ゴブリンはツヤツヤになりました
魔力を使い果たしたから体調が悪くなるかと思ったらそうでもなかった。
むしろより心臓が活発化して全身にスムーズに力を行き渡らせることができるようになった。
魔力は全快とはいかなかったが体の調子は良かった。
ただなぜなのか代償もあった。
「くちゃい……」
「じっとしてくださいね……」
「動かんから早く水かけろ」
ユリディカとカジアが泣きそうな顔をして離れている。
オルケが魔法を使って水を生み出してドゥゼアの頭からかぶせた。
『ゴブリンの体には老廃物が蓄積していたのだろうな』
体は良くても気分は最悪である。
朝起きたドゥゼアはみんなが遠巻きにいることを疑問に思った。
そして体がやけにベタベタとしていることに気がついた。
黒くてねばつく何かが体から滲み出ていたのだ。
そのねばつく何かが非常に臭うのである。
臭いのに慣れているはずのゴブリンのドゥゼアとレビスでさえも臭いと思うぐらいに。
カジオによると体の老廃物が排出されたのだと言った。
魔力を使い果たすほどに心臓を使うことでより心臓が活発化した。
魔力を含んだ熱い血潮が全身を駆け巡るようになったために体に蓄積されていた老廃物が血によって押し出されたらしいのである。
老廃物が体の外に出るのは悪いことではない。
つまりは健康体になったということで、風邪なんかをひきにくくなるようだ。
体も心臓の力に合わせて変化をしているということなのである。
それは良いのだけど体から排出された老廃物がとにかく臭くて嫌になる。
身につけていた腰布も老廃物がついていてもうダメなのでそれで体を拭いて投げ捨てていく。
「ちょっと鼻に臭い残ってる気がする……」
何回か水を浴びてようやく綺麗になった。
多分もう臭っていないはずなのだけどみんなと少しだけ距離ができてしまった。
心の距離ではなく、物理的な距離が。
「ジー……」
「どうしたレビス?」
臭いに強いレビスは比較的すぐドゥゼアの側に戻ってきた。
なんだかマジマジと穴が空くほどに顔を見られてドゥゼアは不思議そうに眉を上げた。
「お肌キレイ」
「はっ?」
「ドゥゼアのお肌キレイになってる」
「……そうか?」
老廃物が排出された影響でドゥゼアの肌はキレイになっていた。
といってもグリーンスキンに変わりはないのでドゥゼアからしてみるとそんなに違いは感じられない。
「まあ柔らかさは出たかな」
レビスにそう言われてよくよく自分の肌に集中してみる。
ゴブリンは元々代謝が早い。
素早く成長して素早く大人になり、そしてさっさと死んでいく。
そのために常に体も皮膚が代謝していくのだけど、そのせいで古い肌が残ってガサガサとした感じになる。
過剰な代謝が少し落ち着いたのか肌は割と柔らかい感じになっていた。
「ズルい」
「ズルいったってな……レビスはそのままでも十分だよ」
最近レビスにも可愛げがかなり出てきたとドゥゼアは思う。
慣れてきたせいか、あるいはレビス自身も成長してただの醜いゴブリンという形から脱しつつあるのかもしれない。
ドゥゼアの主観からして可愛くなったという話なので普通に褒めたけれどレビスは嬉しそうな顔をした。
「……ならいい」
自分もちょっとぐらい可愛かったり綺麗になりたいとレビスも思う。
けれどドゥゼアが良いと言ってくれるならそれだけでも十分だった。
「こんなとこになるなら言っておいてほしいもんだ」
『俺もこんなことになるとは思わなかったのだ』
カジオを召喚したことで心臓が活発化されて老廃物が排出されることなどカジオ自身も驚いた。
獣人は小さい頃から心臓の使い方を学び鍛えていく。
ある程度まで鍛えるとドゥゼアと同じことが起きるのであるがあくまでも小さい子の話。
さらには小さい子だと体の老廃物も少ないのでドゥゼアみたいになることはない。
なのでカジオもそうしたことがドゥゼアに起こると思ってもみなかった。
『まあ今後は溜まる前に継続して老廃物が排出されるからこんなことは起きないだろう』
「そうそうこんなこと起きてたまるか」
ドゥゼアは小さくため息をつく。
ゴブリンが臭いと思うなんて相当のことである。
むしろゴブリンという体だったからこそあれほど過激に老廃物が排出されたのかもしれない。
『あれって適応化だよね。どうしてドゥゼアさんにそんなことが?』
カジアが不思議そうな顔をしている。
体が心臓に慣れて老廃物が排出されることを獣人は心臓適応化と呼んでいる。
獣人に起こる現象であり、魔物どころか人間でも起こる現象ではない。
なぜドゥゼアにそんなことが起きたのか疑問でしょうがなかった。
「いつかは教えてやるよ」
今一々カジオの心臓がとか文字に書いて説明するのはめんどくさい。
『ええ……気になるよ……』




