8話
バイト上がりに、またコンビニに寄ることにした。あの甘い雰囲気に当てられたのか、とても甘いモノが食べたい気分になったのだ。…今回は奮発して、ケーキとか良いかもしれない。コンビニで買えるケーキなんてたかが知れているが、最近のコンビニスイーツは中々に侮れない。使ってる素材もそうだが、量産品の割りに凝った味付けをしている。
…まぁそうは言っても、ちゃんとしたお店のケーキには敵わないのだけど。たまに、あの…和菓子や菓子パンとも違う、比較的お手軽な甘さを感じたくなるのだ。駄菓子も似たような理由でたまに食べたくなる。
「…そろそろ控えないと、太っちゃうかな。」
コンビニに向かう足を止めて、ふと最近の記憶を呼び起こしたら…バイト帰りに甘いものを食べているような気がしてきた。
そりゃ、コンビニスイーツはそれなりに値が張るから、金額的に量は食べていないけど…だからといって気が抜ける程は食べていない事実に、緩んでいた気持ちが引き締まる。そう言えば、ちょっとお腹回りや二の腕がプニプニしてきたような…。
それは私の錯覚かもしれなかったが…さっきも言ったみたいに、だからと言って警戒してしまうぐらいには心当たりがある…うん、今日の甘い物は、気持ち罪悪感の少ない、コンビニで売ってるあたたかいココアにしておこう。自販機のより数円安いし、サイズもちょっと大きい…気がするし。
舌にしつこく残った甘いものを食べたいって衝動は…覚えていたらまた後日、バイトも学校も休みの日に何か買おう。…マスターとかに、オススメのお店を聞いておこっと。
そうと決まれば、止めていた足を再び動かし、コンビニへと向かう。そんなに離れているわけでもないから、足を早めたらすぐに付く。急いているつもりはなかったけど、落ち着かない気持ちで押し戸に手を掛ける。
「…ほう。」
グッと押すと、隙間から暖かい空気が漏れて…それが、日が傾き始めるとやっぱり冷えてくるので、冷たくなっていた鼻頭や耳を暖めていく。コンビニの暖かさで、冷えていた体が溶けていく様だとは、中々に決まらない気もするが…気にしたところで口に出していないからセーフだろう。
それにしても…冷えてくると耳も辛いが、鼻が強烈に冷えるのだけは勘弁してもらいたい。マフラーだけではカバーしきれないし、マスクを付けるのもどうだろう…って気分になってしまうし。
コンビニ内を適当に歩いてから、どうにか鼻や耳の違和感が消えてきた頃…一応カバンから財布を取り出して中身を確認してから、さっさとあたたかい飲み物が置かれるコーナーへ移動する。ちょっと肉まんあんまん、湯気が見えるおでん、ホットスナックとか目に入ったけど、気にせずあたたかい飲み物が置かれたコーナーへ。
ココアとホットスナックとかの相性が良くないって事もあるが、無駄遣いは避けなければ。いくらバイトしていても、これでは意味がない。
あたたかいコーナーの棚から、お気に入りのココアを見つけて取り出すと、そのココアは冷えた指先には熱いくらいの熱を持っていて…しつこいぐらい指先に残っていた冷たさが温かくなるのと同時に、ジクリと鈍く痺れた。
「ココア一点で、120円になります。」
本当はまだ握って暖を取りたい気持ちをぐっと堪えて、さっさとココアをレジに置く。そんなに急速に冷えたりはしないけど、だからって油断をしていたら温くなってしまう。
ピッと店員さんがバーコードを読み込み、確認を聞いてくる。それには返事をせず、代わりにパチリと五百円玉を置き、「レジ袋要りません。」と言うと、さっきと変わらない口調で「500円預かります…お釣、380円になります。」と、お釣とレシート、そしてテープを貼ったココアが差し出された。
その品物を受け取り、小銭とレシートを財布の中に押し込めると…まるで逃げるようにそそくさとコンビニを後にする。だって、これ以上コンビニに居ても意味がないし…それに何より、早くココアが飲みたいのだ。
コンビニの戸を押して出たら、さっきまで体を包んでいた暖かさと入れ違いに、まだまだ鋭い寒さが体に絡んでくる。
「冷えるなぁ…。」
あたたかいココアを両手で包むように持ちながら、私は急いで帰路についた。