ゴブリンは蜘蛛の女王に気に入られました2
アラクネに飼われるゴブ生も悪かないかもしれない。
ドゥゼアは下半身クモなアラクネにも嫌悪感を抱いていないのでむしろ上半身美人なことの方をプラスに思っている。
ひ弱なゴブリンが何もしなくても生きていけるなんて夢のような話だ。
でもドゥゼアにはやらねばならないことがある。
ゴブリンを送り届けたり、仲間となったレビスやユリディカと旅をすることもそうなのだけどもっとドゥゼアの奥の深くにあるのだ。
目的も何をしたらいいのかも分からないけど何かをやらねばならないという漠然とした焦りのようなものが。
理由も思い出せないが決して無視することはできないこの感情を無視して怠惰に暮らすことなどとても出来そうもない。
「女王、あなたは魅力的だ。
だけど俺には俺のやるべきことがある」
それが何かも分からないけれど何なのか探すことはできる。
ただここでじゃない。
「……可愛いゴブリンね。
でも、私の誘いを断るなんて悪い子は置いておけないわね」
スーッとドゥゼアが下がっていって地面に降ろされる。
「これを持って行きなさい」
アラクネが手のひらに力を込めると魔力が集まり白い糸が渦巻いた。
そして糸は1つの球体となった。
アラクネは糸の玉をドゥゼアに渡した。
ちょっと力を加えてみると芯があるような感じもしながらもフニフニと弾力がある。
「これは?」
「私の魔力を込めた糸で作った玉よ。
クモはどこにでもいる。
横の繋がりが大きな生き物なの。
これを持っていればクモに襲われることはないわ。
そして賢いクモなら周りのことぐらい教えてくれるはずよ」
「なぜこんなものを……」
つまりはアラクネの後ろ盾があることを証明してくれるアイテムということ。
クモ系の魔物の頂点に立つアラクネが認めたとあればクモは手を出してこない。
それどころかクモの協力まで得られる。
こんなものがあるだなんて聞いたこともなかった。
「私はあなたを気に入ったのよ。
一緒に行くことができないのが残念だわ。
そのやらなきゃいけないことっていうのが何なのか知らないけれど、終わったら私のところに来なさい」
アラクネは優しく、妖しく笑う。
こんなに他の魔物を気にかけたことなどない。
これも気まぐれ。
だけどたまにはこんな気まぐれもいいんじゃないかと思う。
ドゥゼアなら変な悪用もしないはずだと信じている。
「あなたが死んだら残念だから少しだけそれで助けてあげるのよ。
それに感謝したら約束に固いあなたが来てくれそうだしね」
人であった時はアラクネは恐ろしい相手だった。
ある種の蠱惑的な見た目も相まって非常に脅威度の高い魔物であったがこんなにも理性的でユニークな一面を持っているだなんて思いもしなかった。
「感謝するよ」
「まあ今回楽しませてくれたお礼だとでも思って」
危険性が減り、クモの協力が得られるなんてとんでもなく素晴らしいものである。
突き返す必要もなく素直に受け取っておく。
「それであなたたちはこれからどうするのかしら?」
「それについて早速お願いしたいことがありまして」
「あら?
ズルいゴブリンね?」
使えるものは使う。
クモの横の繋がりとやら活用させてもらうことにしよう。




