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6話


学校ではどうでも良くなったとはいえ…やっぱりバイト先に着き、そして自分がやらかしてしまったお客様を目の前にしたら、居心地が悪くなるくらいにはドキドキする訳で…これはどうしようもないか。


…ていうか、やらかしといてなんだけど、良く昨日の今日で来てくれる気になってくれたな、このお客様…それだけここのコーヒーを気に入ってくれたのかな。


取り敢えず、前にも思ったけど…このドキドキに慣れないようにしよう。そしてヘマもしないようにしよう。


「すみません。」


「はい、ご注文はお決まりでしょうか?」


なんでこう言うタイミングに限って、自分がやらかしたお客様を接客しているんだろうか…他の人じゃだめだったのかな…まさか、あれかな…えっと、確か…神の見えざる手…だっけ?それでも働いているんだろうか…。お客様からしてみたら、普通にコーヒー飲みに来ただけなんだろうけど。


「ブレンドを一つ。」


「かしこまりました、少々お待ちください。」


マスターに注文を伝えてから、コーヒーが入るまでの間…私は静かに胸を撫で下ろしていた。


良かった、良かった…変に吃ったり、言葉に詰まったりせずに注文を取る事ができた…一応気にしていたんだけど、お客様も何も言ってこなかったし…本当良いお客様だよ、この人は。


その後も内心ハラハラしつつ、でも何とかドジ踏む事もなく、あのお客様に注文のコーヒーを届けたり、空いたテーブルを拭いたりして時間が立っていった。


それでもまだソワソワしているのは、今日来ると言っていた早織がなかなか来ない事だろうか…まぁ、今日はいろいろあったからね。仮に予定変更したとしても、仕方ないだろうなぁ…私のせいでもあるんだけど。


仕事はしっかりこなしていたけど…早織の事が気になって、仕事の合間に、お店の窓から外をちょっと見たりしていた。


でも、お客様が居る状態で視線を外に向けっぱなしと言うのも無理な話で…暫く窓の方が見れていなかった時、カランカラン…と、ドアベルが鳴った。


「いらっしゃ…あ、いらっしゃいませ。」


反射的に『いらっしゃいませ』と言いかけて、思わず途中で言い直してしまった。…他のお客様には失礼かもしれないけど、特にこのお客様には、反射的な『いらっしゃいませ』ではなくて丁寧に言いたかった。


「えっと、すみませーん。」


「はい、ご注文はお決まりでしょうか?」


そのお客様が席に着いて間もなく呼ばれたので、素早く注文を取りに行く。…気持ちがいつもより、少しだけソワソワ落ち着かないのは、自覚してます。


「イチゴのショートケーキに、ホットの紅茶…あ、ストレートで。」


「それと、ホットのオリジナルブレンドを一つ。」


「かしこまりました、少々お待ちください。」


…ただ、早織だけでなく雲居くんまで来るのは意外だったけど。


でも…雲居くんが早織に思いを告げた後、もしくは今から告げる場面だと思えば、何となく今の状況が分かる気がした。


テキパキとショートケーキ、ホットのストレートティー、オリジナルブレンドを二人が座った席に運び、何となくそのままマスターの近くにまで引っ込んだ。…もし言いたい事があるなら、早織なら会計の時に言うかな?


「ねぇ、南雲さん。アレってもしかして、高校生のカップルかな?」


「そう…ですね。もしくは、それに近い関係…でしょうけど。」


「いやに詳しいなぁ…あ、あの制服、もしかして…。」


この時間に来る男女一組の高校生が珍しいのか、いつもよりマスターの食い付きっぷりが凄い…早織は、昔一度来たことがあるんだけどなぁ…マスター、忘れちゃったかな?


「はい、片方は友達で…もう片方は同級生です。」


「なるほど〜…良いねぇ、若いって。」


「あはは、本当ですね。」


「いやいや、南雲さんが同意しちゃ不味いでしょ。」


マスターに言われて、思わず乾いた愛想笑いが出てしまった。…た、確かに。いくらなんでも、この話題で同い年の私が同意しちゃいけない…よなぁ。


「でも、私にあんな甘酸っぱい青春はないですからね…そう言う意味では、あの二人が羨ましいです。」


「いやいやぁ、分からないよ?出会いは、気付いていないだけでゴロゴロ転がってるモノだからね!!僕達夫婦みたいに。」


…マスターとマスターの奥さんの馴れ初めは聞いた事ないんだけど、マスターの口振りから察するに…余程運命的な出会いをしたんだろうなぁ。


「…私も、いつか。」


「ん?南雲さん、何か言ったかい?」


「い、いえいえっ、何も言ってませんよ!?…あ、机拭いてきます。」


思わず吃ってしまったので…これ以上マスターの側に居たら、根掘り葉掘り聞かれる未来が見えた気がしたので…ちょっとでもその未来に抗おうと、私はマスターから離れる事にした。


「はぁ、危なかった…あ。」


マスターから離れて気が付いたけど…早織と雲居くんの顔が、何だか真っ赤?早織が頼んだショートケーキのイチゴと、二人の顔の赤さを見ていたら、何か少し笑えてきてしまった。


…あ、という事は…ついに雲居くん、早織に自分の気持ちを伝えたのかな?ここからだと、二人の声は聞こえないけど…ううん、どちらにしろ、早織が幸せな未来だったら良いなぁ。




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