第十話
お披露目会2日目、初戦からアンナが出場したがここでもたったの一撃で相手を吹き飛ばし、決着をつけてしまったけどその一撃に誰も驚愕せず、試合すら見ない。
一番盛り上がったのは属性科2年でエースと言われているリアン・シャルマンの模擬戦で興奮のあまり立ち上がる奴もいたくらいに盛り上がった。
使った魔法は炎と固定されているわけではなく、属性として思い浮かぶ魔法のほとんどを使用し、相手に攻撃させる前に倒した。
アンナとリアン・シャルマン……いったいどっちが強いんだろうか。
「貴方は良いですわね。暇じゃなくて」
「勉強は良いのか? 今日は持ってきてないみたいだけど」
「ええ。夏季休暇までの分はもう終わりました」
早いな。俺なんかまだ五章あるうちの一章しかできてないのに……まあ、言語が違うから一つ調べるにも分からない文字があったらいちいち調べなきゃいけないしな。
ある程度は慣れたと言っても。
お披露目会2日目でもう半分以上の奴らが模擬戦を終えたらしく、暇そうに寝ていたり勉強したり喋っている連中がチラホラと見受けられるようになってきた。
まあ、1年生の俺達はともかくとして2年生や3年生は進路に大きくかかわる行事だからな。
真剣に取り組んで負けた後の反動も大きいか。
「……貴方は無いとは思いますが」
「何が?」
「最近、都市の方で凶精霊による被害が発生しているらしいですわ」
「確か凶精霊って使用したら魔力を大幅に上げる奴だよな?」
「ええ」
ふっ。これでも勤勉な国と言われた日本に生まれた高校生、学ぼうという意識は中々高いんだぜ? まあ、凶精霊っていう言葉を知ったのが昨日だったからハッキリと覚えてるってこともあるんだろうけど。
「それで使用したら副作用として魔力欠乏症に陥って最悪の場合、死に至るんだよな」
「ええ。言うならば凶精霊は油。魔力という炎に触れれば一定時間は強く燃え上がりますが時間が経てばたつほどその勢いは弱まっていくということですわ。掲示板にそれを使用しない旨が発表されていましたわ」
掲示板なんてあるんだ……今度この学園の探検にでも行くか。ずっと教室と寮、あと書庫と食堂しか利用しない学園生活っていうのも寂しいしな。
魔法学園の周囲に何もないのは万が一、生徒が魔法の使用を誤った際に被害を最小限に抑えるためだっていうのを昨日知った。
さらにこの学園を覆うように魔力による不可視の結界が張り巡らされていて誰かが入った際にその結界が反応して魔力を調べる。
学園関係者じゃない魔力の持ち主の場合はすぐに守衛の奴らを向かわせるらしい。
ほとんどが外からの客だったりすることが多いけど一応、生徒のことを考えてセキュリティーはちゃんとしてるらしい。
「暇だ……まだなのか? 俺の出番は」
「500名ほどいますからね。中々来ませんわ」
500人か……俺の中学マンモス校でも少ない方だったけどそれでも600人はいたからな……まぁ、そのほとんどが属性科と強化科の奴らで占められてるんだろうさ。
他の奴らは何列にも並んで座っていたのに超常科に至っては一列で済んだからな。
『トコヨユウジ君。君の番です』
「お、来た」
「無様に負けない様に」
「ま、頑張るわ」
観客席を出てフィールドへ出る通路に入ると教員が待っていてくれたのでその後をついていき、フィールドへ出る入り口を通ってフィールドへと出る。
相手はパッと見で強化系っぽいな……強化系と戦うときは気を付けないと俺の魔法で肉体にダメージを負わしてしまうかもしれないからな。
「では、これより……」
そこで審判役の先生の声が停まったので先生の方を見るとある一点を見ていたので俺もそちらを見ると昨日、俺が倒した2年の先輩が立っていた。
なんで昨日の人がいるんだ?
「アレウス君。君はもう」
―――刹那
「うぉ!?」
凄まじい爆風が先輩から放たれ、フィールドをゴリゴリ抉りながら突き進んでいき、観客席を護っている不可視の結界に直撃し、大きくコロシアムを揺らす。
慌てて先輩の方を見ると先輩から肉眼でも見えるほどに濃度が濃い魔力が全身から放たれており、その目は何故か赤く輝いている。
な、なんだ……いったい何が……もしかして先輩、凶精霊を使ったんじゃ!? 確か凶精霊は魔力量を大幅に上げる! 先輩の魔力はここまで多くは無かったはずだ。
先輩が軽く手を上げた瞬間、俺のすぐそばを衝撃波が通り、フィールドに深い穴をあけた。
水の魔法じゃない!
「2人とも早く避難しなさい! ここは私に」
直後、先輩がフィールドを叩きつけたかと思えばそこに巨大な魔法陣が一瞬で展開され、そこから莫大な量の水が俺たちめがけて噴き出す。
慌ててその場から駆け出し、先生の前に立って向かってくる水を殴りつけるように拳を突き出すと水が破裂し、俺を避けるようにして左右に分かれ、フィールドに打ち付けられる。
「先生! どうにかしてください!」
「凶精霊に憑りつかれてしまった場合、対処法は無いんだ」
なっ!? じゃあこの人は魔力欠乏症を引き起こすまで暴れてその後は死ぬってのか……まだ二十年年も生きていないっていうのに死ぬのかよ。
どうすればいいんだ……いったいどうすればこの人が死なずに済むんだ!
