第十七話
眩しい感じがし、目を開けてみると窓から太陽の光が部屋に差し込んでおり、その光が部屋の中を明るく照らしていた。
まだ覚醒しきっていない頭の状態で眠い目を擦り、窓の外を見てみると雲一つない快晴で絶好のクエスト日和ともいえる最高の気候だった。
まあ、そのクエストが上級クラスのヤバい奴なんだけどさ。
既に2人は起きて一階で朝食をとっているのか既にベッドは綺麗に片づけられており、二人の姿は部屋には見受けられない。
「………行くか」
ベッドを綺麗に片づけ、一階へ降りるとテーブルについて既に食事を始めている二人の姿があった。
テーブルにつき、すでに用意されている朝食を食べ始めるが結構時間が経過しているのかパンはほんのり温かい程度にまで冷めていた。
「おはようございます、ユージさん」
「おう……」
そう言えばイリナに名前で呼ばれたのってこれが初めてか……それにどこかイリナの表情も昨日とは違って明るいというか。
「ついに今日ね」
「そうだな。寝れたか?」
「寝れたわよ。日ごろ私は疲れてるから」
「イリナは?」
「上々ですわ」
それは良かった。寝不足の状態でクエストに臨んだら全力が出せないかもしれないしな。
俺も今日は珍しくスッキリ起きれた方だし、今日のクエストには全力で取り組めそうだ……イリナが学園に戻るためにもこのクエストをクリアしないといけないんだ。
「念のため確認しておくけどロックサンドラは知ってるわよね」
「もちろん。体が岩石で覆われている四足歩行の魔物だろ? 肉食だし」
「肉食だけど実は鉱石も食べるわよ。今回、ロックサンドラが住み着いた鉱石跡地はマーライト鉱石の発掘地としても有名だった場所よ」
マーライト鉱石は確か魔力を流し込むと熱を発するっていう鉱石で数百年前までは部屋の暖を取る際に使われていたんだけどそれよりももっと効率的に熱を発する鉱石が発見されたからマーライト鉱石が休息期間に入ったんだよな。
「もしも命の危機を感じた場合は即座に戦闘を離脱、帰還するわよ」
「おう」
「ええ」
「っっし! じゃ、行くか」
――――☆――――
「アリナ姉さま」
「エリナ。何か用?」
「先生から聞きました。何らかの邪魔が入ってクエストが強制的に変更されたと」
「そう。残念ね。これでイリナは学園を退学、花嫁修業に従事できるじゃない。大体、末っ子だからって甘やかされると思ったら大きな間違いよ」
「……お姉さまはクエストクリアはできないと思っているのですね」
「……クリアできるとでも?」
「私はそう思います。イリナには仲間がいますから」
「あの平民の男でしょ? サバティエル魔法学園も落ちたものね。平民を入学させるなんて」
「ふふっ」
「何がおかしいの、エリナ」
「いいえ……イリナはきっとクリアして帰ってきますわ。なんせ予想外の事態に王族に騎士隊の派遣をお願いした人の妹ですもの」
―――――☆――――――
二つ目の村から馬車で一時間ほど走ったところに鉱山跡地となっている場所に村が存在し、今もなおそこには百人ほどの村人が住んでいるという。
避難するにしてもいつロックサンドラが出現するかもわからない状況の中で避難もできずそのまま怯えて暮らしているらしい。
既に村人たちには俺達が向う事は伝えられているだけでなく騎士隊による避難活動も既に完了していると先程、伝書鳩みたいな形で通達が来た。
エリート中のエリートが集った騎士隊……できればその人たちの手を借りずにロックサンドラを倒したいけど騎士隊が派遣されるなんて今聞いた話だ。
「着いたわね」
馬車が停車したので俺達が馬車から降り、村の中へと入っていく。
いつ何時ロックサンドラが俺達に襲い掛かってくるか分からないので既に全員、臨戦態勢を取り、いつでも魔法で迎撃できるようになっている。
村には人っ子一人もいないのか非常に静かだ。
その時、ほんの小さな揺れを感じた直後、凄まじい縦揺れが俺達を襲う。
その激しい縦揺れに耐えている俺達の背後で爆音が響いたので振り返るとそこには全身が岩石で覆われて長くて太い尻尾を生やした四足歩行の魔物―――ロックサンドラがいた。
どこが鼻なのか、顔が岩石で覆われているから全く分からないけど俺達を射抜く眼と食い殺さんとする大きな口だけははっきりと確認できた。
こいつを……倒す!
