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純文学&ヒューマンドラマの棚

さようなら、私の恋。




「ずっと前から好きです!おお俺と、付き合ってくださいっ!!」


 そう、拓也に告白されたのは、高校の卒業式後だった。

 私もずっと拓也のことが好きで、大好きで。でも、自分に自信がなくて、その気持ちを言えずにいた。拓也への恋心を伝えないまま、私は高校を卒業しようとしていた。けど、卒業式が終わって拓也に校舎裏に呼び出されて。そこで告白……されて。


 私は本当に嬉しくて。信じ……られなくて。だって、始められずに終わるだろうと思っていた恋が、まさか動き出すなんて。好きな人に「好き」って言ってもらえるなんて……思ってもなかったから。

 私はみっともなく、顔を涙でくしゃくしゃにしながら「私も……ずっと好きです」って言って。そしたら、拓也は私のことを優しく抱きしめてくれた。

 拓也の広くて暖かい胸。力強く、けれども私の体を優しく包む大きな腕。──私は今でも、その時の暖かさや感覚を全身で覚えている。



 その時のことも。それからの拓也との思い出も、全部愛しい宝物。デートしたり、お互いのお家を行き来したり、抱きしめあったりキスしたり。そして……全身で愛を交わしたり。笑いあったり、たくさんケンカもした。けど、2人で目を見てちゃんと話して仲直りして。

 これからもずっとずっと、そんな日が続くのかなって。しわしわのおじいちゃんおばあちゃんになってもずっと、拓也の傍に──拓也と一生一緒にいるって。私は変わらず拓也にずっと、恋して愛しているんだろうって……そう、思っていた。



 けど、大学二年になった頃から、拓也は変わった。前は、キスもハグもたくさんしたのに、だんだん回数が少なくなっていって、最近は全然していない。セックスも……私から誘っても「今日はバイトで疲れてるから」とか「そう言う気分じゃない」って言ってしようとしない。それに、私と一緒にいても、ずっとスマホをいじってる。LINEの通知音や電話が鳴る度、拓也はスマホに飛びつきそして……幸せそうに微笑む。



「ねえ、拓也」

「……」

「ねえ、拓也ってば!」

「ん~……なに?」


 拓也はスマホを見ながら、そっけなく返事した。


「最近拓也、スマホばっか見てるけど……誰とやりとりしてるの?」

「ん~?あー……ダチだよダチ」


 その間も、拓也はスマホから視線を外さずに私と話す。


「……ねえ、拓也」

「ん~?」

「拓也は私のこと……好き?」

「ん~……え?今なんか言った?」

「……拓也は私のこと好きなのって聴いてるんだけど」

「あ~……うん……そう、だな……」


 ぽこん。と、拓也のスマホからLINEの通知音がして。相変わらずスマホから視線を外そうとせず、拓也はスマホの画面を見つめながらそして。


「……好き、だよ。めっちゃ愛してる」


 と、拓也はそう言った。

 私は拓也のその言葉が嬉しくて、拓也に抱きつこうとした──けど、その言葉が私への言葉ではないことにすぐに気づいた。

 ふっと優しく微笑みながら見つめる先は──スマホ画面。その表情かおは、私と付き合い始めた時によく見せた、拓也の表情かお……だった。


 ──ねえ、拓也。今の「好き」は誰に言ったの?ねえ、何でスマホを見つめながら優しく微笑むの?私……最近、拓也と目があったことないよ。ねえ……ねえ拓也──


 そんな言葉を心の中で思いながら。言えぬ言葉の代わりに、私はほろりほろりと静かに涙をこぼした。


「ねえ拓也……」


 こっち見て。私泣いてるよ?

 こっち……見てよ。


「うるさいなー。なに?」


 拓也は小さく舌打ちし、少し怒りぎみにそう言った。相変わらず、スマホから視線を外すことなく。涙を溢す私に気づくことなく。拓也は、スマホを見つめ続ける。



 なんか……もう、いいや────



 私はそう思いながら、ポツリと言った。


「拓也……別れよっか」

「ん~…………え?」


 そう言って初めて、拓也は私の目を見た。





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― 新着の感想 ―
終わり……ではなくて。 ここから、何かが始まりそうな気がしましたね。 失ってから初めて気づくと言う言葉もありますし。 二人に足りなかったものは、何でしょうか。 ここからですね。 選択肢。選び取る未来…
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