実力を上げていくわよ。貴方は胡坐かいてていいのかしら」
「うん、構わないさ。なんせ彼は悪、僕は善。この世界のルールでは悪は挫かれ、善は勝つのさ」
―――――☆――――――
「おぉぉ! よく帰った私のイリナ!」
そう叫びながら他人である俺たちの目など気にもせずにクエストから帰ってきたイリナを父親はギュッと強く抱きしめた。
まあ、悪そうな親父さんじゃないことは初めて会った時から分かっていたけどまさか娘を溺愛しているお父さんだったとは。
次女さんも嬉しそうな笑みを浮かべているけど相変わらず長女の方は面白くなさそうな顔をしてそっぽを向いている。
でも本当に誰が騎士隊なんか呼んだんだろうか……俺達は呼んでないしな……ん~。
「お、お父様」
「うんうん! イリナよ、学園に戻っていいぞ。私が悪かった。これからはお前の好きなように人生を歩んでおくれ。あ、せめて孫は見せてほしいぞ」
「お、お父様!」
まあ……良い家族じゃねえか。
ふとアンナの方を見た時、その横顔が心底羨ましそうなものに見えたのはきっと気のせいなんかじゃなかっただろう。