ゴブリンは敵を考えます4
『やはり安全な場所は中央だろう。獅子族の中にカジアを置いてしまえば容易には手を出すことができないはずだ。……姉さんの意思とは逆になってしまうけれど』
『今はそんなことも言ってられないからな。俺もヒューももうカジアを守ってはあげられない』
それにオゴンも。
足を悪くしている状態のオゴンがどれほど戦えるのか分からない。
もはや権力もなく、カジアを守るには力が足りていない。
『なら獅子族に連絡を取ってみよう。俺は歓迎されないかもしれないけれどカジアは別だろう』
他に方法はない。
獅子族で引き取ってくれるかどうかの手紙をオゴンが出すことになって話し合いは終えられた。
『カジオ兄さんはあなたの中にいて、今も話を聞いてるんだな?』
「そうだ」
ドゥゼアは頷く。
何度見てもカジオが消えてしまうことには驚く。
ドゥゼアの中にいるということを理解しているつもりなのだがどこかまだ納得しきれずにいた。
『全部……俺の責任だ』
オゴンは悲しげな目をしてゆっくりと首を振った。
『カジアだけは……カジオ兄さんと姉さんの子供だけは守るから……』
「まあ期待はしてるよ。それとこれ」
口で言うほど期待もしていないが再び裏切るようなことはなさそうだ。
ドゥゼアは小さくため息をついて紙を渡すと部屋を出た。
『あっ、申し訳ありません。もうお休みになられますか?』
部屋を出たらそこに使用人の女性がいた。
ドゥゼアは顔を見られないように頭を下げてそのまま使用人の女性の横を通り過ぎた。
『無口なお方ですね』
ーーーーー
ドアが開いた。
まだ朝でもなく真っ暗な中でわずかなロウソクの光が差し込んだ。
部屋に入ってきたのは使用人である猫の女性だった。
足音もなく静かにベッドの膨らみの横に立つ。
サイドテーブルにロウソクを置くと懐からナイフを取り出した。
ロウソクの光を照り返してチラチラと光るナイフはオモチャではない。
『ごめんなさいね。恨みはないの』
使用人の女性はナイフを両手で持ってベッドの膨らみに向かって振り下ろして突き立てた。
『……!』
ナイフを刺して使用人の女性は気がついた。
手応えが何だかおかしい。
布団を掴んで一気に剥ぎ取る。
『なっ……』
布団の中には使用人の女性が想像していたものはなかった。
代わりにいくつかのまくらが置いてあったのである。
『きゃっ!』
急に足を引っ張られて使用人の女性が転ぶ。
ベッドの下からドゥゼアが飛び出してきて転ばせたのである。
『ゴ、ゴブリ……』
そして使用人の女性に馬乗りになる。
「ごめんな。恨みはないんだ」
下から覗き込むことになるので使用人の女性はドゥゼアの顔を見てしまった。
次の瞬間使用人の女性は頭をナイフの柄で殴りつけられて気を失った。
『デーネ……どうして……』
遅れてオゴンが部屋に入ってきた。
この部屋は本来カジアに割り振られたはずの部屋であった。
『なぜカジアを殺そうとしたのだ……』
つまり使用人の女性はカジアを暗殺しようとこんな夜更けにナイフを手に忍び込んでいたのであった。




