ゴブリンは獣人の底力を思い知ります6
南から攻めてきていた人間軍は王の息子たち3人が大将として兵を率いていた。
まさか負けるなどと思ってはいないのだろう、獣人の国を占領し、息子たちの名声を高めることにも戦争を利用しようとしていた。
しかし結果は人間たちが大敗した。
カジイラがスカウトした少数氏族である巨象族と黒狼族という氏族が敵陣を突っ切り大将首を狙ったのである。
個としても優秀な巨象族と黒狼族は人間の兵士を蹴散らして進み、大将である3人の王子に迫った。
そして2人を殺してまだ使えそうだと思った1人だけを活かして捕らえたのだ。
指揮系統の一番上を失った人間たちは混乱に陥った。
一方で猫族も族長であるメクーンがおらずに人間の混乱に押されてしまった。
結果として人間・猫族は獣人に大敗。
現在は撤退する人間軍を追いかけているとのことだった。
『巨象族と黒狼族、氷豹族はこちらに向かっております』
強者である氏族たちに逃げ惑う人間を刈り取ってやる趣味はない。
『急ぎ、戻ってくる友に伝えてほしい。緊急事態、再び力が必要だとな』
『分かりました!』
ネズミの獣人は緊迫した状況を察して再び走り去っていく。
『聞きたいことも話したいこともある』
カジイラはカジオのことを振り返った。
昔の優しいカジイラの中に王としての強さもまたあることをカジオは感じた。
『だが話すのは後にしよう。此度は俺も前に出る』
『お、お父様、お体大丈夫なのですか?』
ヒューリウが心配そうにカジイラの顔を見上げる。
『』あれはな……半分ウソだから大丈夫だ』
『半分……ウソ?』
カジイラはヒューリウの頭を撫でるとふわりと笑顔を浮かべる。
『兄さん……』
『立派になったな』
カジオが褒め言葉を口にするとカジイラの胸には喜びや懐かしさの感情が溢れてきた。
しばらく流していなかった涙が溢れてきてしまいそうになってカジイラは表情を引き締める。
『お前の言う通り話は後にしよう。今は獣人の国を守るんだ』
『必要最低限の兵を残し、卑しくも我々を攻撃してきた人間どもを迎え撃つ! 皆のもの準備をせよ!』
『はっ!』
カジイラの号令で兵士たちが慌ただしく動き出す。
「なんだかわけわかんないね〜」
「うん」
「人の戦争って複雑ですからね」
やや存在の薄いヒロインズは緊迫した空気と裏腹にのんびりとしたものであった。
「…………」
『不安か?』
「そうだな」
獣人たちの士気は高い。
2カ国から同時に攻められても押し返せるような底力は十分にあるのだとドゥゼアも感じている。
それなのに一抹の不安を感じずにはいられない。
『あの老人のせいか?』
「ああ……なんだかあのジジイとは因縁があるようでな」
北から攻めてくる人間の軍には化け物じみたジジイがいる。
ここまでジャバーナの話は聞こえてこない。
ほんのわずかな希望を捨ててはいないが、あの強靭そうな獣人でもジジイには敵わなかったのかと思うと不安にもなる。
南の戦いでも獣人が大将首を取ることで状況を大きく好転させた。
ジジイ1人でどうにかなるとは思えないが万が一の可能性も否めない。
『一応あの老人のことは伝えておいた方がいいだろう』
「そうだな。不幸な被害者は増やすことはないからな」




