ゴブリンは獅子王を呼び出す練習をします2
まだ明確には言えない。
けれど心臓が体に馴染み、カジオとより深く繋がっていくと何となくだがカジオを呼び出せるような気がしてきていた。
そろそろ一度ぐらいカジオの召喚を試してみてもいいかもしれない。
必要に迫られて召喚を初めてやるぐらいなら今のうちにやってみてどのような感じか知っておく必要がある。
ユリディカはもう寝ているがレビスとオルケはまだ起きている。
カジオを召喚してみることを説明して、何かあったらよろしく頼むと言っておく。
「といってもどうやったらいいんだ?」
『全身に心臓からの力を巡らせるんだ』
やれそうな気はするけれど正確な方法は分からない。
ドゥゼアは頭の中に響くカジオの声に従って心臓に意識を集中させる。
鼓動一回一回が力強くなって全身に血が巡る。
同時に心臓からの送り出された魔力が血液の流れに乗るような感じで指先から足の裏にまでみなぎっていく。
感覚が研ぎ澄まされて何でもできそうな力が全身に満ちて、ドゥゼアはゆっくりと息を吐き出した。
『心臓と、俺の存在を強く意識して』
心臓の音が大きくなって風に揺れる葉の音すら聞こえなくなる。
その中でも頭に直接聞こえるカジオの声だけはよく届く。
目をつぶって心臓と心臓にいるカジオに意識を集中させようとする。
『俺という存在が心臓を飛び出して主君の目の前に現れることを強くイメージしてほしい』
ドゥゼアは過去の記憶で覗き見たカジオの姿をイメージする。
目の前に雄々しき獅子王がいるイメージを広げていくと全身に巡っていた魔力が再び心臓に集まってくる。
「カジオ、出てこい」
目を見開いた瞬間心臓の魔力が光となって体の外に飛び出した。
そして一瞬眩いほどに輝いて魔力の光がカジオになった。
膝をついてドゥゼアに頭を下げているカジオ。
召喚に成功した。
『改めて、主君にお仕えいたしますカジオ・ライオード。ここに見参いたします』
顔を上げカジオの強い意思を宿す目がドゥゼアを見据えた。
「これがカジオ」
「うわぉ、思ってたよりも強そう……」
レビスとオルケは初めてカジオの姿を見た。
話ではカジオという存在がいるとは聞いていたけれど実物を見たことはなかった。
想像していたものよりも遥かに威厳や力を感じさせる姿に驚いていた。
「とりあえず……成功したようだな」
少し苦しそうにドゥゼアが答えた。
『そうですね。お願いがあります』
「……好きにしろ。時間はない」
『ありがとうございます』
カジオの声が頭の中に直接響かない。
ドゥゼアの中から外に出ているのだなとよく分かる。
そして体を飛び出して召喚される瞬間にカジオの声が聞こえた。
息子に触れたいと。
ドゥゼアの許可を得たカジオは振り返るとカジアの側に膝をついた。
起こさぬように静かにそっと。
わずかに震える手でカジアの頬に触れた。
その目は優しい父親のものだった。
『すまないな、カジア……お前に苦労をかけて。そして……側にいてやれなくて』
最初から子供がいると知っていたならオゴンの喉を噛みちぎってでもヒューのところに向かったかもしれない。
殺された時には子供がいるとは知らず、そうなることが未来のためになるかもしれないと受け入れたがそうしてしまったことを今は反省していた。
『お前は私が守る。……出来なかった役割を……果たす……』
スッと涙を流したカジオの体が透けていき、そしてドゥゼアの中に光となって戻っていった。
「うっ……」
「ドゥゼア、大丈夫?」
「すまないな、カジオ。もう限界だ……」
カジオを召喚した瞬間に体のほとんどの魔力を持っていかれた。
維持そのものに使われる魔力はそれほど多くないけれど今のドゥゼアの魔力量ではカジオを長く召喚したままに出来なかった。
何となく予想はしていたけれど呼び出すだけとはいかなかったのである。
時間にすると短い親子の再会。
『いや、感謝する。2度と触れることが叶わないと思ったがこうして息子に触れることが出来た。それに召喚することは出来たのだ。もっと魔力が強くなれば俺も戦うことができるだろう』
「へっ、簡単に言ってくれる」
今も魔力が少なくて頭がクラクラする。
ここまで獅子王の心臓を手に入れてようやく魔力が増えてきた。
もっと魔力が強くなればと口で言うのは容易いが実際はそう簡単なことではない。
「すまないが……力を使いすぎた。もう寝るから火の番は頼むぞ」
「うん、任せて」
「ああ……ありがとな」
短い召喚にも関わらず力を使いすぎてしまった。
ドゥゼアは地面に寝転んでゆっくりと目を閉じて寝始めた。
「ほんと、化け物ゴブリンだよねぇ」
あんな強そうなもの呼び出せるゴブリンなど世界広しといえど他にはいない。
すごいゴブリンの仲間になったものだとオルケは感心していた。
「おっと、木足さなきゃ」
尻尾で集めておいた枝を掴んで焚き火にくべる。
最近オルケも多少役に立ちたいとこうした工夫もしていた。
「もっと……役に立てるようにならなきゃ」
ドゥゼアは日々前に進んでいる。
オルケも頑張ろうと焚き火に燃える木を見ながら思ったのである。




