ゴブリンはスズメにお願いされました2
「いや、出るか、だな」
ドゥゼアたちにとっても穴に入ることは問題がない。
けれど問題は出る時なのだ。
どれぐらい深いかもわからない穴。
仮に無事に入れて、無事に中での用事を済ませられたとしてどうやって出てくるというのか。
手持ちでもいくらかロープはあるけれど足りるのかまだわからない。
「少し対策考えなきゃいけないな」
ダンジョンには入るつもりだ。
だがちゃんと脱出のことまで考えねばならない。
ひとまずゴブリンの方から片付けることにした。
ゴブリンの方が落ち着かないとドゥゼアも落ち着かない。
ゴブリンたちのところに戻ってみるとすでにどこに巣を作るか決めていた。
なのでそこに移動して巣作りを開始する。
材料となる枝を拾ったりするのは手伝いつつも巣そのものに関してはドゥゼアたちは手を出さない。
一回見ただけでも作れそうな構造ではあったけれど今から作るのはドゥゼアの家ではなくゴブリンたちの家である。
自分たちで作ることが大切なのである。
ゴブリンにもゴブリンのプライドというものもある。
全てをお世話しすぎても良くはないのだ。
多少もたもたとしていてイラつく感じもあるけれどちゃんと作れるようにならなきゃ困るのはゴブリンの方である。
「そっちはどうだ?」
「長そう!」
「んじゃそれもいただくか」
巣作りはゴブリンたちに任せる。
見ていてもイラついてしまうので巣作りの間に別のことをする。
巣のための枝を集めている間にいいものを見つけた。
木に絡みついている太くて丈夫なツタがあったのだ。
ちょっとやそっとじゃ切れなさそうなツタなのでこれをロープ代わりにしてダンジョンの穴に降りていこうと思ったのである。
長くて太いツタをドゥゼアたちみんなで探す。
「うん、それなりに集まったな」
その一帯にはツタが生え放題でツタ探しも特に苦労しなかった。
ツタを集めた。
これらのツタを結んだりして伸ばしてダンジョンの中に入っていこうとドゥゼアは考えていたのであった。
ドゥゼアたちがツタを抱えて戻るとゴブリンたちも巣作りを大体終えていた。
「ホーホー、賢いものだな……あっ」
「あっ、じゃないぞ」
巣穴ではなく枝葉を集めて小さいながらも家を作るというゴブリンの知恵にチユンが感心して翼を広げた。
その瞬間風が巻き起こって手前にあった家のいくつかが吹き飛んでしまった。
「…………すまない」
「……はぁ」
せっかく作ったのにこれでは台無しだ。
「しょうがない……」
ジトーッと冷たい目で見られてチユンがショボショボと家から離れる。
このままではゴブリンたちも可哀想だ。
今度はドゥゼアたちも手伝って家を再建することにした。
集めてきたツタも利用して前の物よりも丈夫なものを作った。
しょうがないのでゴブリンたちにも教えてやって次回からも作れるようにはしてあげた。
「……これは?」
「お詫びだ」
さっさとゴブリンたちの家を作り上げて振り返るとそこにどっさりと魔物が積まれていた。
やってしまったとチユンが家を作っている間に償いとして狩りに行ってくれていたのだ。
「ホーホー、今度からは気をつけよう。着地する時も少し離れた頃に降りてからにする」
「そうしてくれると助かるよ」
チユンが来るたびに家が吹き飛ばされては困る。
チユンも賢い魔物なのでそこら辺は理解してくれているので次からは大丈夫だろうと思う。
山盛りになった魔物たちはゴブリンの移住記念ということでパーっと食べることにした。
ついでに火の起こし方も教える。
ドゥゼアたちが離れた後もゴブリンとチユンの関係は続く。
時々チユンにも焼いた肉を食わせてやらねばならないので火打ち石をプレゼントしてこうやって火を起こすのだとやってみせた。
最初は難しいがゴブリンの手先は器用な方なのですぐに覚えられるだろう。
肉を焼き、いつの間にか小鳥たちも集まって食事をとっていると日も暮れた。
ゴブリンは旅の疲れから肉を食べてすぐに寝てしまい、チユンたちも夜には弱いようで小鳥たちがチユンにより集まる形で眠りに落ちていった。
その中で焚き火に木をくべてドゥゼアはまだ起きていた。
「寝ないの?」
レビスがドゥゼアの前にしゃがみ込む。
見つめているのはドゥゼアの手元。
「ん? もう少しやっておこうと思ってな」
人だった頃の習性だろうか。
日が落ちてもまだもう少し作業をしようと思ってしまう。
むしろ日が落ちた後の暗がりの中で作業すると無心で心落ち着くぐらいである。
作業といってもやっていることはとてもシンプルでツタを結んで一本にしているだけだ。
「私もやる」
少しじっと見ていたレビス。
ただ見ていただけではない。
ドゥゼアが何をどうやっているのか見て理解していたのである。
ドゥゼアを真似てツタを結び始める。
「色んなことあった」
「……そうだな」
レビスはツタを結びながらポツリと呟いた。
本当に色々あったものだとドゥゼアは思う。
帰ってみたら自分の巣がなくなっていたことから始まりユリディカを仲間にしたり、アラクネに捕まったり、変なジジイに追いかけられたりとこれまでのゴブ生の中でも間違いなく1番波瀾万丈である。
レビスも最初はちょっと賢いぐらいだけのゴブリンで使えそうだから側に置いていた。
いつの間にか知恵もつけてしっかりとした仲間になっていた。
「レビス、いつもありがとな」
ドゥゼアに全幅の信頼を置いてついてきてくれる。
それだけでもかなり心強いものがある。
「ドゥゼア」
「なんだ? ……ん!」
呼ばれたのでレビスの方に振り向いてみるとグイッと頭を引き寄せられた。
目を開けたままのレビスの顔が迫って唇が重なった。
「……レビス?」
「……人間って愛し合うとこうするってオルケに聞いた」
顔を真っ赤にしてレビスがうつむく。
まさかゴブリンにキスされるとはドゥゼアも思いもしなかった。
オルケは何を教えているんだと思うが不思議と悪い気分はしなかった。
「……嫌だった?」
「嫌じゃないさ。ただ突然で少し驚いただけだ」
ポンとレビスの頭に手を乗せて撫でてやる。
レビスの耳がピコピコと動く。
こんな風にまったりとした時間が流れるのも夜の良いところである。




