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プロローグ


人が抱える身体的なコンプレックスと言うのは、大なり小なり誰しも抱えて生きている。


そのコンプレックスを、様々な方法で生かすも殺すもその人次第な訳だが…私のコンプレックスの場合、今の段階では活かす事も出来なければ殺すことも出来ない。


私のコンプレックスは、実年齢より年上に見られてしまうと言う事だ。


顔立ちは年相応だと私は思うのだが…家族や友人曰く、雰囲気が大人びているらしい。私服姿で、なおかつ学校以外で出会った人は、高確率で私の事を成人女性と勘違いするのだから、本当にそうなのだろう。


高校に入学してから、さらに酷くなった気さえするこのコンプレックス…個人的に言わせてもらえば、私なんてまだまだ子供だと思う。図体だけ成人に近くなった、ただの子供だと。


未成年である私が、どうして…と、思い悩んだ日々は数知れない…大人びていると言うのは、枯れていると言う事なのだろうか?とか、そうだったら、私だって人並みに楽しんだりするのに…とか。


でも、やっぱり同学年の女の子と比べたら、大人びている方に入るのだろう…元気の良い彼女達には、たまに付いていけない時があるからだ。単に、彼女達が嬉々として話す恋愛話が、私にとって縁遠い話だからと言うのもあるだろう…。


最近始めたアルバイトも、面接の時に店長さんが驚いた用に「大人びてますね。」って言われ、やっぱり地味に傷ついたが…でも、このお仕事はそれなりに楽しいと思う。


個人営業の喫茶店なのだが、家族が代々継いできた、由緒あるお店なのだとか。落ち着いた飴色の光沢のある九人が寛げるカウンターと、同系色の四人掛けのテーブルが計三つ、左右奥に六人掛けのテーブルが二つづ。素人目で見た限り、どの家具も丁寧に使われてきた事が良く分かる。


高校一年生の冬休み、世間は受験ムード真っ只中なその日…私はいつもの様に、喫茶店でバイトをしていた。


カランカラン…と、ドアに付けているベルが鳴る。お客様かと、顔を上げたら…全体的に色素が薄めな、中学生ぐらいの男の子が来店した。コートの下は何やら見慣れない制服を着ているから、隣町の子なのかもしれない…私立高校の受験の帰りなのだろうか。


「いらっしゃいませ。」


「あ〜…じゃあ、ブレンドコーヒーを一つください。」


「ブレンドコーヒーを、一つですね。かしこまりました。」


…まだあどけなさの残る見た目に似合わず、並みある飲み物候補からブレンドコーヒーを頼むなんて…本当にコーヒーが好きか、世に言う中二病と言うやつなのだろうか…まぁ、お客様の事を私が気にした話ではない。


「マスター、ブレンド一つお願いします。」


「はい、分かりました。…珍しいね、あんなに若いお客様がコーヒーとは。」


「人の好みは十人十色ですよ…っと、レジ行ってきます。」


さっき自分でも思った事だからか、マスターの言葉にすんなりと自分の意見が言えた。…それに、このお客様が、コーヒーに砂糖とミルクを入れないとは限らない…流石に、本当にブラックコーヒーで飲んだら驚くかもしれないが。


「ありがとうございました。」


レジを打ち終わり、お客様に挨拶と一礼をする。個人営業のお店にしては人気のある方なので、回転率は良い。


とは言え、先程も言った通り受験シーズン真っ只中な訳で…しかも、今日はよりにもよって雪まで降っている。来るお客様も居るには居るのだが、普段から比べたら差は歴然…つまり何が言いたいかと言ったら、今日はお客様が居なくて暇なのだ。


レジから戻った私は、マスターからブレンドコーヒーを受け取り、例のお客様に渡した。


「こちらが、ご注文のブレンドコーヒーでございます。」


「ありがとうございます。」


さぁって、このお客様はミルクと砂糖を入れるのか否か…行儀は悪いが、気になったのでこっそり見てみた。


そのお客様は、コーヒーが届いてから、鞄からブックカバーを被せた文庫本を取り出し、文庫本を読みながらコーヒーを…ブラックで飲み始めた。


その平然とした動きと雰囲気に、中々コーヒーを飲み慣れた人と言うのは歴然で…内心で、失礼な事を思ってしまった事を詫びた。


暫く文庫本を読みながらコーヒーを飲んでいたそのお客様も、コーヒーが空になったのでお会計を済ませ、店を後にした。


「私も、コーヒー飲める様にした方が良いですかね。」


「人それぞれだと思うよ?それに、大人でもブラックコーヒーが苦手な人も珍しくない訳だし…好みの問題じゃないかな。」


コーヒーの香りに包まれながら、はぁ…っと私は溜め息を吐いた…ブラックコーヒーが飲めない所は、年相応なのだなぁ…と、苦笑いをしてしまった。コーヒーだけに。


「…あ〜、寒い。」


「え、大丈夫?暖房の温度上げようか?」


「あ、違います…ただ、自分の事で寒いなぁって思っただけですから。」


「そうなの?」


「そうです。」


そんな会話をしていたら、私の脳裏には先程のお客様が離れなかった。


――それが、私と彼の出会いだった。




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