ゴブリンは獣人の子供に出会いました4
『な、なに……話がしたい?』
「そうだ」
ドゥゼアは地面にトウで文字を書いた。
地面には“お前と話がしたい”と書いてあり、獣人の子供は困惑したようにドゥゼアを見た。
世の中文字も読めないような奴はいるので多少の賭けだったが獣人の子供は文字を読めた。
本当なら話せたらいいのだけどドゥゼアは人の言葉を話せない。
そもそも喉がそんな作りでないために言葉を発せないのである。
魔物同士は声の魔力に込められた意思を読み取るという方法で意思の疎通が取れるが逆にこれは人は使えないのだ。
だから一か八か字を書いてみた。
字ならドゥゼアにも書ける。
魔物が字を書いたって基本的には読んでくれないし、字を書いている時間待ってくれるような相手もいない。
だが今回は少なくとも字を書くぐらいの時間はあった。
『は、話をしたら殺さない……ほ、本当? ひっ……』
書いた文字を消して新しく書いていく。
殺すつもりがないことを伝える。
その通りだというつもりで笑顔を浮かべたのだけれど獣人の子供から見たらゴブリンの笑顔は凶悪だった。
レビスやユリディカなら喜んでくれるのになとちょっとだけドゥゼアはショックだけれど自分が人の立場ならと考えると納得するしかない。
「お前の名前は……なんだ?」
『ぼ、僕の名前はカジア』
「カジア?」
これはまた不思議なものである。
痩身でありながらも顔立ちがカジオに似ているなと思ったら名前まで似ている。
「おい、カジオ……」
『もしかしたらそうかもしれない』
頭の中にカジオの声が響く。
その声は少し震えていて動揺が感じられた。
『父親の名前を……聞いてくれ』
「お前の父親は父親の名前は?」
ドゥゼアがトウで土を削って文字を書いていく。
書きにくいことこの上なく、ペンと紙が欲しいところであるがそんな贅沢言ってられない。
「……僕は、お父さんのこと知らないんだ。お母さんに聞いたこともあるけど戦争の英雄だったとしか教えてくれなかった……でも、僕の名前はお父さんから取ったって言ってたよ」
少しずつ鼓動が早くなり始めてドゥゼアは顔をしかめた。
『……母親の名前を』
「わかったから落ち着け」
このまま鼓動が早くなっていくとまた面倒だ。
どうにかカジオに落ち着いてもらわなきゃ心臓がうるさい。
『お母さんの名前? ヒューリャー……』
やたら名前を聞いてくるなとカジアは思った。
ただ答えなきゃ殺されてしまうので疑問に思いながらも素直に答える。
「うっ! ……この野郎!」
急に心臓が締め付けられてドゥゼアが胸を押さえた。
『ヒュー……リャー』
「ドゥゼア、大丈夫?」
苦しみ出したドゥゼアにレビスとユリディカが駆け寄る。
「大丈夫だ……」
いい加減にしてほしいものだが、この胸を飛び出そうするほど激しく鼓動する心臓にも少しは慣れなきゃいけないなと思う。
抑えつけようとするから苦しくなるのかもしれない。
鼓動を受け入れてあえて全身に力を巡らせてしまうとやや楽になった。
『ヒューリャーが白い獅子の女性か聞いてくれ』
「その前に心臓落ち着けろ。じゃないともう聞くの止めるぞ」
『ぐっ……分かった』
また少し心臓の鼓動が落ち着く。
『ど、どうしてお母さんのことを?』
ドゥゼアがお前の母親は白い獅子の獣人かと聞くとカジアが驚きに目を見開いた。
白い獅子は獣人の中でも珍しい。
カジアが獅子の獣人なことは分かるけれど、その特徴に白さはない。
ピンポイントで母親の種族を言い当てられて驚きを隠せなかった。
「ぬっ……カジオ……」
『な、泣いてるの……?』
ドゥゼアの目から涙が溢れ出した。
これはドゥゼアの意思ではない。
カジオが涙を流し、その影響でドゥゼアの目からも勝手に涙が出てきている。
「そうなんだな?」
『ああ……カジアは……俺の子だ』
これを言葉にするのなら運命とでもいうのか。
奇跡的にドゥゼアたちが出会った獣人の子供カジアはカジオの子供であった。




