母親の発明品
俺が生徒会室を訪ねてから数日が経った。
あれから俺達は毎日の様に特訓していた。
「喰らええええええ!」
「無駄無駄!」
……半ば遊びながら。ちなみに今のはマナ、竜二の二人だ。
「これはどう!?」
「まだまだです!」
少し離れた所でミアとリリーが戦っている。
ん~。なんていうか。
「……どうした?」
「ん?」
「……なにか考え込んでいる様だったが」
俺の様子が気になったアルが模擬戦の手を止め聞いてきた。
「いやなあ同じことの繰り返しだから、そろそろ何か変化が欲しいな、と」
「……変化?」
「同じ修業ばかりだとなぁ……」
懸念事項があるんだよな……。
「……対策は立てられやすいからな」
「まあ、そういうことだ」
結論はそう言うことだ。毎日の様に同じことをするのは良くない。
「しかし、良い方法も思いつかない……」
「……だな」
なんかアイデアがポンっと出ないかなぁ。
そんなある日――
トゥルルル、トゥルルル
「はい、皆守です」
『あ、勇人? 元気ー?』
「その声は母さんか……」
母さんから電話が掛かって来た。
「何の用だ?」
『もう! 親が一人暮らしの子供に電話する理由なんて安否の確認に決まっているでしょ!』
おおげさ――でもないな。七集学園に居る以上、無傷で済む方が珍しいと言える。
『まあ実は言うと学園の前に来ているんだけどね』
「なんで!?」
『ちょっと渡したい物が有ってね~。ちょうど近くまで来る用事が有ったしついでにと思って』
だからってまさか学園に来るとは……。
『と言う訳で、七集学園じゃ許可なく敷地内に入れないから校門まで取りに来て~』
「はあ、わかった。今から一応先生に許可とってから行くから少し待っていてくれ」
『は~い』
んじゃとっとと行くか。
俺は職員室に向かう為に部屋のドアを開ける。すると――
「きゃっ……!」
「え?」
俺の部屋の前に少女が居た。……あ、この娘は前にも会った娘だ。なんで俺の部屋の前に?
「立てるか?」
「……はい」
俺は手を伸ばして立ち上がる手伝いをする。彼女が握り返してきた手に何故か懐かしさを感じ――
「……それじゃ私はこれで」
「……!?」
彼女の声を聞いた瞬間、脳を揺さぶる様な頭痛を感じ体がふらつく。
「ま、待ってくれ!」
「!?」
このまま行かせてはいけない。そう感じた俺は彼女の手を取った。
さっきの頭痛で少しだが気づけた。この娘は――
「お、お前は、エ――」
「!!」
彼女の名前を呼ぼうと頭痛に悩まされながら振り絞る様に声を上げ様としたが――
「!?」
一瞬、目の前が暗くなり視界が奪われた。
「こ、これは!?」
この黒はまさか……!?
俺が驚いてる間に視界が戻り、先ほどと同じ寮の廊下にいたが手を握っていた少女は影も形も無くなっていた。
「あ、あいつ何処に――あれ?」
少女を探そうと周りを見渡してから気づいた。頭痛が収まっていたこと。そして――
「あいつって……誰だっけ?」
先ほど会った少女の名が思い出せなくなっていた。
***
「勇人―」
「本当にいたよ……」
謎の少女を探そうと思っていた俺は、母親が学園前に来ているのを思い出し捜索を諦めて職員室で許可を貰い裏門に来た。裏門は表門と違い人が四、五人通れる程度で表門より小さい(表門は倍ぐらいのサイズ)。表門は基本的に朝しか開いていない。と言うのもこの学園の生徒は血気盛んなため表門を開けているとグラウンドでの戦いの影響が学園の外にまで及ぶ可能性があるため朝以外は基本的に閉じることにしているとのことだ。(ちなみに朝は先生達の出勤の為に開けている)
しかし、校舎やグラウンドに居る先生達(人間)や生徒の何人かがチラチラ見てるな。まあ、母さんは見た目若いからな。とても四十近くには見えないほどだ。見た目だけなら二十代後半ぐらいに見えるだろう。
親父も見た目若いんだよな。親父の友人とかは普通に年取ってるのにな。
そういえば学者が魔力には肉体を健康な状態で維持する効果もある、とか言ってたな。その副作用として肉体の若い状態を長く維持する、そのため六種族は人間より長生きなんじゃないかと言う説がある。
母さんも親父もレムリアに何回も行ってるからそのせいか?
