ゴブリンはトウを手にします3
「申し訳ありません……王よ」
スケルトンがふと言葉を吐いた。
誰向けたのでもない言葉。
静かに空に向けて発せられた言葉だが誰に向けて言われた言葉なのかはドゥゼアには分かっている。
おそらくその言葉はカジオに向けられたものだとドゥゼアは思った。
「ギャナリっていうのは知り合いなのか?」
『……かつての仲間だ』
「仲間か……」
『俺のことを王だと慕い、ついてきてくれた部下であり、心強い仲間だった。どうしてこのようなことになっているのか俺にも理解はできない……』
そもそもなぜカジオ周りのものが比較的近いところにあるのかも謎である。
それに加えてカジオの仲間だった人がこんな姿でこんなところにいる理由などドゥゼアに分かるはずもないのである。
ただ言葉からするにカジオのことで後悔な気持ちを抱えているのはわかる。
後最初に比べていつの間にか少し態度が砕けているがこれがカジオの性格なんだろう。
別に気にするものではないからドゥゼアも指摘するつもりはない。
『明るくて気さく、人付き合いが苦手な俺とは真逆なやつだった。剣にも優れていて安心して背中を任せられた』
「……そうか」
『それにしてもスケルトンの姿でよかった』
「なに?」
『ギャナリが本来の姿……心臓があったなら全員ここで死んでいただろうな』
スケルトンだった。
つまりは身体的な能力は期待できないレベルであり、ギャナリは己の剣の腕によって戦いを繰り広げていた。
それだけでも十分に強かったのであるが獣人は心臓から力を得て戦う種族であり、そうした力強さはスケルトンでは発揮できない。
ギャナリが本来持つ力を発揮していたならばドゥゼアたちは全く歯が立たずにやられていたことであろうとカジオは思う。
ドゥゼアもそう思う。
スケルトンの状態でも十分に強かった。
まともな肉体を持っていたなら逃げる暇もなかったはずだ。
『てっきり……幸せに暮らしているものだと思ったのだがな』
「何があったんだろうな……」
カジオに関してはカジオ自身ですら知らない謎が多すぎる。
「ん……そう上手くはいかないか」
トウの切れ味は凄まじかった。
2本持っている都合なのかスケルトンが持っていたものは短めで良さそうだと目をつけていた。
しかし倒されたスケルトンはサラサラと崩れるように消えていき、同時にスケルトンが持っていたトウも崩れて消えてしまった。
都合よくトウだけ残るなんてことはなかった。
「なんだ?」
テテテと寄ってきたユリディカがドゥゼアの頬をつついた。
ふにりと柔らかな肉球で押されてドゥゼアは不思議そうな顔をする。
「大丈夫かなーって」
治したとは思うけどちょっと心配なので頬の傷の確かめに来たのである。
戦闘中であってもしっかりと治してくれていたのでもうどこをケガしていたのか分からないぐらいになっている。
「大丈夫だよ。ありがとう」
「ぷにぷに」
ぷにぷになのはユリディカの肉球の方だと思う。
「さてと」
他に魔物も出て来なそう。
なのでドゥゼアは地面に刺してあるトウに視線を向ける。
戦いが終わってもカジオが何かの感情を持っているのか心臓が落ち着かない。
さっさとトウを抜いてこのダンジョンから抜け出そうと思ってトウに近づく。
トウに近づくと早かった鼓動が余計に早くなる。
「少し離れてろ」
何があるか分からない。
みんなに離れているように伝えてドゥゼアはトウの前に立つ。
心臓の鼓動はドゥゼアを急かすがドゥゼアはゆっくりとトウに手を伸ばす。
あとは手を握ればいいというところで動きを止める。
一度大きく息を吐き出して気持ちを落ち着かせようとするけれど心臓がうるさくてそれもできない。
「行くぞ……」
小さく自身を奮い立たせるように呟いてドゥゼアはギュッとトウの柄を握りしめた。




