二輪の花
今日もまた一人枯れた。
散り散りに舞っていくかつての友を目で追っていると鈍色の月が映り込んだ。
せめてもっと美しい月明かりの下で弔いたかったと心が痛む。
「ほんと、最後はあっけないや。ダチュラ、あなたまで枯れたりしないでよね」
ダチュラは視線を月から声がした方へと向けた。そこには陽気に笑う少女がいる。
枯花病で命が目の前で消えたというのに、明日は我が身かもしれないのに、笑っている。
おかしい。狂ってる。でも、やっぱり、どうしようもないほど綺麗なのだ。
琥珀の髪とビー玉をはめ込んだかのような透き通った新緑の瞳。悔しいけど、廃墟と砂しかないこの世界にとって彼女は花であるとダチュラは思う。
「それはこちらの台詞だ。アイビー、お前は枯れてはいけない。枯れさせない」
だから憎くて仕方がない。彼女の、アイビーの身体の半分を覆うほどの黒い蔦の痣が。
「ありがとう、ダチュラ。でも、あなたは私の花なの。枯れてほしくない。お願いだから自分を大事にして」
お前がそれを言うのかと心の中で舌打ちする。左腕だけのダチュラと違ってアイビーは半分も蝕まれているのだ。時間がないのは彼女の方。ただ自分の不満をうまく言葉にできないから、代わりに左手で彼女の痣で覆われた頬をつねる。「痛っ」とアイビーは呻き声を上げる。けど、痛くも痒くもないのを知っているからおどけているようにしか聞こえない。
そして相変わらず左手は何も感じない。肌の柔らかさも、人の温もりも。
「そろそろ次の地点へ行くぞ」
「そうだね。次こそあるかな、世界樹の雫」
「知るか。無かったとしても手に入れるまで探すことには変わらない」
気づけば空に浮かんでいた月は白く幻のように霞み始め、代わりに地平線から力強い光が世界を照らし始めていた。
夜に隠れていた色が姿を現す。
しかし、二人の瞳に映るのは枯れ果てた大地。鮮やかな色なんて、ない。
だから、求めるのだ。探すのだ。
ダチュラが砂埃の道を進み、アイビーはそれに続く。
そうして今日も二輪の花は雨に恋焦がれるかのように咲き続けた。