ゴブリンはウルフと戦います4
成功率を少しでも上げるためにロープを張り、落とし穴を作り、後ろからユリディカに襲わせてウルフに動揺を誘わせた。
コボルトの決死の特攻。
槍がウルフに刺さるけれどウルフもただやられているだけではない。
刺さりが浅くて倒しきれなかったウルフはギッチリと槍を抱えたままのコボルトに鋭い牙を突き立てる。
あれほど刺したら放して逃げて次の槍を取れと言ったのに実際の戦いになると勝手が違うものだ。
「ユリディカ、そいつを頼む!」
一際体の大きな、おそらくリーダーであろうウルフは流石に動きが違った。
かわしきれずに受けた槍はたったの1本だけ。
ウルフリーダーに喉を噛みつかれてコボルトの1体が空中に投げ出された。
このままではマズイ。
ドゥゼアはユリディカにウルフリーダーと戦うように指示を出した。
そして自分は他の比較的無事なウルフの方に向かった。
「レビス手伝え!」
「うん!」
ウルフの怒りの目はドゥゼアに向いていた。
こんなことコボルトが出来るはずがない。
つまり余計な入れ知恵をしたのはこのゴブリンであると思っていた。
ドゥゼアは今回槍を持っている。
槍も別に専門ではないが剣よりも軽く、距離を取って戦える利点があるのでゴブリンに生まれてからは剣よりも手に取ることが多い。
ここで考えが足りないのがウルフの限界。
こんな作戦を考えるゴブリンなど普通のはずがない。
だけれどそんなことを考えることもなくドゥゼアの喉を噛みちぎろうとウルフはドゥゼアに飛びかかった。
コボルトならば対応することもできずに噛みつかれて死んでいたことだろう。
しかしドゥゼアは冷静に飛び掛かってくるウルフのことを見ていた。
大きく開かれた口。
そこ目がけてドゥゼアは槍を突き出した。
ブスリと槍が深々とウルフの喉に突き刺さる。
けれどゴブリンの貧弱さでは完全に槍が刺さりきらず、またウルフの飛びかかる勢いに耐えられなかった。
槍を刺してかわすつもりが間に合わず、そのままウルフに押し倒される。
「やあっ!」
横からレビスがウルフに向かって槍を突き出す。
ゴブリンは手がちゃんとしているのでコボルトのような特攻スタイルを取らなくてもいい。
槍の扱いにもだいぶ慣れてきたレビスは少し戦う相手のことも分かってきた。
自信がないなら確実に当てられるところを狙うのがいいけれど自信があるなら相手の弱点を狙うべき。
レビスの突き出した槍は見事にウルフの目に刺さった。
喉と目をやられてウルフがひどく苦しむ。
打ち付けた背中が痛むけど今は痛みが治まるのを待っている時間もない。
ドゥゼアは腰につけていた短剣を抜くと今度は外からウルフの喉を切り裂いた。
ウルフの血が飛んでドゥゼアの顔にかかる。
ウルフだって生きるのに必死なのだ。
だが仲良く出来ないのなら奪い合うしかない。
もう少し賢く、相手を受け入れる余裕があったのならウルフとも共存することができたのかもしれないがあくまで仮の話だ。
今は倒すしかない。
己のため、明日を生きるために。
「ドゥゼア、ユリディカが!」
「ユリディカ!」
倒せるだろうと思っていたのにウルフリーダーは意外と強く老練だった。
組み伏せられたユリディカはウルフリーダーに噛みつかれそうになっていて、口を出て押さえてどうにか耐えているところだった。
ユリディカが戦っている時はダンジョンに操られて本能的に動いていた。
自分で考えて戦うことの経験がユリディカには圧倒的に不足していたのだ。
能力だけで勝てるだろうとドゥゼアは読んでいたがウルフリーダーの方が経験豊かで能力で勝るユリディカを相手にして優位に戦っていた。
「おらああああ!」
ウルフの牙が少しずつ迫ってきてユリディカは余裕で勝てるだろうなんて思っていたことを反省した。
しかしここからどう展開させていけばいいのかも分からなくてただただちょっとずつ力負けしていくのを待つしか出来なかった。
ここで死ぬのか。
そんな風に思った瞬間ウルフリーダーの目が見開かれ、体から力が抜けた。
「大丈夫か?」
そしてウルフリーダーの向こうにドゥゼアの姿が見えた。
ユリディカが危ないと思ったドゥゼアは走って行き、ユリディカに覆いかぶさっているウルフリーダーの頭を目掛けて全力で短剣を振り下ろした。
幸いユリディカと力押ししていたのでドゥゼアの接近に気づかなかったウルフリーダーは短剣をモロに頭に突き立てられた。
どうしてゴブリンなのにこんなにカッコよく見えるのだとユリディカは思った。
絶体絶命の危機だったことに泣きそうになるのを堪えて差し出されたドゥゼアの手を取って立ち上がる。
「ケガはないか?」
「だいじょぶ……」
「なら良かった。
……俺の判断ミスだな」
ワーウルフだから勝てるだろうと軽く見てしまった。
他にどうしようもなかったけれどもっとユリディカに気を配ってやるべきだった。
「あとは1匹だけか……」
気づけばほとんどのウルフが倒れている。
残る1匹も全身を槍に刺され、興奮に血走る目をしたコボルトに囲まれている。
一斉にコボルトたちがウルフに突撃する。
逃げ道もなく、ただコボルトの槍を受けるしかないウルフ。
最後の1匹が倒れて、コボルトが勝利の雄叫びを上げた。




