ゴブリンは荷物を整理します2
ついでにごちゃっとなっていた荷物を整理しているといつの間にか日が暮れてしまっていた。
小屋の中なので焚き火をすることもない。
雨風を警戒する必要もなく静かにしていられるのでカジアは早々に寝てしまった。
与えたクロークに包まれてあったかかったのもあるのかもしれない。
しかし夜は続く。
万が一を考えて起きていたドゥゼアは武器の手入れをしていた。
買い物の時に簡易的な砥石も買ってきたので普段使いのナイフや短剣を研いでおく。
ちゃんと切れ味があるだけで使える場面もある。
ようやくこうした武器も手に馴染んでいたので使い捨てにはしないで手入れをして長く使っていくつもりだ。
ナイフを研ぐドゥゼアの様子をユリディカがじっと見つめていた。
一定のリズムで動く研ぎ作業を見ているのはなんだか心地が良かった。
「ドゥゼア……誰か来る」
そんなユリディカの耳がピクリと動いた。
「なーんだよぅ……」
小屋に近づく人影があった。
「小屋に置いてあったはずだからってよ〜。気持ちよく呑んでたのにさぁ」
酔っ払っているのか千鳥足でやたらと声が大きい犬の獣人の男。
誰かへの文句を大きな声で言いながらフラフラと小屋に向かって歩いている。
どうやら何かのものを小屋に探しにきたようである。
「おっ、とと……クソッ! なんだってぇこんなところにいるんだよ!」
小さな石につまずきかけて男は盛大に舌打ちして石に文句を言う。
「はぁ……」
今度はため息をつく。
月明かりしかない外はなんとか歩けるぐらいでかなり暗い。
「どこら辺にあんのかな……」
男が小屋のドアに手をかけた瞬間だった。
「あっ?」
腕に熱さが走った。
お酒での火照りとは違う鋭い熱さ。
熱さの理由が知りたくてスッと手を見た。
けれど手はなかった。
「なっ……」
急激に頭の酔いが覚めていく。
しかしもう遅かった。
黒い何かが降ってきて肩に乗り、頭を挟み込むように掴まれたところまでは理解できた。
ただ次の瞬間視界が急に後ろを向いて、訳がわからないままに男の意識は黒く染まっていった。
「ほっ!」
ユリディカが倒れる前に男の肩から飛び降りた。
「よくやった」
「いぇい!」
あれだけ大声を出していれば嫌でも接近に気がつく。
ドゥゼアとユリディカは素早く外に出て男のことを先に見つけていた。
酔っ払ってとろんとした目で近づいてくる男は小屋に魔物がいるなんてことを考えもせずに油断していた。
見つかれば厄介なことになる。
だからといってみんな起こして荷物を持って逃げるには男も近づき過ぎていた。
だから処理させてもらった。
ドゥゼアは黒くを被って小屋の影に隠れ、ユリディカは小屋の上に上がった。
小屋のドアに手をかけた瞬間小屋の影から飛び出したドゥゼアがトウで男の手を切り落とした。
そして小屋の上から飛び降りたユリディカが男の肩に着地して男の頭を勢いよくねじ折った。
「文句は言うなよ」
『言わないさ。生きるか死ぬかの状況。油断したこいつが悪いのだ』
カジオからすれば罪もない同族を殺されたことになる。
恨みに思ってもしょうがないがそれで文句を言われてもどうしようもない。
けれどカジオは理解を示した。
見つかれば危ないのはドゥゼアたちである。
こんな夜更けに一人で明かりもなく酔っ払って町外れに来るなんてただただ油断している男が悪いのだ。
今回はドゥゼアたちだったが野生の魔物や盗人がいる可能性だってあった。
あれほどまでに酔っ払った様子なら誰が相手であっても結果は変わらなかっただろう。
ドゥゼアたちは事前に男の存在を察知して準備をして待ち構えていた。
思うところがないわけではないが必然の結果である。
「そうか。ならいい」
このまま死体を放っておくとカジアに見つかって怖がられてしまうかもしれない。
ドゥゼアとユリディカで男を引き摺って小屋の後ろに持っていく。
「……まあタイミングが良くなかったな」
そうとしか言いようがない。
1日ずれただけでもドゥゼアたちはここにいなかった。
小屋の具合を見ると普段から使っているところでもない。
なのにどうしてこの日にここに来てしまったのか。
「互いに運が悪いな」
せめてもの情けで後ろを向いた首を前に向けてやる。
ドゥゼアは男の目を閉じてやり、小屋にあった麻袋をかぶせて死体を隠したのであった。