「うぉ!?」
フィールドにいくつもの魔法陣が浮かび上がり、そこから水で作られた球体が連続で放たれてくる。
その度に球体を破壊するがその間にも先輩の魔力は上昇を続けており、球体を生成する速度も数も少しずつ増してきている。
このまま一気に魔力が上昇した後はもう下がるしかない……このまま死ぬのをじっと待つしか俺達に出来ることはねえのかよ!
その時、上空に巨大な魔法陣が展開される。
「マズい……あんな広範囲、破壊しきれねえ!」
「ユージ君! 早く避難するんだ!」
「……くそっ!」
俺達がフィールドから避難を始めようとしたその時、魔法陣から無数の水の槍が俺たちめがけて降り注いでくる。
こ、こんな数防ぎきれない!
そう思った直後、俺達の目の前に炎のカーテンが敷かれ、こちらに向かってくる水の槍が一瞬にして蒸発し、消えていく。
「何もたもたしてんのよ」
「ア、アンナ!? なんでここに」
「貴方がもたもたしているのを見て私が連れてきましたの」
「イリナまで……悪い」
「それはそうと凶精霊か……何でそんなものに手を出したのよ。あいつは」
「一度、憑りつかれたら最後、魔力欠乏症を発症し、死ぬ」
確かにあの人は色々と面倒くさそうな性格してるけど……それでもまだこんな若い年齢で死ぬなんて……凶精霊を取り除く方法は…………そうだ。
俺の魔法はすべてを破壊する魔法。もしかしたらあいつに憑りついている凶精霊だけを破壊することが出来たらあの人を助けられるんじゃないのか?
「……一応聞いてあげるけど何か思いついたわけ?」
「あぁ……俺の魔法で凶精霊を破壊する」
「出来ますの? 貴方の魔法は触れた物を破壊する魔法。ですが凶精霊は精霊である以上、我々人間にはその姿を認識することはできませんわよ」
「……だとしても……こんなところで誰かが死ぬ様を見たくなんかない」
できないからやるなんてのは通用しない……やらなきゃあの人が死ぬんだ。成功しないとかできないとかそんなのよりも前に助けなきゃいけないんだ!
破壊してみせる……凶精霊だけを……あの人に憑りついている凶精霊だけを!
その時、凄まじい魔力の爆発を感じ、炎のカーテンが消えると前方にもがき苦しんでいる先輩から魔力が垂れ流しになっているのが見えた。
「もう時間がない! ユージ君、君にかけよう。責任は私が取る!」
「ありがとうございます!」
その場から駆け出した瞬間、俺に向かって大量の水の槍が降り注ぐが俺の周囲を囲うようにして炎が放たれ、一瞬にして水の槍を掻き消す。
今度は先輩の傍に展開された魔法陣から凄まじい勢いで水が噴き出され、地面を抉りながら俺に向かって振るわれてくる。
「このっ!?」
跳躍することで避けた瞬間、いつも以上に浮かび上がり、掠ることも無く余裕で避けれた。
後ろを振り返ることも無く、そのままただひたすらに先輩に向かって走っていく。
もう少しで先輩に届くという距離に辿り着いた瞬間、フィールドを割るようにしてしたから水が噴き出し、俺と先輩の間に大きな水の壁が創り出される。
直後、一瞬だけ視界がぶれたかと思えば壁の向こう側にいた先輩のすぐ近くへと転移していた。
皆が繋げてくれたこの瞬間は絶対に手放さねえ! 凶精霊! お前はいらねえんだよ! お前だけはこの俺がこの手でぶっ潰す!
「えあぁぁぁぁ!」
拳を握りしめ、先輩の腹に拳を打ち付けた瞬間、垂れ流しになっていた先輩の魔力が弾け飛ぶとともに先輩の体から紫色の輝きが何かに押し出されるようにして放出され、上空へ上がったと同時に破砕音とともに輝きが砕け散った。
先輩はそのまま膝から崩れ落ちた。
「…………一件落着」
――――☆――――
「というわけでお披露目会は中止、評価は全員一定評価となります」
「俺の勝った意味よ」
朝のSHRで面倒くさそうな表情のグラン先生からお披露目会についての連絡があった。
凶精霊騒動によりお披露目会は中止となり、評価は全員一定評価なうえに勝った奴も負けた奴も全く同じ評価だから一部上級生から不満が出まくったらしい。
そりゃそうだ。一回勝った奴と一回も勝ってない奴が同じ評価じゃ不満も出る。
で、その不満を消化するために今後、学校側で新しい行事を考えるというアナウンスを出したところ一応、不満噴出は止まった。
「仕方有りませんわ。あんな騒動が起きてしまいましたし」
「まぁ、そのうち新しい行事も始まるから我慢したまえ」
ハァ、先が思いやられる……でも……ま、これから先も普通に暮らせるし、良いか。友達みたいなのもできたしな。