ちなみに寿命が竜族の次に長いのは精霊種のハイエルフだ。二百年ぐらいで魔力量も多いそうだ。
さて無駄話はここまで。
「荷物を持ってくるついでよ。ついで」
「……まあ、良いけどさ」
母さんが持ってくる荷物は実験品と相場が決まっているから若干不安だ。
「とりあえず武器のメンテナンス用品と戦闘服の予備、後はお手製の魔科学アイテムね♪」
「予想通りだよ……」
今回はどんなびっくりアイテムを持って来たのやら……。
ちなみに魔科学アイテムは名前の通り魔術と科学の力で作った物で基本的に日用品に便利な機能を付けたものだ。ただ欠点として使用するには本人の魔力が必要だ。そのため母さんは人間にしては魔力が多い俺によく試させようとする。
「まずはこれ! マジックライター~」
青色のネコ型ロボ風にそれを取り出した。
「ライター?」
「そう。機能は普通のライターと一緒。でも安全性を上げるためになんと! 生物を燃やさない機能を付けました♪ どう?」
試しに火をつけ手をかざしてみる。
「本当だ。熱くない」
「そこで躊躇なく手を燃やそうとするのはちょっと……」
いや試さないとわからないし。
「親としては危険なことは躊躇ってほしいな……」
「文句があるなら師匠に言ってくれ」
師匠の修業の後だと、この程度の火なら治癒魔術で治せるから大丈夫、と言う感覚になるんだよ。判断基準が怪我するかどうかじゃなく、治せるか治せないかで行動する様になってしまうんだよな……(遠い目)。
戦闘中ならダメージを受けない様に立ち回るけどさ。
「出来れば『すげぇー』とか『流石!』とか言って欲しかったな……」
「いや、すごいよ。ただ試さないとわからないだろ?」
「それはそうだけど」
惜しむらくは魔力がないと使えないことだな。六種族で煙草を吸ってる奴は見たことないし。
「気を取り直して次! 無限ジョウロ~」
もう名前だけで能力が解るからやり取りも割愛!
「三つ目はどうだ! 魔力式充電器~」
「魔力式充電器?」
「そう。電池やケータイのバッテリーを魔力によって充電する便利グッズよ!」
そう言って鞄からいろんなタイプの充電器を取り出す。
「確かに便利だな」
試しにスマホの充電器を試してみる。
「おお、本当に充電されてる」
「でしょ?」
本当に便利だ。
「で、どう?」
「三つ目は良し、二つ目は改良の余地あり、一つ目は商品にはならない」
「やっぱそうかー」
「親父も同じことを言ったんじゃないか?」
「そうなんだよねー」
ちなみに判断基準は商品になるかどうかだ。
一つ目のライターは消耗品なのに魔力をオイル代わりにしたせいで買い替える必要が無くなってしまい売り物としてダメだ。
二つ目は魔力を水に変える物だが、商品としてより災害時の支給品の方が良いと思う。
三つ目は充電器だから需要が有り、元々頻繁に買う物ではないから商品としては問題無い。持ち運びもできるし携帯式充電器としても使える。欠点があるとするなら本人の魔力を使用する特性上、長時間持ち歩いてないと充電できないことか。
「これで全部か?」
「まだまだ! 最後にとっておきが残っているのよ!」
とっておき?
「じゃ~ん! ステータスアナライザー(仮)!」
「ん?」
なんか腕時計の様な物を取り出した。
「これはなんと相手の能力をゲームでステータスを見るかのごとく調べることが出来るのだ!」
「ほう」
母さんがなんかドヤ顔で語っているが使ってみないことにはどれほど凄いかわからない。
「使い方はね、これを腕に巻いて――」
「こうか?」
左腕に巻いて見せる。
「そうそう。それで調べたい相手に拳を突き出すように向けて赤いボタン押してね」
試しに自分の右掌に向けながらボタンを押してみる。
すると画面の様なものがステータスアナライザーの上に浮かぶ。……名前が長いしなんか略し方を考えるか。
ちなみに俺のステータスは――
名前:ミナモリ ユウト
種族:人間
性別:男
属性:無
だった。
「へぇ、意外と良いじゃん」
「意外は余計。それに解析するのはそれだけじゃないよ。下にずらしてみて」
「ん?」
言われたとおりにタッチパネルの要領でスライドしてみる。
……………………んんん!?
「どう?」
「マジすごいっす」
思わず口調が変わるぐらいに驚いてしまった。だがそれも仕方がないことだと思う。
まさか――
種族特性と固有能力まで調べることが出来るなんてっ……!
ステータスアナライザーの略し方が思いつきません……。
よろしければご意見を下さい。<(_ _)>
あ、次回は今月末までには投稿します。