ゴブリンはゴブリンを連れて移動します4
移動し始めてから数日が経った。
慣れない移動にゴブリンたちにも疲れが見えてきてしまったので移動速度はだいぶ緩くなったが着実に動いてはいた。
途中川が分岐していたのでより細くなっている流れの方に向かってみた。
なぜ細い方に向かったのかというとそちらの方が小型の魔物が多い可能性が高いからである。
当然生きるためには水が必要。
川などに水を飲みにくることもあるので川が大きければ魔物も多いのであるが川が大きいとそれだけ大型の魔物も多い可能性が高くなるのだ。
なので川が細くなっている方、小型の魔物が多いかもしれない方に向かったのである。
「そうだ! 回り込め!」
小型の魔物がいるかどうか不安はあったけれど移動していくと小型の魔物が見られるようになった。
そろそろゴブリンたちにも自分の飯ぐらいは自分で確保してもらう。
ビッグラットと呼ばれる大きなネズミをゴブリンたちが追いかける。
ビッグラットの方が動きは素早いけれどゴブリンは数がいて多少の知恵もある。
上手くビッグラットを追いやって、その先に他のゴブリンが待ち受ける。
「ナイッスゥー!」
ゴブリンが持ち手が半分に折れた槍をビッグラットに突き立てた。
他のゴブリンもビッグラットを逃すまいと襲いかかって一気に仕留める。
完全にドゥゼアたちにおんぶに抱っこな形で少し自信を失っていたゴブリンたちも元気になってきた。
最初はドゥゼアたちに狩りの獲物を献上しようとしていたのだがいらんから自分たちで食えと言ったら嬉しそうに食べていた。
オーク肉には及ばないが自分たちで狩りをして得た獲物であるというのも大変に重要なのである。
「ここらへんで探してみてもいいかもしれないな」
様子を見ていてもゴブリンが狩りをできる程度の魔物が増えてきた。
川も近くにあって水も確保できるし周りには木々も生えていて身を隠す場所もある。
「まあ調査は必要だがな……」
狩れそうな魔物がいるからここに住みましょうとはならない。
今ところ言えるのはここならば食料問題は大丈夫だろうということだけなのだ。
1番の問題はそれ以外の魔物の存在である。
ナワバリ問題というものがどうしても存在する。
元々その土地に住んでいる魔物が大体の場合いるものだ。
こうして小型の魔物が多ければそれを捕食する魔物も自然とその周辺にいる。
そうした魔物が敵対的なのか無関心なのか、あるいはナワバリ意識が強いのか弱いのかなど隣にいてもいいのかは非常に大切な問題である。
特にゴブリンは弱い方の魔物である。
ナワバリ争いに勝てるような力はなく強い魔物には蹂躙されてしまう。
どのような魔物が周辺にいるのか調べずに勝手に住み着いては危険が大きすぎる。
「任せるである!」
こうした周辺調査にもお役立ちバイジェルン。
隣人となる魔物も色々で知能が高ければ特に邪魔にもならないならゴブリンを放っておいてくれる魔物もいるし、一切周辺に入られたくないなんて魔物もいる。
ドゥゼアたちが直接調査するのはどうしても危ないからクモたちに任せる。
「ただ今の所は良さそうだけどな」
森の雰囲気は穏やか。
まだ強い魔物が出てこなくて雰囲気的には住み良さそう。
ドゥゼアも狩りをしてビッグラットを倒してご飯にする。
オルケが焼いたお肉を食べたいというので簡易的に焚き火を作ってお肉を焼くことにした。
ゴブリンたちが見つめてくるが気にしないようにして枝に刺したお肉を焼いていく。
慣れたものでオルケも自分で肉を刺して好みの焼き加減になるように焼いている。
「ぎゃあああああっ!」
「なんだ?」
「デデデ……」
「デ? ……うぶっ!」
「デンジャラスであーる!」
叫び声が聞こえてきてドゥゼアは剣を手に取った。
警戒していたらいきなりバイジェルンが木の上から飛んできてドゥゼアの顔面に引っ付いた。
「何すんだ!」
強く顔面にしがみついバイジェルンをドゥゼアは鷲掴みにして引き剥がす。
「この場所デンジャラスである!」
「何?」
いつになく騒ぎ立てるバイジェルンにドゥゼアにも緊張が走る。
「何かいたのか?」
「いたである! それはもう……恐ろしいやつがいるである!」
ドゥゼアはレビスたちに視線を送る。
すぐにその意図を察したレビスたちは焼いてお肉をとりあえずさっさと食べ始める。
危険ならば移動しなければならない。
「ホーホー。美味そうな匂いだ」
「ぎゃああああっ! きたであるー!」
ドゥゼアたちがいる場所が影に覆われた。
強い風が巻き起こり、焚き火の火が吹き飛ばされて消えてしまう。
ドゥゼアたちはなんとか耐えたけれどゴブリンたちの中には耐えきれずに風に負けてゴロゴロと転がっていく奴もいた。
バイジェルンは泣きそうな声を出してドゥゼアの装備の中に隠れてしまう。
くすぐったいからやめてほしいが今はそんなことを気にしている暇はない。
「何者だ!」
巻き起こした風だけでドゥゼアよりもはるかに強い魔物であることはわかっている。
しかしもう見つかってしまった以上逃げるのは難しい。
けれど声が聞こえたということはそれなりに知能の高い魔物なことは想像がつく。
ドゥゼアは勇気を出して振り返り、上を見上げた。




