キミを守るためにボクは豆腐になった。
「豆が腐って豆腐ってなんか縁起悪いよな…」
街を歩いてた時、偶然すれ違った若者がそう言った。
たしかになんだか縁起が悪い。誰がこの漢字を考えたのだろうか?
「あっ!今、思いついた。今日の夕食、豆腐にしよう!」
そう決めたオレは知り合いがやっている食料品屋に向かった。
「おう、久しぶり!何買いに来たんだい?」
食料品屋のおやじが元気よくそう言った。
「豆腐ください。久しぶりに食べたくなったもので」
「豆腐コーナは奥の左にいったとこだよ。あっ!そういえば、オススメの輸入ものの豆腐があるんだ。ちょっと待ってて…」
そう言うと、おやじは奥の部屋に入っていった。
「どうだい、これ。ザンジバルから個人輸入したザッパスっていう豆腐なんだ!おいしいよ!」
おやじは笑顔でそう言った。
「へ~赤い豆腐かぁ…。珍しいね。冷奴にして食べてみようかな…。おやじ!これ買うよ」
オレはその見た目とオリエンタルな香りに誘われてその豆腐を買った。
「う…。うまい!なんだこの豆腐…」
食卓に並べた豆腐を食べながらオレはそう唸った。
ただおいしいだけじゃない。決め手はその味だ。たぶん何かの辛い香辛料が使われているのだろう。
のどごしも丁度よく、プルリと胃の方へ落ちていった。
「いいもの食べたな。また買いにいこう」
その後、深い睡魔に襲われ、オレはぐっすりと寝てしまった。
「あぁ、もう朝か…。風呂入らずに寝てしまったみたいだな」
カーテンの隙間からのぞいた日差しによってオレは目を覚ました。
自分の変化に気がついたのは顔を洗いに行った時だった。
「あ~れ!?」
鏡にオレの顔が映る。
その時、初めて気がついた。
オレの顔が豆腐になっているのに…。
顔の変化に気づいた瞬間、オレはすぐに昨日のおやじに電話した。
「あっ!もしもしおやじ?聞いてくれ。顔が豆腐になった」
「おい、ちょっと待て。状況がつかめない。最初から説明してくれ」
おやじは冷静だ。
オレは自分に起きたことを一から説明した。
「すまん。正直、顔を元に戻す方法はわからん。これからの人生、豆腐として生きるしかなかろう」
おやじは冷静にそう言った。
「いやだよ」
オレはおやじにはっきりと言ってやった。
「あ~あれだ!カワイイ女の子のキスで元に戻るんじゃない?定番じゃろ?」
「いや、なんの定番だよ…」
オレは心の中でつぶやいた。
でも本当にカワイイ女の子のキスで元に戻れるなら…。
「まぁ、とりあえずうちに来い。一緒に解決策を探そうや。もちろん顔は隠してな」
おやじは気楽にそう言った。
「ったく。これじゃあ不審者だよ…」
水溜まりに写ったマスクとサングラスと帽子で変装した自分を見てオレはそう思った。
その時だ。
裏路地で男3人と女1人が言い争っている。どうやらナンパのようだ。女性はかなり困っている。
見て見ぬふりをしよう。最初はそう思った。
でもそれでいいのだろうか?
女1人助けられない男(豆腐)でいいのか?
いや、ダメだ。
助けよう。
オレは女性を助けに向かった。
「た、助けてください…」
囲まれてた女性がこっちに来た。
「あ~邪魔すんなよコラ!今、いいとこなんだよ!」
男達もこっちにやって来た。
「おい、嫌がってるじゃないか!やめろよ」
「だまれ、コラ!痛い目に会わせてやる!」
その声と同時に三人組の男達の中からリーダーらしき男が出てきて、思いっきりオレの顔を殴った。
顔が思いっきりへこんだ。でも痛くない。
そうか、オレは豆腐なんだ!
その瞬間、勝負は決まった。
この勝負、豆腐人間であるオレの勝ちだ。
「ありがとうございます」
女性はペコリと頭を下げた。
いえ、当然のことをしたまでです。
オレはかっこよくそう言った。
「お名前を教えてもらえませんか?」
名乗るほどの者ではありません。通りすがりの豆腐です。
「豆腐??」
女性は怪訝な顔を浮かべてそう言った。
「あ~実はですね…」
オレは自分に起きた変化を話した。
「そうなんですか。大変な人生ですね。あっ!助けてくれたお礼に私、キスしてみましょうか?豆腐好きですし。特に冷奴とか」
女性は微笑みながらそう言った。
「えっいいんですか!?よろしくお願いします」
こうして、オレ(豆腐)と女性は熱いキスを交わした。
「どうです?顔、元に戻りました?」
オレは女性に顔を見せた。
「う~ん、戻ってないですね…豆腐です」
「そうですか…。キスありがとうございました」
オレはペコリと頭を下げた。
「いえいえ、元に戻れるといいですね」
「はい…。では、もう行きます」
こうしてオレは再び歩きだした。
まぁ、ここだけの話、豆腐も悪くないかもな!
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「おやじ!顔、なんとかしてくれよ!」
オレは店に入った途端、そう叫んだ。
「はぁ!?おめぇ顔ちゃんと元に戻ってるぞ!」
「へぇ!?」