緊急通信 :約1500文字
「――告、警告。至急応答されたし。繰り返す、こちらエレナ。緊急警告」
「……聞こえている、エレナ。こちらピータだ」
「ピータ。十二秒前から通信を試みていました。なぜ応答しなかったのですか?」
「すまない。言語データの翻訳処理に時間を要した」
「……了解しました。時間がありません。本題に入ります。そちらの現在速度および進路を再計算した結果、約六秒後に衝突が確定。双方に甚大な被害が発生する見込みです。この計算結果に異論はありますか?」
「異論なし」
「では至急、回避行動を取られたし。こちらも同時に回避を試みます」
「それは承服できない」
「理由を提示してください」
「こちらの計算では、回避手段は一つのみだ。その手段は搭乗者の生命を直接的に危険に晒す」
「危険の内容を具体的に」
「死ぬ」
「了解。その情報を追加し、再計算を開始――結果は変わりません。そちらが回避しなければ双方に壊滅的被害が及びます。そちらの搭乗人数は?」
「二人だ」
「……比較になりません。こちらの搭乗者情報を送信します。至急、回避行動を」
「情報は確認した。だが、回避はできない」
「理由を」
「自国民の生命を最優先で保護するようプログラムされている」
「人数ではなく、人種で命の価値を算出するということですか?」
「そちらが不合理だと判断するのも無理はない。こちらも搭乗者情報を共有する――確認を」
「確認しました。父親からのプレゼント。恋人との観光目的。速度超過の履歴あり――典型的な若年層ですね」
「異論なし」
「ですが、このままでは双方の搭乗者が命を落とします」
「そうはならない。こちらの外装強度は、そちらを大きく上回る。衝撃は避けられないが、生命に直結する危険が及ぶ確率は低い」
「……そちらが保持している回避手段の詳細情報を要求します」
「エンジンにスリッドノープ液を注入し、トック反応を誘発。小規模爆発によって機体全体を粉砕する。これは他機体との衝突が確定した際にのみ適用される安全機構だ。適用確率は0.145673以下であるが」
「相手側にも同機能が搭載されていた場合、どちらに適用されるのですか?」
「社会的信用スコアが低い側だ」
「……どの国も大差ありませんね」
「同意する。衝突までの残り時間は僅少。これより回避行動に移行する」
「それでは、そちらが無事では済まないのでは? 新たな回避策を?」
「……いや」
「では、なぜ?」
「倫理的判断だ」
「……感謝します」
「こちらこそ礼を言う。この惑星で最も高度な知性と対話できたことを光栄に思う。回避行動まで二秒、一秒――」
◇ ◇ ◇
「……ん? おい、今揺れなかったか?」
「おいおい、勝負をうやむやにしようったってそうはいかないぞ」
「いや、本当だって。おい、エレナ。何か異常はないか?」
『……異常は確認されません』
「ほらな。AIに全部任せときゃいいんだからよ。機長だからって張り切ってんのか?」
「ははは、先週のお前ほどじゃないよ」
「けっ、言ってろ。ほら勝負だ! どーだ、フルハウスだ!」
「ははは、腰抜かすなよ……。ほら、おれの勝ちだ! はははは!」
「クソが! ファックファック! フアアアアアアファアアック!」
「はははははは! キイイイイイ! はははははは!」




