第十五話
あれから数日が経過し、いよいよクエストが配布される日かつクエストを行う日がやってきた。
結局、チームは俺・イリナ・アンナの三人で組むことにし、アンナに無理を言って彼女の依頼もノーマルクエストへと変更してもらい、イリナの討伐クエストに集中できる状況にした。
与えられたイリナのクエストは地震を頻発させている魔物を討伐しろというものでサバティエル魔法学園から少し離れた場所にある鉱山跡地に眠っている魔物を討伐しろというものだった。
その魔物は地震を引き起こし、住人が家から出てきて避難しているところを襲い、捕食しているらしい。
「なるほどねぇ~。あんたにそんな事情があったなんてね」
「貴方にそのようなことをお願いするとは思いもしませんでしたわ」
「まあまあ。とにかくイリナの討伐クエストを完遂したいんだ。頼むな、アンナ」
「はいはい。で、最初に私たちのクエストを完了させてから行くわけ?」
「そっちの方が早くに終わるしな」
俺のクエストは町へ繋がる道に岩が数多く落ちて道を塞いでしまって生活に関わるから何とかしてくれというもの、アンナのクエストは毒素を発している植物を処分してくれというもので明らかに一日で終わるものばかり。
まあ、先生に頼んだんだけどさ。めちゃくちゃ面倒くさそうにしてたけど。
確か一番近い村でアンナのクエストを完遂し、少し離れた場所にある村で俺のクエストを完遂させ、そこで泊まらせてもらって翌日にイリナのクエストの舞台である鉱山跡地へと向かう。
鉱山跡地には大きな村があり、そこではまだ百人ほどの村人が残っているらしい。
「私に力があれば貴方たちを巻き込まずに済みましたのに」
「気にすんなって。クラスメイトのことなら辛くねえよ」
「私はクラスメイトじゃないんだけど……ま、なんとなく分かるから付き合ってあげるわ」
そう言えばアンナの家は炎帝・プロメテウスでアンナはそこの娘だって聞いたんだけどやっぱりプロメテウス家もイリナのところみたいに超がつくくらいに常識外れのお金持ちなのか?
でも入学式直後の行事の時にアンナに向かって落ちこぼれ貴族って暴言を吐いてたやつがいたし、よく分からねえんだよな。
本人に聞きたいけど他人の家のことまで詮索するのはナンセンスだろうし。
「私は昔から二人の姉と比べて魔法や知識の習得が遅かったのですわ。姉二人が一日で出来たことが私は一週間以上かかりましたし」
「気にすんなよ。人間数多くいるんだからそんな奴だっているって。俺なんかクラスの奴らが解けた問題で唯一、俺だけ間違えたことあるし」
「……私は修得が遅いだけで別にバカではありませんわ」
「それ遠まわしに俺の事バカって言ってる?」
「ドストレートに言ってるわよ、ユージ」
アハハハ~。あれ? なんだか視界が濡れてきたぞ?
「ようやく魔法が覚醒したかと思えば超常魔法。アリナ姉さまは属性魔法、エリナ姉さまは強化魔法。しかもその分野を極めていますわ。ですが私は未だに中途半端な威力。極めれば視界に入った物を記憶にある景色の場所へ転移できるのですが未だに私は手で触れた物しか転移できませんし」
ここでさっきみたいに気にするなよって言ったらそれはこいつのことを何も考えていない一言になるだろうし、かといって何も言わずにスルーするのも気が引ける。
「あんた、意外とどうでもいいことで悩んでんのね」
「……なんですって?」
「だってそうじゃない。魔法なんて個人の才能に大きく関係するだけよ。ただ単にあんたの姉貴たちは才能が大きかったからそんな若い年で極めてるのよ。そもそも魔法が覚醒している時点でそれ相応の才能があるっていう事よ。ただ単にあんたの才能は小さいだけ」
「……………」
そんな物々しい雰囲気の中、馬車が停車したので窓の外を見てみるとどうやらアンナのクエストの舞台となる村に到着したらしく、村人らしい人の姿が見えた。
馬車から降りると一人の初老の男性が近寄ってきた。
「サバティエル魔法学園の皆さまですか?」
「あ、はい」
「この村の長をしております。さ、こちらです」
村長に案内されて重苦しい大きな扉が開けられ、村の中へ入ると大きく傾いた木造の家に紫色のツタのようなものが巻き付き、屋根には大きく、赤色つぼみがあった。
あれが毒素をばら撒いてるっていう花のつぼみ。
「すげえなこれは」
「数年前から駆除を続けてきたのですが繁殖力が強くて」
「……家ごと燃やしたらいいのね?」
「はい。家はまた作り直せますので」
「分かったわ。二人は扉の外で待ってて。私が一瞬でけりつけるから」
アンナの指示に従い、俺達は扉の外へと出る。
でもこの村は結構大きい村らしいから生えまくっている植物を燃やすのあいつ一人で大丈夫なんだろうか……まあ、俺が触れて壊すよりもはるかに効率いい方法があるんだろうけど。
――――刹那
凄まじい爆音とともに空に向かって巨大な火柱が立ち上り、青空だった空を一瞬にして真っ赤な空へと変えてしまった。
あまりの衝撃の光景に俺達は驚きの声すら出せず、空に立ち上っている巨大な火柱の中で一瞬にして燃え尽きるつぼみや大量の葉っぱなどを見ているしか出来なかった。
な、なんて火柱だ……こんなものを魔法だけで生み出せるのかよ……これが炎帝と呼ばれているプロメテウス家の娘であるアンナの実力。
徐々に火柱が細くなっていき、完全に消滅したのを見計らって重い扉を開けると目の前に会った光景は先程見たものとは一変していた。
いくつもあった傾いた家は灰になっており、植物に至っては一切の痕跡すら見られず、茶色い地面はすすだらけになってぺんぺん草すら生えない程焦土と化しており、あちこちから煙が噴き出している。
村長も一瞬で変貌した目の前の光景に何も言葉を出せないでいる。
「地下に伸びているツタも今、燃やしてるから当分は住めないくらいに暑いとは思うけど数カ月もすれば全部燃やしきって住めるはずよ」
「あ、ありがとうございます。流石はサバティエル魔法学園の方です」
王族に血筋を残した名家中の名家であるエルスタイン公爵家の娘に炎帝と謡われているプロメテウス家の娘であるアンナ、そして一般市民どころか異世界からやってきた俺……明らかに釣り合わなくないか?
あ、でも俺の祖父ちゃん戦争体験者……関係ないか。ごめん祖父ちゃん、この世界じゃ祖父ちゃんのこと自慢できそうにないわ。
最初の村を後にし、俺達は二つ目の村へと向かうことにした。