人物書き分け練習作品
「あれー、りょーくんったら今日も夜のお散歩? いけないんだー。」
「…………指差すの行儀悪いぞ。」
プクッと頬を膨らませた少女に指差され、気怠そうな青年は靴を履いて振り返ると、見下ろした頭を撫でる。
少女が心配してくれていることは分かっているが、彼はそれを知らぬふりして建て付けが悪い引き戸をガタガタと開いて夜空の下へ繰り出した。
門扉を潜り、今度こそ振り返ることなく暗い道をぼんやりと歩いていく。
そうしていると、言いようもない心の穴に冷たい風と闇が吹き込んで埋めてくれるような安心感が得られるのだ。
―――……このまま死ねたらいい……。
遠目に輝く新宿の中心街を目指して歩く彼の口からスカスカの溜め息が零れた。
夜は長く、陽は未だ昇らない……。
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「やっと着いたぁー! うわ、寒っ!? もー……アンタが途中でアイス食べたいとか言い出すからぁ。」
「だってだあってぇ、亜美暑くなっちゃったんだもぉん。それにぃ、やっちーだってパフェ二つも食べてたよねぇー?」
「ハァ? 三つ食べたアンタがそれゆー?」
ホームからの下りエスカレーターでスーツケースを手に大声で笑いながら喋る二人はやや険のある視線を集めていたが、まるで気に止めない。
年の頃は十五と云ったところだろうか。
流行りに乗ったファッションや装飾品で飾り立てた二人は確かに美人だが、一種の威圧感を周囲に放っている。
“やっちー”と呼ばれた少女は攻撃的な眼差しを光らせる肉食獣を思わせた。
もう一人の亜美は小柄な体でオーバーリアクションをする様が男心をくすぐる可愛らしい容姿の娘だ。
改札を抜けて人混みの中を歩く二人は不夜城の如く照り続ける新宿の街に目を輝かせた。
彼女たちのような若者にとって東京は憧れ。
まして、ここ新宿は今日から二人のホームタウンとなる場所なのだ。
「やっちー、ドーナッツ食べたーい。」
「またぁ? アタシ疲れたから早く帰りたいし。とちゅーに店あったら買えばー?」
「えぇー!? つーめーたーいー! 亜美、ショックだよぅー。ぶーぶー!」
「アタシにぶりっ子しても意味ねーって。痛っ……。」
後ろを歩く亜美と話していて前を見ていなかったやっちーはすれ違った人間と肩をぶつけて歩みを止めた。
反射的に睨み付けた相手は人の波に飲まれていき、頭一つ分背の高い相手の後ろ姿だけ彼女の目は捉えることができた。
「チッ……死ね、クソ野郎。」
「アハハ、やっちーだっさー。」
「蹴るよ?」
「ぼーりょくはんたーい! 亜美たそは非暴力不服従がいいと思いマース。インドのダンディーの教えだよ、ダンディー。」
「ふーん。亜美ちょー物知りじゃん。」
自慢気に胸を張った亜美の笑顔で機嫌を直したのか、やっちーはもうぶつかったことを忘れて歩き出した。
時々、レディスの服が並ぶウィンドウの前で立ち止まったりしているせいか、時計の短針が頂点を越しても目的地には程遠い。
何かアドバイスなどあったら感想の方へくださいな