ゴブリンは研究者を見つけました4
『頭をゴーレムに移植して私は私としてゴーレムになることに成功したのだ』
すごいことなのだろうがよりすごいのはそこまでする執着だとドゥゼアは思う。
何があったらゴーレムに脳みそ積んで研究を続けようと思うのか理解ができない。
「何のためにそんなことを?」
『魔物の前でこれを告げていいのか分からないが正直に言おう。魔王を倒すためだ』
「何だと?」
少しヴァンベーゲンの話に興味が出てきた。
『かつて人は魔王に負けた。今がいつなのか知らないのでどれぐらい前のことかも分からないがな。ただ魔王に負けた人は辛くも魔王を封印することで何とか仮初の平和を保ったのだ』
どうやらドゥゼアの知る魔王のことをヴァンベーゲンは言っているようだ。
『その時に魔法使いの最高権威でも魔塔はほとんど協力することもなかったのだが、私はそのことが疑問だった。因果によって勇者以外は魔王を倒せないなどと言われているが魔法の可能性は無限だ。仮に倒せないとしても魔法で圧倒して勇者にとどめを刺させればいい』
優れた魔法使いならば魔王にも負けないはずだとヴァンベーゲンは考えていた。
勇者以外の人では魔王を倒せないという世界の法則があることも知っていたが、魔王を倒せずとも勇者が倒せるほどの状態まで持っていくことは可能だろう。
ただそれにも問題はあった。
『しかし人の体というのは脆くて弱く、持てる時間は短い。魔法について研鑽を重ねて知識を得て技術を得ていく間に体は衰えて魔力は少なくなる』
人の体はある程度の年齢まで魔力が増えていき、ピークを超えるとそこから魔力も衰えていく。
体の老化速度ほど魔力がなくなるわけではないので経験豊かな魔法使いの方が最終的には強いのだが、純粋な魔力量はおよそ肉体的な最盛期と一致する。
『魔王を倒すのにも人の魔力は足りない』
ヴァンベーゲンも傲慢ではない。
これまで積み重ねてきた知識や歴史を持ってすれば魔法使いが魔王とも戦えるだろうけれど、その前に人の魔力は魔王には及ばないという問題もある。
『そこで私は研究をしたのだ。積み重ねた知識と魔力を他人に託すことはできないかとな』
「……なに?」
『魔法の知識と魔力を他人の体に移すのだ。若いうちから知識を得て大きな魔力を持って修練すれば魔王とも戦えるという考えを元に私の知識と魔力を誰かに与えられないかと研究していた』
かなりぶっ飛んだ考えをしているとドゥゼアは絶句した。
ユリディカたちは何が何だかよく理解していない。
オルケだけは魔法の知識があるのでヴァンベーゲンの考えに驚いている。
「……研究は完成したのか?」
ぶっ飛んだ考えではあるが魔王を倒すという目的はドゥゼアの目的と一致する。
もし仮に強力な魔法使いがヴァンベーゲンの研究によって生まれるのなら魔王を倒せる可能性が高くなるかもしれない。
ここに入ってきた時にヴァンベーゲンは動いていなかった。
研究しているのなら動いているはずで、そうしていないということは研究はすでに出来上がっているかもしれないと期待する。
『研究そのものは完成した』
「なんだか含みのある言い方だな」
『これにもまた問題があるのだ』
「移すことに失敗したのか?」
『そうではない。魔力や知識を移すことは理論上可能であり、そのための魔法も完成させた』
「ならば何が問題なんだ?」
『ずっと言っておる。人の体が問題なのだ』
ため息でもつきそうにヴァンベーゲンは吐き捨てた。
「どういうことだ?」
『知識も魔力も受け入れる人の体が耐えられんのだ。人の体や脳は脆くて外から急激に与えられたものの大きさに耐えられない』
「じゃあ失敗か」
『そうではない!』
怒りのままにヴァンベーゲンが壁を殴りつけた。
アイアンゴーレムの体をしているヴァンベーゲンの力は強く壁がボッコリと陥没する。
『もちろん方法を考えた。しかしこれまで試せる相手がいなかったというだけの話だ』
「方法はあるのか」
『そうだ。人の体は耐えられぬ。ならば魔物はどうだ』
「…………なに?」
またしても突拍子もないことを言い出してドゥゼアは顔をしかめた。
『魔物の体は人よりもはるかに頑丈だ。大量の魔力も受け入れられる』
「……なるほど」
人の体が弱すぎるのならより強い肉体を用意すればいい。
ヴァンベーゲンは人の体を強化することも試したけれど人の体ではどうしても限界があった。
そこでヴァンベーゲンは魔物に目をつけた。
肉体的な強度でいえば魔物は人と比べ物にならないぐらいに強い。
魔力を受け入れられるほどに頑丈さを持っている魔物も多くいる。
そもそも魔物は他の魔物を食らって魔力を吸収して強くなる。
人と違って魔力が増えることに対しての土台が違うのだ。
『だが魔物に知識と魔力を与えてどうなる。そんなこと無意味でしかない……そう思っていた』
魔物は所詮魔物。
魔力はいいとしても知識は知能がなければ意味がない。
そうなれば魔物にただ魔力を与えるだけになってしまう。
ここでヴァンベーゲンの研究は止まってしまっていた。
しかしそこにドゥゼアたちが現れた。
『理性的に動く魔物! 見たところ杖を持っているものもいるな』
「わ、私?」
オルケが自分の手に持った杖を見た。
魔物が杖なんか持たない。
持ったとしても棍棒代わりであり、両手でしっかり抱えているということは杖を杖として持っていることが分かるのである。




