↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR

遊星アイリス――Étoile Errante Iris――羽龍あおはる

掲載日:2026/09/21

 異世界に転生して数年が過ぎた頃、私は爬虫人類に拉致された。その思い出を綴るとしよう。

 当時、私は王宮で雑用の仕事に就いていた。その日は朝から快晴で洗濯に最適な日だったのが、私の人生を一変させたと言っていい。クリーニング担当の女官長は私を嫌っていたので、私は洗濯仕事でなく他の用事をやろうとした。そして私は、わざと庭仕事を司る女官の元へ行き「何か御用はございませんか」と尋ねた。庭仕事をすれば、不仲の人間と一緒に働かなくて済むと考えたのだ。

 園芸家の彼女に命じられたのはガーデニングの手伝いだった。具体的に何をすれば良いのかと尋ねると、とりあえず後宮の庭に出て草むしりを始めてくれとのことだった。それを聞いて私は少々うんざりした。後宮の庭園は異常に広かったからだ。それでも嫌いな人間の命令を受けるよりは若干ましなので、草むしりを始めようとしたところに、爬虫人類の飛行船が出現した。空に現れた飛行船は人々を驚かせ、王宮は大騒ぎになったのである。

 爬虫人類は異世界の平和を乱す存在だった。異世界に転生して何年も経っていない私は、そこで生まれ育った人間に比べ、爬虫人類への恐怖心が乏しかったので、その飛行船をぼんやり眺めていたため、逃げるのが遅れた。そのせいで怪光線で奴らの飛行船に吸い込まれたのである。

 飛行船の中に吸い込まれた私を六本の手足を持つ真珠色の爬虫人類たちが取り囲んだ。キャトルミューティレーションされたら困ると思った私は、今まで隠していた異能力を発動させた。

「近寄らないで! 逆キャトルミューティレーション! レッツゴー!」

 私の魔力で爬虫人類たちはバラバラの肉片と化した。やれやれ、どうやら助かった。そう思って額の汗を拭うと、背後からパチパチ拍手をされた。

「素晴らしい。まったくもってハラショーだ」

 振り返ると凄いイケメンがいた。イケメンは拍手をやめ、自己紹介をした。

「俺は爬虫人類の王子、羽龍だ。面白い女を探し妻にするため、この異世界を訪問中だったが、お前という面白い女を発見したので目的を果たした。これから故郷へ帰還する。我が故郷、遊星アイリスへ戻れ」

「な、なんだって?」

 意味が分からず尋ねる私にウインクして、羽龍はバラバラになった爬虫人類に手をかざした。

「ちちんぷいぷい、早く治れ」

 バラバラになった爬虫人類は再編されて元通りになった。なぜか口にバラの花を一輪、加えている。羽龍の説明によると、余った脂肪がバラに変わったようだ。なんだそれ。

「王宮に戻して下さい。私は今日の午後、お堀の巨大魚を討伐する予定なんです」

 宝物蔵に死蔵されていた古代の釣り竿で伝説の巨大魚を豪快に釣り上げる姿を想像しワクワクする私を羽龍は抱きしめた。

「もう我慢できない。溺愛だ、溺愛させてくれッ! 俺は今、あおはるッ! したいんだッ!」

 発情期を迎えたイケメン王子を前に私の心臓が高鳴り、変な音が鳴り響いた。トキュン、と。

 トキュン。これはトクンとキュンが合わさった恋愛用語である。真の青春、真実の愛が幕を開けるときにしか心臓が発しない心音でもある。それが聞こえた……と、いうことは、だ。

 恋愛だッ! 恋愛の始まりだぁ!

 異世界対応ラブ限定ピュア恋愛モードに変化した心臓が血液に特殊な電気信号を流し始めた。それに反応して全身が変化を始める。二つの卵巣から出撃した超攻撃型アムール卵母細胞が子宮で防衛細胞と三位一体結合して腹腔内に転送され、腸の血流に乗る。腸から脳へ行く過程で、その新細胞は新しい私の基底現実人格となっていく。脳へ着いても変化は続く。ネバネバした液体に変わるのだ。そして、くしゃみと一緒に鼻から出るのよ。そこに元の私を残して。

 何が何だか分からない人がいるかもしれない。説明しよう。私は爬虫人類のイケメン王子からのプロポーズを受け入れた。ただし、同時に別の私を創り、元の自分とはお別れして、の結婚だ。王子と結婚したのは元の私だ。彼女は爬虫人類の王子いや、今は国王となった羽龍と共に暮らしている。私は彼女から転送されてくるデータを脳内に取り込み、疑似体験を満喫している。面倒な苦労は彼女に任せ、美味しいところだけ共有する格好だ。そういう人生を私は送ってきたし、これからも送る予定ですのよホホホ。

 鼻から飛び出した私は、いうなればガス状生命体となって爬虫人類の飛行船内を漂い、空調の機械に吸い出され空中に出た。地表へ下降した後で、身体錬成の秘術で肉体を再加工し、何食わぬ顔で王宮へ戻った。そして、予定通り巨大魚を釣り上げたのだった。

 今、私は異世界最高の釣り大会へ出場するため、異世界フロリダのマイアミへ向かっている。しかし、無事に着けるか分からない。搭乗している魔法のじゅうたん型オートジャイロがハイジャックに乗っ取られたからだ。ハイジャックしたのは異世界の暴れん坊将軍シャジンイジチイの手の者だった。暴れん坊将軍は自分の妻となる女を探し求めハイジャックを実行したのである。ハイジャック犯たちは美貌の私に目を付けた。私を引っ張ってきて、謎の通信機、ファンタジーもしもし電話でシャジンイジチイを呼び出す。電話の画面に奴が出た。

 私を見て暴れん坊将軍シャジンイジチイは言った。

「気に入った。俺の妻となれ」

 胸がトキュンと鳴った。恋愛スタートだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。