ゴブリンは未来を見る魔人に会いに来ました1
旅を続けるドゥゼアたちは地図の上ではヘランケルンという国に入ってきた。
ペクリャーナという未来を見る魔人がいる国で、ペクリャーナの影響で魔人に対する偏見が比較的少ないのだという。
ただそれでもゴブリンは魔人として異質だろう。
魔物としては知恵を絞って生きている方だとドゥゼアは思うのだけど、魔人として認められるほどの知恵はないだろうというのが人間の中での考えである。
ワーウルフのユリディカも魔人としてはギリギリ認められるかどうかというところであるが、オルケやデカーヌといった魔人として問題なさそうな中に入れば周りも疑問を持たない。
なのでドゥゼアとレビスはフードをかぶって顔を隠し、他のみんなはそのまま歩いている。
こうすればドゥゼアとレビスのことも背の低い魔人だろうと周りは思ってくれる。
「それでもやはり見られるな」
「まだこの辺りは田舎ですからね。魔人もそう多くは見られません」
今ドゥゼアたちがいるのはまだヘランケルンの田舎の方である。
魔人が多いといっても大きな都市に限って、他の国に比べればという話だ。
田舎町ではいまだに魔人は物珍しい。
それでも他の国であるような魔物に対する敵意が少ないだけマシではあった。
『おや、魔人の方だね』
『泊まりたいのですが部屋はありますか?』
旅は急ぐものではない。
焦ってトラブルが起きてしまっては面倒なので休める時に休んで着実に前に進んでいく。
ヘランケルンに入ったばかりでまだ日も高くはあるが、田舎で泊まれるような町も少ないので早めに移動を切り上げて宿に泊まることにした。
もはや外で寝ることになんの抵抗もなくなったドゥゼアであるけれども、ベッドで寝られるのはやっぱり嬉しい。
『もちろんだよ。魔人でもお客さんは歓迎だ』
宿のお婆さんは鍵を取り出してデカーヌに渡す。
『なにか?』
宿のお婆さんに見つめられてデカーヌは首を傾げた。
『最近魔人についてきな臭い噂がある。気をつけな』
『……ご忠告感謝します。いったいどのような噂か聞いてもよろしいですか?』
『さあてね。こんな田舎じゃ聞こえてくる噂は限られる。だが魔人をよく思っていない連中もいるようだ』
『なるほど、ありがとうございます』
デカーヌは営業スマイルを浮かべると部屋に向かう。
「何か問題でも起きているのかもしれないな」
「可能性はありますね」
後ろで話を聞いていたドゥゼアは小さくため息をつく。
ただペクリャーナという魔人に会えればいいのに先行きが不安である。
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不安をよそに旅そのものは順調であった。
時々魔物に襲われたりもしたけれど、返り討ちにして美味しい食事としてあげた。
そしてヘランケルンの第二の都市であるミドワガにドゥゼアたちはたどり着いた。
「ここにペクリャーナがいるのか?」
「ええ、そのはずです。ですがすぐには会えないかもしれません」
「どうしてだ?」
「彼女は町でも人気の占い師でして……」
未来を見るという能力を使ってペクリャーナは占いを行っていた。
ドゥゼアもそのことについて非難するつもりはない。
自分の能力をどう使おうと勝手であるし生きていく上でお金は稼がねばならない。
ただその占いが人気であるせいで連日ペクリャーナの元を訪れる人が後を絶たないというのはペクリャーナに会いたいドゥゼアにとって問題である。
とりあえずペクリャーナがいる占いの館近くまでドゥゼアたちはやってきた。
館の前には人が列を成している。
その中には魔人もいた。
本当に魔人も多少は住んでいるのだなと感心してしまう。
「どうするんだ?」
「たとえ有権者でも貧しい人でも彼女は差別しません。会いたければ占いの予約をするしかありません」
「あの並んでる連中は?」
「時々予約がキャンセルになって空き時間ができたり、占いが早く終わることがあります。その時にああして並んでいる人も占ってくれることがあるのですが……期待はしないほうがいいです」
デカーヌは肩をすくめる。
人気の占い師の予約をすっぽかす人は決して多くない。
占いも時間いっぱいまで質問する人が多く、スケジュールに余裕ができることは少ないのだ。
それでも希望をかけて館前に並ぶのである。
何を期待してそんなに並んでいるのかと呆れるがドゥゼアも未来を見れるという能力に期待して会いにきているのだからそんなに変わらないかとため息を漏らしてしまう。
魔王という脅威について聞きたいのであり他の人とは少し事情は違うが、実際にはそんなに変わらないのかもしれない。
「そもそも何も分からないかもしれないしな」
苦労してここまできたが魔王に関する未来など見えないかもしれない。
そうなったら計画を次に進めるだけである。
「どうだった?」
あまりに予約が先になるようなら他の人に混じって屋敷の前で待つことも必要になるとドゥゼアは覚悟していた。
「三日後……」
「三日? 意外と予約入ってなかったのか?」
「いえ、本来なら予約でいっぱいで……三日後はペクリャーナさんのお休みの日だったらしいのですが」
「ならどうして?」
「まるで私が来ることをわかっていたように……あなたを三日後に連れてこいと」
デカーヌは不思議な気分になっていた。
予約するために屋敷の中に入るとペクリャーナの助手を名乗る女性に声をかけられた。
そして予約は必要ない、三日後にゴブリンをここに連れてきなさいと言われたのだ。
それこそデカーヌがドゥゼアの使いとして予約しに来たことがわかっていたかのようであった。




