ゴブリンはゴーレムと戦います7
「とりあえず試せることは試してみようか」
アイアンゴーレムのコアを攻撃する方法をカジオとの会話の中で思いついた。
「なんにしてもレビス、お前の力が重要だ」
「うん、わかった頑張る」
ドゥゼアに期待されてレビスはやる気を見せている。
思いついた方法もレビスの力あってのことなのでぜひとも頑張ってもらいたい。
「頑張ってくださいね!」
今回降りるのはドゥゼアとレビスに加えてユリディカもである。
オルケは穴の中にお留守番で応援係である。
「ドゥゼアさん、怪我しないでくださいね」
「危なくなったらすぐ戻るから大丈夫だろう」
カワーヌもドゥゼアのことを応援する。
ドゥゼアには大きな目的がある。
こんなところで死んでなどいられない。
「いくぞ! オルケ、頼む」
「はい!」
ドゥゼアたちは穴から飛び降りる。
部屋の中に入ってから明かりがつき始めるまでには少しだけタイムラグがある。
暗くても穴の中で使っている光が漏れてなんとか活動できなくもないが多少慎重にならざるを得ないところはある。
そこでオルケに魔法を使ってもらい、部屋の明かりがつくまでの間照らしてもらうことにした。
オルケが火を放つと部屋の中がうっすらと赤く照らされ、ドゥゼアたちはアイアンゴーレムに向かって走る。
部屋の中の松明が一人でに燃え始め、ギギギとアイアンゴーレムが動き出す。
ドゥゼアはアイアンゴーレムの前で立ち止まり、レビスとユリディカはアイアンゴーレムの動きが鈍いうちに後ろに回り込む。
「ほい、レビス!」
「ん!」
グッと体勢を落としたユリディカが手を差し出す。
レビスはユリディカの手に足を乗せるとユリディカと視線を合わせる。
「よいしょー!」
タイミングを合わせてユリディカが腕を振り上げる。
レビスはユリディカの手を蹴って大きく飛び上がりアイアンゴーレムの背中に上手くしがみついた。
「ふぅぅぅん!」
アイアンゴーレムの背中に手をついたレビスは目を閉じて魔力を集中させる。
変化はすぐに目に見えた。
「いいぞ!」
アイアンゴーレムの胸のところがぐにゃりと歪む。
胸の金属が動いてヘコみ、そしてそのまま止まった。
「限界……」
「ユリディカ!」
「あ、うん!」
レビスの体から力が抜けてアイアンゴーレムから落ちる。
ユリディカが素早くレビスをキャッチしてアイアンゴーレムから離れていく。
ドゥゼアもカジオを召喚してアイアンゴーレムを任せると引き下がる。
ドゥゼアはユリディカからレビスを受け取るとユリディカがまず先に穴に上がる。
「引き上げろ!」
片手でぐったりとしたレビスを抱えたドゥゼアはもう片方の手でロープを掴む。
穴の中にいるデカーヌたちがロープを引くとドゥゼアはロープで体を支えながら壁を蹴って穴まで上がっていく。
「ふぅ……危ないところだった」
「ぬふ……ごめんなさい」
「謝ることはない」
壁にもたれかかってぐったりとしたままレビスは悔しそうな顔をしている。
レビスが急に倒れたのは魔力不足が原因だった。
ドゥゼアの考えた作戦とはレビスの能力によってアイアンゴーレムの胸に穴を開けようとしたものだった。
金属を操る能力がアイアンゴーレムにも一定程度通じそうなことは分かった。
全身を操ってしまうことはレビスの魔力では不可能であるけれど一部に集中したらどうだろうかと考えたのだ。
コアがある胸部分の金属を操って穴を開けてコアを露出させられないかと試した。
ドゥゼアが攻撃で穴を空けようとするよりよほど可能性を感じられた。
しかしレビスの魔力が足りなくて穴を空けきることができなかった。
全ての魔力を使い切ったレビスは魔力不足に陥って動けなくなってしまったのである。
「惜しかったですね」
傷一つつけられないアイアンゴーレムの体に目に見える変化をもたらしたのだからこれまでで一番惜しいところまでいったといえる。
「レビスの魔力が回復するまで休もう」
魔力ポーションという選択肢もある。
しかし持ってきた食料もあるしここは焦らず回復を待つことにした。
ゴブリンは魔力も少ないがその代わりに回復も早い。
アイアンゴーレムの様子を確認しながらのんびりとしているとレビスもすぐに動けるほどに回復してきた。
「あいつは大丈夫なのか?」
ただまだ前回には程遠いので食事でも食べることにした。
魔道具で小さく火を焚いて食べ物を炙って温めて食べているとドゥゼアは穴の奥で足を抱えて丸くなっている冒険者が気になった。
ドゥゼアたちが何をしようとも気にすることもなくうつろな目で地面を見つめ続けている。
「仲間を失ったことが相当ショックなのでしょう。元は明るい人だったんですがね……」
デカーヌもため息をついて首を振る。
魔人商人であるデカーヌにも気さくに話しかけてくれるような明るい女性冒険者だったのだが、アイアンゴーレムに仲間がやられてしまって塞ぎ込んでしまった。
穴に逃げ込んできた以上死にたくはないのだろうけど生きたいという希望も感じられない。
「話しかけても反応がないのでそっとしておいてます」
「まあ……仕方ないか」
仲間を失う辛さは理解できる。
こんな場所で魔物に囲まれて、逃げられられもせず、絶望的な相手と戦うしかないのであれば塞ぎ込んでしまうのも仕方ない。




