ゴブリンは街中に潜入します1
子供だからだろうか、カジアは思いの外すんなりとドゥゼアたちに馴染んだ。
カジアに言葉は通じないがカジアの言葉は分かるので多少の意思の疎通は取れる。
戦闘的な能力は低いがそれ以外のところではよく気も回るしわがままも言わない良い子であった。
『お母さんは体の調子悪いことも多かったから……僕が出来るようにならなきゃいけなかったんだ』
もしかしたら順応力が元々高いのではなく、周りの状況に順応せねば生きてこれなかったから順応できているのかもしれない。
木の枝を集めるのにも真面目で、魔物の皮を剥いだりするのも意外と上手かった。
素直で良い子なのでドゥゼア以外のみんなもカジアを可愛がっていた。
みんなメスなのでちょっと弱くて可愛らしいカジアに本能的なものが刺激されるのかもしれない。
あとはカジアは女性陣をお姉さんと呼ぶ。
レビスお姉さん、ユリディカお姉さん、オルケお姉さん。
中々魔物がそう呼ばれることもない。
お姉さんなんて呼ばれてみんな気分良し。
意外と強かなのかもしれないとドゥゼアは思った。
道の様子を時々確認して進んできて大きめな町の近くまで来た。
「やっぱりやらなきゃいけないな……」
解決しなければいけない大きな問題が一つあった。
「地図を買う」
それは地理わからない問題であった。
オゴンが住んでいる場所というのがオチミヤコという町であることはカジアは知っていたのだが、正確な町の場所までは知らなかったのである。
道沿いに歩いてきたけれど場所が分からないのにこれ以上進みようもないとなった。
ドゥゼアたちは獣人の国トウゲンについて知らない。
さらにはカジアもトウゲンの地理について明るくないというのなら地図が必要になってくる。
クモ情報網もあるのだけど地理や政治などの高度な情報はクモたちからは集められない。
道沿いに移動するのもリスクが大きいのである程度場所の目星をつけて道からも離れて移動もしたい。
「町に潜入するぞ」
適当に国中の町を巡ってなんかいられない。
ドゥゼアは決断を下した。
町中に入る。
今はタイミングよくカジアもいる。
交渉役として話すことができるカジアがいれば買い物するぐらいはできるかもしれない。
多少物資も欲しいと思っていたので一度ぐらいリスクを冒してもいい。
大きめの町まで来たのはこのためでもあった。
田舎町の方が人は少ないのでリスクが低く見えるかもしれない。
けれど田舎町は人の少なさが故に素知らぬ不審な人物というものが目立ってしまうのだ。
一方で大きな町では人の出入りがあるので知らない人がいても気に留める人は少なくなる。
ちょっとぐらい奇妙な人がいても声もかけないのである。
人が多いから見つかりやすいということはあるけれど物の量とかその他の要素を考えて大きめの町にした。
「ここが良さそうだな」
すぐに町に潜入するわけではない。
まずは町の周りを回って状況を把握する。
町は広めであるが城壁などはない。
魔物が来ないように見張りは立っているが町に入る人を検問している様子はない。
そしてドゥゼアは町のはずれに古ぼけた小屋を見つけた。
鍵はかかっておらず、中に入ってみると農具などを置いている倉庫のようだった。
埃が溜まっているところを見れば長らく使われていないことが分かる。
「行くのは俺とユリディカ、カジアだ」
「えー! なんでですか!」
「納得できない」
全員で行けるならベストかもしれない。
しかし人数が多いと見つかる可能性も高くなる。
「理由」
珍しく素直に言うことを聞かないでレビスがドゥゼアに圧をかける。
「レビスは人の世界に不慣れだからだ」
レビスは冷静で頭もいい。
けれど不測の事態も起こりうる人の町中で正体を隠し続けるということは簡単なことではないのだ。
ゴブリンは肌でも見えればすぐに魔物だとバレてしまう。
ドゥゼアだってギリギリの潜入になるのにレビスのことまで気を回してはいられない。
さらには体格的にもレビスは人に比べて小さい。
少し目立ってしまうことは避けられないのである。
「いいか?」
「……ぷぅ」
頬を膨らませてレビスは仕方なく頷いた。
理由があるならしょうがない。
ワガママでみんなを危険に晒すわけにはいかないので不満ではあるが引き下がる。
「はい! 私はなんでですかぁ!」
オルケがピシっと手を上げてドゥゼアに抗議する。
オルケは元人である。
その点でいけばオルケを連れて行ってしかるべきだと考えているのだがドゥゼアはオルケを外した。
オルケは非常にそのことが納得いっていない。
「目立つ」
一言。
ズバリ指摘した。
「な、なぬ!?」
体格的には人にも近いので良さそうであるが、この中で1番連れて行くのはありえないのがオルケだった。
「まずは顔だ」
「顔?」
ゴブリンの顔は平坦だ。
人に近くてフードを被れば隠すこともできる。
対してリザードマンの顔は前に出たような形になっていて隠せはしてもふとした瞬間に見えてしまいやすい。
「あとは尻尾だ」
「し……尻尾」
リザードマンの尻尾は強靭で武器にもなり得るぐらいであるがその分隠すのが難しい。
かなり緩い格好をして常に尻尾の先を持ち上げるような感じでどうにか隠せるぐらいだった。




