2話
クラス表が張り出されている掲示板には、両手を腰に手を当てて仁王立ちしている早織が、頬を膨らませながらそこにいた。
「もう、遅いっ!!二人して楽しそうに、何話してたのさ?」
「俺と南雲の会話…あれを楽しそうに見えたんなら、凄いな川波。」
「雲居、バカにしてる?ねぇ、私の事バカにしてる!?」
ああ…言ってる側から、雲居くんは早織に向かって悪態を吐く…言われた早織は早速反応して言い返し、口論になってしまった。
こうなってしまっては、私は二人を止める事ができないので…仕方ないので、クラス表を見ることにした。
私のクラスは…一組か。クラス表を見る限りでは、どうやら早織とは離れないで済んだようだ。ついでに言ってしまえば、雲居くんも一緒だ。
私がクラス表を見ている間も、雲居くんと早織は口論を止めない。…どうすれば、この二人を止める事が出来るのだろうか。
「こらこら、祐希。女の子をそんな一方的に苛めちゃいけないよ?」
そんな時、悠然と現れたのは我が校の生徒会長である鳶塚宴先輩だった。…この人なら、雲居くんと早織の口論を止めれるかもしれない。現に、二人とも黙ったし。…ただ単に、雲居くんが呼ばれて黙ったから、早織はつられて黙っただけなんだけど。
ついでに言ってしまえば、生徒会長が隣に居る事にさっきまで気付かなかった私も黙った。雲居くんと早織が口論始まってから、一切口を開いていないけど…でも、あまりの緊張に口が開けなかった。
「嫌だな、会長。別に、苛めてなんか…からかっただけです。」
「それでも、それなりの言い方があるでしょ?バカにしたみたいに言ったら、相手は傷付いちゃうよ?」
「そんな柔な精神してませんよ、コイツは。」
雲居くん…確かに早織はポジティブな方だけど、相手から言われた事を、全て気にしない訳ではないのだ。
…って、言った所で多分気付いているんだろうけど。照れ隠しのために態吐くのは、止めていただきたい。それで早織が傷付くのは、やっぱり嫌だから。
「はぁ…君もごめんね?祐希く…雲居くんも、悪気があった訳じゃないんだ。」
「うぇっ!?あ、あの…いつもの事だったんで、そんなに…大丈夫です、はい。」
「ふふ、ありがとう。じゃあ、僕はこれで。」
そう言うと、生徒会長は来た時と同じ様に悠然と校内に去っていった。
「ふ、ふはぁ…遠くから見てても分かったけど、生徒会長って凄い人だね…。カッコいいとかそう言うのじゃなくて…何か、オーラが違うって言うか。」
「鳶塚って言ったら、昔からここら辺を治めてた旧家だからな。会長本人も、色々と作法や習い事を昔からしてきたそうだ。…会長曰く、普段は普通に接してほしいらしいから…少なくとも生徒会では、普通のに接するようにしてる。」
雲居くん…人がたくさん居る所でその話をすると言う事は、少なからず会長に対するイメージを変えようとしているのかな?
だって、雲居くんの話を聞いた女子が、あちらこちらで「今度、勇気だして会長に挨拶してみようかな…。」「ず、ずるい!!それじゃあ、私も…。」って会話をしているし…男子も男子で、「鳶塚も、大変なんだな。」「今度、勉強教えてもらおうかな。」とか話してるし。…男子の方は、先輩の様だったが。
「雲居くん…わざと?」
「…会長には、世話になってるからな。」
さも仕方ないと言うように言った雲居くんだったが…彼が何気に義理堅い性格だと言う事を、私も…そして早織も知っている。
雲居くんの失敗としては、早織の近くで私の言葉に同意してしまった所だろう。
「わざとって…ふふっ、雲居にだって優しい所あるんだね?」
「ばっ、うるさいっ!!」
早織が雲居くんをからかっているという、普段からしてみたら真逆な光景。それを見て、わたしは良かったと思った。どうやら生徒会長を切っ掛けに、雲居くんと早織の距離が縮まりそうだ。
その後も早織は、教室に着いてからも、始業式が終わって教室に帰る時も、雲居くんをそのネタでからかっていた。余程、余裕のない雲居くんが珍しかったのだろう。
教室に戻り、始業式の後の軽いホームルームを終え、次々とクラスメート達が席を立つ中…私はお弁当の包みを開いていた。
とは言っても、別に珍しい行為ではない。クラスメートの何人かは、私と同じくお弁当を食べている。…つくづく、学校が半日で終わるというのも考えものだ。
「ごちそうさまでした。…それじゃあ、早織。私はバイト行くから帰る。」
お弁当を食べ終わり、手早く空のお弁当箱を包み直して鞄の中に入れ、いまだに雲居くんをからかっている早織に声をかけた。
「あ、そうなんだ。じゃあ、また明日ね!!」
「こら、南雲!!ちょっとコイツどうにかしてからバイト行けっ!!鬱陶しい!!」
「自業自得、じゃないかな。」
「そうだ、自業自得だ雲居めー!!」
良いじゃないか、雲居くん。何やかんや言いつつ幸せそうなんだから。…確かに、もし私が逆の立場なら鬱陶しいのは否定はしないけど…でもやっぱり、自業自得だとおもう。