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3話


二年に進級して暫く、私は相変わらずのペースでバイトを続けていた。


平日は午後五時から閉店まで、午前授業なら午後一時から閉店まで、休日なら午前か午後の半日…といった風なシフトを、店長に頼んで組んでもらっている。この店は午後八時に閉店するので、平日はほんの少ししか参加できないのが心苦しい所だが…学生の身分だから、仕方ない。その代わり、開店は朝七時と早い。午前中のシフトの時は、いつもより早起きするぐらいだ。


まぁ、こう言ってしまったら、私がかなり無茶なシフトを入れているように感じるかもしれないが…実は、普通に週三〜四日のシフトだったりするので、そんなに無茶ではない。…流石にこれ以上バイトのシフトを入れるとなると、勉強や日常生活にも支障がでてしまう。


私は私自身、特別頭が言い訳ではないが、それなりに要領は良い方ではある。今までテストで赤点は取った経験はないし、授業態度も概ね真面目だと評価も頂いている…が、ある程度の学習時間は必要だ。


自虐してしまえば、とどのつまり、私は何の特徴もない平凡な奴なのだ。


早織の様に明るくもなければ、雲居くんの様に生徒会役員でもない。ましてや生徒会長の様な圧倒的なオーラや、カリスマ性もない…そこら辺に居る、どうしようもないコンプレックスを抱いている女子高校生…それが、南雲真白なのだ。


時間帯的に、帰宅途中の会社員や学生がまばらになってきた時…暇だからと、そんなつまらない事を考えていたら、ふとカランカラン…とドアベルが鳴り、半ば反射的にドアの方に体を向ける。


「いらっしゃいませ。」


「こんにちは。ブレンドコーヒーを、一つください。」


「かしこまりました。」


そこに居たのは、最近良くこの店に来てくれる高校生ぐらいの男の子だった。私がまだ高校一年だった頃の冬休みに、受験か何かのの帰りに寄ってくれてから、ちょくちょく通ってくれている人…因みに、まだ名前は知らない。名前を聞ける程、まだ互いに仲良くなっていないのが問題かもしれないが。


マスターに注文のコーヒーを淹れてもらっている少しの間、ぼんやりとその人を観察する。言わずもがな、その人にバレないように。


いつも制服姿ではなく私服だから、通信制か私服OKな学校なのかな…なんにしても、この時間まで良く勉強するなぁ…。私はバイトしてるから、部活や委員会に所属している子より早く学校出るしなぁ…あ、もしかしてバイト帰りとか?


本人に気付かれないように、コッソリ妄想を膨らませる…あのお客様にこの事が知られてしまえば、絶対に好い顔はされないこの行為が…私は、中々楽しかったりする。決まってこの時間に、文庫本を読みながらブレンドコーヒーだけを注文するお客様は珍しいからだ。ブレンドコーヒーを注文しているのが、高校生ぐらいの男の子ならなおさらだ。


私がシフトで入っている時は必ずと言って良いほど来ているこのお客様…マスターや他のバイトの人からも、彼がこの時間に良く来ていると話している。


私は特に何も感じないのだが…人によったら、若いのにブラックコーヒーの味が分かる渋い子って言う印象らしい。確かに、私も否定はしない。


 と言うか…私からしてみたら、コーヒーが飲めると言うだけで、尊敬できてしまうのだけど。


そんな私自身に対する苦笑いを必死に堪えて、私はマスターからブレンドコーヒーを受けとる。今ここで苦笑いとかしてしまったら、きっとマスターはビックリして、そして混乱してしまうだろう…。


「お待たせしました、ブレンドコーヒーになります。」


「あ、ありがとうございます。」


コーヒーをカウンターの上に置く時、たまたまチラリと文庫本のページが目に入った。…だけど残念ながら、今の私には良く分からない内容だったが…ただ、文章から感じる雰囲気から察するに、現代文学の様だった。


仕方ないのだが、このお客様の文庫本にはブックカバーが付いているので、表紙に書かれているタイトルが分からない。タイトルが分からないのは、こっそりと妄想をする上ではちょっと痛い。


でも、このお客様…毎度毎度、良く文庫本を読んでいるけど、やっぱり読書家なのだろうか?何にしても、ブラックコーヒーに現代文学とか…やっぱりこのお客様、年の割りに渋いのかもしれない。


「…えっと、僕に何か用ですか?」


「え?…あっ!?…え、えっと、す、すみません…私がただボンヤリしていただけなので…し、失礼します。」


しまった。このお客様の文庫本について考え込んでいる内に、すっかりその場で立ち尽くしてしまったみたいだ…。


マスターに目配せをする暇なく、急いでスタッフルームまで戻った私は…近くの壁にもたれ掛かり、溜め息を吐いた。ああ、やってしまった…いつかやるとは予想していたけど、本当にやってしまった…。

打ち寄せる後悔の念に頭を抱えたくなりつつ…体感に換算して十分以上裏方で溜め息を吐いていた私だったが…自分の担当の仕事を放棄する訳にもいかず、何より、先程のお客様に対する謝罪が中途半端だったのを思い出し…とても気が進まなかったけど、またフロアに戻る事にした。




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