ゴブリンは敵を考えます1
『うっ……』
オゴンを地面に下ろしてやると軽く顔を歪めた。
しばらく足を動かしておらずにいたので急に地面についた時に痛んだのである。
『オゴン……おじさん?』
『大きくなったな、カジア』
『おじさん!』
カジアにはうっすらとオゴンの記憶があった。
久々に会えた信頼のできる同族にカジアは抱きついた。
やはり魔物の中にいては不安は拭えなかったのである。
カジアはオゴンがカジオにしたことを知らない。
今ところドゥゼアもそれを伝えることはない。
カジアを受け止めてあげるオゴンの目は優しく、やはり暗殺を試みた黒幕には見えない。
『大変だったな。俺の家に行こう』
『……み、みんなは?』
『ひとまずみんなも一緒だ』
『よかった……!』
ここでドゥゼアたちとはお別れかと思ったカジアはみんなも一緒に行くと聞いて顔を明るくした。
ドゥゼアたちは買ってきた服で身を隠してオゴンの家に向かった。
『おかえりなさいませ。遅かったですね』
『ああ、色々あってな。こちらお客様だ。部屋の用意を頼む』
『承知いたしました』
オゴンの屋敷には1人の使用人がいる。
今でこそほとんど不自由はないがこの屋敷にきた当初はまだ足が不自由であったのでお手伝いが必要だった。
その時に雇われた猫の獣人の女性である。
使用人の女性はドゥゼアたちのことをチラリとみる。
4人の顔を隠した怪しい集団であるが驚いた様子もない。
オゴンが連れてきたお客様であるし特に何も言うこともなく一度頭を下げたのみだった。
オゴンが1人で住むには大きすぎるような屋敷なので部屋も余っている。
それぞれ一部屋ずつ与えられることになった。
「ほほぉー! やらかいねー!」
「ベッドで寝られるなんて久々です」
「きもちいい」
しかしまだオゴンのことをドゥゼアは信用していない。
バラバラに寝ていて襲われたらひとたまりもないので一部屋に集まって寝ることにした。
幸いベッドは大きくてドゥゼアたち全員でも寝れるぐらいの大きさがあった。
ユリディカやレビスにとっては初めてのベッド。
そしてオルケにとっては久々のベッド。
かなりいいベッドなのでそれぞれその感触を楽しんでいる。
そうしてのんびりしていると食事ができたと声をかけられた。
『すまないが彼は他の人に見られていると落ち着かないんだ。席を外してもらえるかな』
『はい』
「…………」
流石にフードを深く被ったままでは食事はできない。
使用人の女性には部屋を出てもらってドゥゼアたちはフードを下ろす。
『ぜひ食べてくれ』
肉料理を中心とした豪勢な料理。
みんなも思わず目を輝かせている。
『魔力の回復はどうだ? ……あっと、これを使ってくれ』
オゴンはドゥゼアに紙とペンを手渡す。
「だいぶ良い。食事の後に話そう」
『分かった』
話は後にして今は食事を楽しむ。
生や焼いた肉以外は久しぶりなのでドゥゼアも内心では料理を喜んでいた。
「美味し」
「美味いよー!」
「このサラダのドレッシングいいですね」
使用人の女性は料理の腕も良いらしい。
みんなも料理を一口食べてその美味しさにさらに目を輝かせる。
オゴンはサラダをパクパク食べるリザードマンのオルケをやや不思議そうな目で見ていた。
『……それじゃあ頼む』
食事を終えてみんなは部屋に戻り、ドゥゼアはオゴンの部屋に招かれた。
少し緊張した面持ちのオゴンの前でゴーストカジオを召喚する。
『やはり……夢ではなかったのですね』
カジオの姿を見てオゴンは膝をついて頭を下げた。
『もはや謝罪など何の意味をなさないとは思いますが……それでもあの時の過ちを謝罪させてください』
『過去のことはもういい。今の俺にとって大事なのは息子だ』
いくら謝られようともカジオが生き返ることもない。
未だにくすぶる思いがないわけではないが一発ぶん殴ったしオゴンはオゴンで裏切りの制裁を受けた。
カジアのことも金銭的に支援しようとしていたらしいのでひとまず過去のことは水に流すことにした。
それよりも大事なのは未来ある者。
カジオの息子であるカジアのことである。
『時間がない。何があったのか話そう』
カジオはドゥゼアの目を通して見た出来事を簡潔にオゴンに説明した。
そしておそらくまだ命を狙われているだろうことも付け加えた。
『なんだと……』
オゴンはふらつくと椅子に腰掛けて頭を抱えた。
『まさかブラッケーが……それは報告がないわけだ……』
『あの獣人知り合いなのか?』
『そうだ。元々俺に従ってくれていた者でひっそりとカジアを見守るように頼んでいたのだ。何も問題はないと少し前に連絡があったばかりなのだが……はは、あいつも裏切り者だったか』
オゴンはひどくショックを受けていた。
信頼できる人物だと思ってカジアを任せていたブラッケーが暗殺者としてオゴンを裏切っていた。
何も知らずにいた自分が情けなく感じられて、カジアにもカジオにも申し訳なくなった。
『ではブラッケーを送り込んだのはお前だが暗殺するためではなかったのだな?』
『その通りです。……なぜだブラッケー……』
泣きそうにも聞こえる消え入りそうな声でオゴンが答える。




