第十六話
二つ目の村はまあまあ近い場所にあるらしく、そう時間はかからないらしい。
「アンナって凄いんだな」
「そう? あの程度お………私の家じゃ当たり前よ」
今、何か言いかけたか? まあ、追及するのもあれだから何も聞かないけど。
「確か炎帝ってうたわれてるプロメテウス家だっけ? やっぱ炎の魔法が伝統なのか?」
「ええ。プロメテウス家はかなり古い歴史があってエルスタイン公爵家なんか目じゃないくらいに歴史があるのよ。炎の神と言われているプロメテウスから炎を受け取ったところから始まったとされているわ」
これまたえらい時代から話しが始まってる名家だな。俺の家なんか先祖辿っていってもそこら辺の百昇華農民の家の息子くらいにしか辿り着かないぞ。
というかこの世界にも神話体系みたいなものはあるんだな……となると魔法は神様から渡された偉大な物っていう考え方もあるのか。
……じゃあ俺にこの魔法を渡したあの子も神様の一人なのか?
「にしてもまさかあんな一瞬で終わるなんてな」
「彼女が異常なだけですわ。あの植物は炎魔法に対して耐性がある植物。元々は我々人間が生み出した物なのですがそれが突然変異を繰り返してああなったと言われていますの。それを問答無用で燃やし尽くす彼女はまさに異常ですわ」
その一言に今度はアンナが黙りこくってしまい、馬車の中は凄まじく気まずい雰囲気になり、外から聞こえてくる音がやけに大きく車内に響く。
何か空気を変える話題をかけようとするがこの世界に通用する話題が見つからない。
まずい……何かいい話題は無い物だろうか。
「ま、そ、それはともかくさ。イリナに配布された討伐クエストは誰を狩るんだよ」
「そうでしたわね……」
イリナはポケットから一枚の用紙を取り出すがまだ見ていなかったのか封が開けられていない。
封を開け、中に入っている用紙を見たイリナの表情が一瞬、驚いたものになったかと思えば一瞬にして青ざめ始めた。
「イリナ?」
「……無理ですわ」
「何がよ。見せなさいよ……ロック・サンドラ」
アンナが呟いたその名前に聞き覚えがあった。
確か書庫で魔物の勉強をしている時にロック・サンドラっていう名前があった。
確か人の匂いが集まっている地中に潜ってわざと地震を発生させ、その上に住んでいる奴らを一か所に集めた所を一気に地中から飛び出してきて喰らうっていう肉食の魔物で危険種指定もされている。
ロック・サンドラと戦う際は複数で戦うことが推奨されているけどそれでも危険種指定されているってことは相当ヤバい相手だという事。
「ロック・サンドラの討伐クエストなんて中級クラスじゃありませんわ」
「そうね。上級クラス……でもやるしかないんでしょ。ユージ」
「おう」
「今すぐに止めましょう。そうでないと関係ないあなた方が死んでしまいますわ」
「心配するな、イリナ。もし本気で死にかけた時はお前の瞬間移動で逃げればいい。それにイリナ……お前、あの学園に戻りたいんだろ?」
そう言うと何も言い返せないのかイリナはスカートの裾をギュッと握りしめ、顔を俯かせた。
「俺達のことは気にしなくていい。今はお前のことだけをやろう」
「なんでそこまで必死になるのやら。あんた入学式で初めて会ったんでしょ?」
「そうだけどさ……クラスメイトだし……それにイリナ一人じゃできなくて困ってたらクラスメイトとしては手を差し伸べたいじゃねえか。たとえそれが危険なことだったとしても」
祖父ちゃんに口酸っぱく言われたのは困っている人を見つけたら見てみぬふりはするな。
その困っている人を助けた恩は今すぐには帰ってこないかもしれないけどいつか回り回って自分自身のところに形を変えてやってくる。
そう言われてきた以上、クラスメイトが困っている様子を見たら放っておけない。
たとえそれが命の危険があったとしても出来るところまではやってそれ以上出来ないのであればそこまででそいつに謝ればいい。
