ゴブリンは親子の再会を目撃します2
獅子族らしい性格というべきか、他の氏族でもこうはならなかったかもしれない。
カジオが絶対的な信頼を築いていたから説得が可能だったのである。
『お父さん……?』
みんなの前でカジオが姿を現した。
そしてみんなの中にはカジアも含まれる。
逃げた時からカジオが父親であるとカジアは思っていた。
今も胸が熱くなって、本能がカジオの声に心地よさを感じている。
『カジア……』
『お父さん……お父さんなんだよね!』
『…………そうだ』
振り向いたカジオの目はうるみ、父親の顔をしていた。
『お父さん!』
カジアはカジオの胸に飛び込んで、カジオはそれを優しく受け止めた。
『僕……僕!』
『苦労をかけたな……』
カジアの目から涙が溢れ出す。
母親が亡くなり、信用していた人に殺されかけ、魔物に守られて獅子族の元まで行き、そして誘拐された。
子供が経験するにはあまりにも激動すぎる出来事の連続である。
ここまで混乱していたということもあるが、子供ながらにカジアは気丈に振る舞ってきた。
頑張って自分を保ってきていた。
しかしカジオを前にしてもう我慢ができなかった。
顔も声も知らなかった父親であるが、どうしてなのかポッカリと空いた胸の穴を包み込んでくれるようでカジアは泣いた。
カジアはカジオを強く抱きしめて涙と感情を受け止める。
『カジア……』
それを見ているヒューリウも涙ぐんでいる。
誘拐されたヒューリウはとても怖かった。
何をされるのかも分からないし、カジアが誘拐されたのも自分のせいだと責めていた。
けれどカジアはヒューリウのことを慰めてて励ましていた。
ヒューリウのせいじゃないと言い、ヒューリウのことを人間が雑に扱おうとすれば守ろうとした。
弱いけど強いのがカジアだった。
そんなカジアが大泣きしている。
カジアの心の強さをヒューリウは改めて思い知った。
『お父さん……』
『カジア、よく聞くんだ。俺はお前の前にまた現れるし、ちゃんと話をしよう。ただ俺はお前と長く一緒にいられないんだ』
カジオの声が震えている。
ドゥゼアから召喚されている以上長くは出ていられないし、ドゥゼアといなければならないのでカジアのそばに留まることもできない。
『すべての訳を話す。もう少しだけ辛抱してくれ』
『……分かった』
『驚いたよ。俺の息子は……とても優しく、とても強い子に育ったのだな』
優しい目をしたカジオは大きな手でカジアの頭を撫でる。
ここまで何があったのかはカジオも見てきた。
自分が子供だったらこうした出来事に耐えられたか分からない。
でもカジアは強く耐え抜いたのだ。
『お前は自慢の息子だ。これまでも、これからもだ。絶対人間なんか獣人は負けない。……あの子を守ってやるんだ』
どこかヒューリーに似ている獅子族の女の子。
人間にヒューリウを奪われてはいけない。
『まかせてよ。僕も心臓使えるようになったんだ。お父さんに習ったから……』
もうカジアは少し事情を察しつつある。
細かなことまで分からなくともこれまで自分を助けてくれて、心臓の使い方なんかを教えてくれていたのはカジオだったのだと気がついたのである。
『困ったらドゥゼアに従いなさい。彼は賢く強い。お前の力になってくれるから』
『分かりました! ……お父さん?』
『もう限界か』
「悪いな。こっちも余裕がない」
カジオの体が透け始めた。
ドゥゼアとしても頑張ったけれど弱っている体で魔力も万全ではない。
カジオを召喚しておく限界を迎えたのである。
『また会える』
最後に再びカジアの頭をひと撫でしてカジオは消えていった。
『……行こう。人間はもう目の前まで迫っている』
一度グッと目を閉じて全てを飲み込んだカジアの目にもう涙は浮かんでいなかった。
『お父さんが守った獣人の自由は奪わせない』
「……獅子の子は獅子だな」