「イリナ、ユージ。あんた達は二人で行動しなさい」
「あぁ、行くぞ!」
俺の掛け声と同時にロックサンドラがこちらに向かって口から巨大な岩石を放ってきたのでその場から回避し、それぞれの方向へと散り、ロックサンドラを眼中に入れる。
相手の全身は厚い岩石に覆われていて通常の攻撃はなかなか通らないけど俺の破壊魔法ならばそんな岩石なんて関係なく破壊できる!
彼女と繋いでいる手袋をした手を強く握った瞬間、視界が一瞬だけぶれるとともにロックサンドラの上空へと転移し、背中に着地する。
「はぁ!」
背中に拳を叩きつけた瞬間、背中の岩石が破壊されるが相当の厚さがあるのか破壊したところの下にまた新しい岩石が見えた。
ロックサンドラが大きく身震いをし始めたので再び転移して背中から降りた瞬間、上空から火球がいくつも降り注ぎ、岩石の鎧が薄くなった部分に向かって集中して降り注ぐ。
俺が相手の鎧を破壊し、そこへアンナの炎をぶち込む。
倒しきるには時間がかかるかもしれないだろうけどこの方法が一番効率が良くて確実に相手を倒すことのできる方法。
「っっ! イリナ!」
「はい!」
ロックサンドラがその場で大きく回転し始めたのでそこから転移し、少し離れた所へ移ると俺達がさっきまでいた場所を太くて大きな奴の尻尾が通り過ぎていく。
あんな重い鎧みたいな岩石を担いでいるっていうのにあんな速度で回転できるとかどんだけ筋肉鍛えられてるんだよ。
ロックサンドラが俺に向かって大きく口を開けたかと思えばその口から巨大な岩石が放たれてくる。
「イリナ伏せてろ!」
彼女を伏せさせ、向かってくる岩石に拳を叩きつけた瞬間、一瞬にして岩石が粉々に砕ける。
直後、彼女によって俺だけがロックサンドラの背中へと転移され、意識を集中させて背中に着地した瞬間、足が触れている部分が粉々に砕け、ロックサンドラの悲鳴が響きわたる。
振り落とされない様にロックサンドラの背中を走り、次々に背中の鎧を破壊していく。
「でやぁぁ!」
全力で拳を叩きつけた瞬間、先程以上に鎧が薄くなったこともあってか一瞬にして岩石の鎧の大部分が粉々に砕け、ロックサンドラの体が少し細身になる。
こいつ一体どれだけの岩石を鎧として着こんでいたんだよ!
「ユージ退きなさい!」
「イリナ!」
一瞬にして俺の目の前にイリナが移動し、手袋をした手で彼女の手を取った瞬間、一瞬にして奴の背中から転移し、離れた場所に移動した瞬間、ロックサンドラの足元に巨大な魔法陣が展開され、そこから巨大な火柱が立ち上り、ロックサンドラを一瞬にして包み込む。
さらに追撃として周囲に炎の槍がいくつも生成されて炎に包まれているロックサンドラに向かって連続で放たれる。
その度にロックサンドラの悲痛な悲鳴が周囲に木霊する。
その時、視界の上の方で何か明るいものを感じたので見上げて思わず驚きのあまり口が開いた。
上空にはアンナが滞空しており、その頭上には巨大な火球がいつの間にか生成されており、未だにその大きさが増していっている。
入学式の時の先生のあの一撃以上の魔力を感じる! これが炎帝・プロメテウス家の娘であるアンナの炎魔法の威力!
彼女の手が下に向けられた瞬間、その超巨大な火球がロックサンドラめがけて放たれ、俺達が思わずその場に伏せた瞬間、凄まじい爆風と爆発とともに俺達に熱風が襲い掛かる。
さらに連続で火球を相手めがけてぶつけているのか連続して爆発が起き、爆風が周囲に何度も放たれては地面を抉っていく。
よ、容赦ねえなおい!
爆音が止み、顔を上げてみると煙の中に倒れ込んでいるロックサンドラの姿薄らと見えている。
ほ、ほとんどアンナがやったみたいな感じだぞ。
「終わったわ」
「お、お前凄いな」
「炎帝・プロメテウス家の炎は何者よりも強力……流石の一言ですわ」
口々にアンナを褒め称える言葉を吐く。
―――――刹那
―――――グオォォォォォォォ!
「「「っっっ!?」」」
そんな凄まじい叫び声が周囲に木霊する。
まだ戦いは終わっていなかった。