ゴブリンは尋問します2
そして魔力ポーションを飲んで再びカジオを召喚する。
今度は薄く透けた姿のカジオである。
これがドゥゼアの作戦だった。
まずは普通の姿のカジオを出してクレディアを脅してしっかりと印象を植え付けておく。
その後長時間出していられる透けた姿のカジオにチェンジするのだけど、縛られたクレディアには後ろにいるカジオの姿は見えないから透けていても問題ないというわけである。
『なぜカジアを殺そうとした』
透けてしまって触れることも叶わなくなったが相変わらず低い声をしてカジオが平然と質問を続ける。
『それは……』
言いにくそうにしているクレディア。
『わ、分かりました! 答えます!』
それならばとドゥゼアは尻尾にナイフを当てる。
脅しではなく口を開かないのなら本当に尻尾を切り落とすつもりだった。
『わ、我ら猫族が王になるためです!』
『なんだと? 反乱でも起こすつもりか?』
せっかく安定してきたのに王位を得るためにまた戦いを起こすのかとカジオは顔をしかめた。
『違います! 猫族が反乱を起こしても王位の簒奪は難しいでしょう……』
『ならばどうやって王位になどつくつもりだ?』
反乱を起こしたところで他の氏族もいるので激しく抵抗にあって王位につくことは難しい。
もしかしたら猫族が滅びてしまう可能性だってある。
王の座が欲しいとしても力で奪い取ることはほとんど不可能だと言ってもよかった。
ならどうやって王になるつもりなのかドゥゼアにも疑問だった。
『獣王には一人娘がいます。その娘との婚姻をみんな狙ってるんです!』
『……なんだと?』
ちょっと予想していなかった展開にカジオは困惑する。
『最近獣王は体調が優れないと言われています。そこで注目されるのが次の王に誰がなるかです』
強い者が王になるべきだという意見は根強いけれど国の王となるのに強いだけでは成り立たないことも獣人たちは理解してきた。
さらには中央の政府で力を持っているのは獅子族であり、そのまま獅子族が王であるように画策もしている。
なので次の王は獣王の娘になるのではというのが一般的な考えだった。
しかし獣王の娘はまだ幼い。
国の舵取りを行えるような年齢ではないのだ。
となると実質的な王は獣王の娘の結婚した相手になる。
さらには子供が生まれれば子は獅子族だけでなく配偶者の氏族の血も引き継いだ子供になる。
今は王たる立場にある獅子族が強い権力を持つが、自分たちの氏族の血を引き継いだ子供がいれば大きな発言力を持つことになるのは間違いない。
『そのために我ら猫族は獣王の子を狙っているのです』
いわゆる政略結婚に近いようなものを猫族は狙っていたのである。
『それにカジアがどう関わってくる?』
猫族の狙いは分かった。
しかしどうしてそれでカジアを狙うことになったのかはまた別問題である。
今の話にカジアが関わってくるようには思えなかった。
『一般には知られていない話ですがかつて戦争で活躍した獅子王の子供がいると噂になっています。そして獣王がその子を探していると。自分の娘と結婚させるつもりなのだと言われています』
『な、なんだと……?』
いきなり降って湧いたカジアの結婚話にカジオがひどく動揺してしまう。
しかもお相手が姪っ子なんてびっくりだろう。
『年齢も近いようですし獅子王の息子なら周りの納得も得られ、獅子族の権力も保てる。…………だから獅子王の息子は消さねばならなかった』
噂の真偽、実際にどうなのかはともかくとして本当に獣王カジイラがカジアと自分の娘との結婚を画策しているとしたら権力を狙うものたちにとっては不都合である。
けれど結婚をやめろと言ったところで聞き入れない以上は別の手段で止めるしかない。
その手段こそカジアの暗殺ということであった。
カジアが本当にカジオの息子なのかクレディアには知りはしなかったけれどオゴンのところを訪ねる若い獅子族がいたら殺すようにと指示を受けていたのである。
カジオとオゴンの関係は皆が知っている。
カジオの息子であるカジアが訪ねてくる可能性があることも猫族は考えていたのである。
『それでカジアを2度も暗殺しようとしたのか』
『2度……? 何を言っているんですか? 私が彼を殺そうとしたのは今回が初めてです』
『カジアのことを殺そうとしたではないか。ブラッケーとかいう奴を使って』
『ブラッケー? 知らないですね』
どういうことだとカジオはドゥゼアを見た。
ドゥゼアもまだ完全には事態を把握できていないが話の雲行きが怪しくなったことは分かった。
クレディアがこの期に及んでブラッケーの存在についてウソをつく必要がない。
『猫族はカジアの居場所を把握していたのではないのか?』
『私たちは何も……そもそもそのカジアという子が獣王が捜している獅子王の子供なのですか?』
やはりクレディアはブラッケーがカジオの息子であるカジアを監視していたことを知らないようである。
『言っただろう。お前に質問する権利はない』
『……分かりました』
『お前は誰の命令で動いていた?』
『私は猫族の王……ミケルビョウ様の命令で動いていました』
『……そうか。聞きたいことは聞けた』
『な、ならば助けてくださいますよね!? 全て正直に話したのですから!』
『それを決めるのは俺ではない』
ドゥゼアは部屋のドアを開けた。
部屋の外には暗い目をしたオゴンが立っていた。
直接尋問させるのは危ないかもしれないと思ったがオゴンが雇った相手なので話を聞く権利はある。
なので部屋の外でずっと会話を聞いていたのだ。
色々と話してくれたクレディアではあるがどうするかはオゴン次第である。
『あとは2人で話してくれ』
『クレディア……俺を裏切ったのだな』
ドゥゼアとカジオは部屋を出て代わりにオゴンがクレディアのそばに立つ。
オゴンは歯を剥き出しにしながらクレディアの頭の毛を掴んで顔を寄せた。
『ま、待ってください! お願いします……助け……』
ドアを閉めた瞬間クレディアの悲鳴が聞こえてきた。
裏切り、裏切られたオゴンは裏切りに対して非常に敏感になっている。
「悲鳴でみんなが起きなきゃいいが……」
屋敷の逆側で寝ているし大丈夫かと思いながらドゥゼアは部屋に戻った。