イリナがせっかく学園に戻りたいっていう自分の気持ちを吐き出したんだ……その気持ちを無駄には絶対にしたくない。
「まあ、死にかけたらその時は逃げるけどな!」
「別に死ねと言っていませんし、何も言いませんわ……あ、貴方に死なれたら敵いませんわ」
「それどういう意味だよ」
「べ、別に何もありませんわ」
そんな話をしていると馬車が目的地に着いたのか停車したので降りてみると村人らしい女性が大きな荷物を抱えて馬車の近くに立っていた。
「サバティエル魔法学園の皆さまですか?」
「あ、はい」
「良かった。こっちです」
村人の女性の案内に従って歩いていくと向こうの方に大きな岩がいくつも落ちていて大きな道を塞いでいる光景が見えてきた。
土砂崩れってわけじゃないから落石か……にしてもこんな巨大な岩が落ちてくるなんて自然に囲まれたところにも思わぬ危険が潜んでるんだな。
でもこの程度の大きさなら俺の魔法で一発で破壊できる。
手袋外し、軽くその岩に触れた瞬間、ヒビが入る間もなく大きな岩が細かい欠片になって一瞬にして砕け散った。
その調子で道を塞ぐようにして重なり合っていた大きな岩を触れて破壊していく。
まさか俺の破壊魔法がこんなところで役に立つとは思わなかったけどこんな使い方もあるのか……また今度個人的にクエスト受けてみるか。
最後の一つを破壊し終わると町へ続く道らしい道が伸びているのが見えた。
「ありがとうございました! 私の村は町から遠く離れていてこの道だけが町へ繋がっている唯一の道で私たちの生命線ともいえる物だったんです!」
「あ、いえいえそんな……ところで村に宿ってあります?」
「はい。あ、よろしかったらそこをお使いになってください。私から言っておきますので」
その女性はそう言うとやや急ぎ足で街へ伸びている道を進んでいった。
「とりあえず今日は早いけどもう宿に行くか」
「そうね。明日はこれ以上にキツイ討伐クエストだしゆっくりしたいわ」
「じゃ、行きますか」
―――――☆――――――
「今のところは使う気なしね……ま、いずれ貴方は使うわ。きっとね」
「見つかるかもしれないのによく出来るね」
「あら、来ていたのね」
「まあね。ほら、ライバルを見にさ」
――――☆―――――
「……起きてしまった……ん?」
パッと目が覚め、窓の外を見てみるとまだ外は真っ暗でアンナはベッドで熟睡、イリナはどうかと彼女の方を見るがベッドに彼女の姿が無く、眠れる気もしないので起き上がり、宿の外へ出ると夜風にでも当たっているのか少し先のところにイリナの姿があった。
「イリナ」
「起きましたの?」
「まあ、なんというか……寝れないのか」
そう言うと彼女は何も言わずに俺の方から目線を逸らす。
この感じだと明日の討伐クエストのことで頭がいっぱいで眠れるどころの話しじゃないっていう感覚だな……まあ、明日は自分よりもはるかに上の魔物と戦うんだ。
俺みたいに熟睡できるほうが逆に凄いな。
「気にすんなとは言わないけどさ……もうここまで来たんなら後戻りはできないんだし、もう前を見て進むしかないだろ」
「それは分かってますが……」
「込み入った話聞くけどなんで長女はお前を目の敵にしてるんだ?」
「……アリナ姉さまは昔から長女という事でかなり厳しく育てられてきましたし、私は末っ子で父も今までの経験から甘やかすことも考えて育てていましたから」
典型的な姉妹間の嫉妬ってやつか。どうしても最初に生まれた長男・長女は厳しくしつけられてその後に生まれてきた妹や弟っていうのは最初に比べて甘やかされて育てられるもの。
俺だって妹はあまり怒られないことに最初は腹立ってたけど最近はもう諦めていた。
「そっか……ま、明日頑張ろうぜ。そんで姉貴のこと見返してやるぞ」
「……何故」
「ん?」
「何故、貴方はそこまで私にしてくれるのですか?」
「なんでってそりゃ、クラスメイトが苦しんでたら助けてやるのがクラスメイトの役目だろ。他の奴らは知らねえけど。じゃ、お休み」