ゴブリンはダンジョンのボスに挑みます1
念のためもう一度宝箱があった場所まで行ってみた。
宝箱はあったのだけれどもちろん中身は空。
島の方もアイアンテールウィーゼルの間に新たな宝箱なんかが現れたりはしていなかった。
なんでこんなところに獅子王の心臓があったのか謎であるがダンジョンの謎については考えるだけ無駄である。
島にいるアイアンテールウィーゼルがボスかとも少し考えたけれどおそらくあれはボスではなく宝箱を守るガーディアンだ。
もしもっと探してみてボスがいなかったら島のアイアンテールウィーゼルを倒すことにした。
なのでダンジョンの中の探索を再開してボスを探すことにした。
少しでも能力が上がるとかなり楽になった。
元々技術という側面ではそれなりに能力があったので身体能力が向上するとそれをしっかり活かすことができた。
「ドゥゼアカッコいい」
「そうか? ありがとな」
一回り大きくもなってオスとしての魅力もアップした、らしい。
レビスがキラキラとした目でドゥゼアを見上げる。
常にドゥゼアに肯定的なレビスではあるがこうして正面から褒めてくれることは恥ずかしいのか少ないので嬉しくはある。
体格的に良くなっただけでない。
レビスの目から見た時にドゥゼアの顔も心なしかキリリとしてカッコよくなったように見えていた。
「うんうん、ドゥゼアイケてるオスになってきた!」
ユリディカの鼻息も荒い。
力強く良いにおいがドゥゼアからする。
元々意思が強く、それでいながら優しさもあるドゥゼアのことは好きだけどより本能的に惹かれるようになった。
このことを言葉で表現するならカッコいい、あるいはイケてると言っていい。
「うーん、まあ……良い男だけどね」
性格的にはすごくカッコいいところがある。
多くを語らず態度で示すハードボイルドなところがあって、時折垣間見せる優しさにはキュンと来ることもある。
けれどゴブリンだしなぁとオルケは思う。
他の魔物のオスに比べれば遥かにマシ。
いや、人間の男に比べてもドゥゼアは中身でみると結構上に来ることも考えてみるとあるかもしれない。
「見た目は……」
あれ、意外悪くないかもしれないぞとオルケは少し混乱する。
人としての美的感覚で見るとゴブリンなどないのだけど脳みそは魔物である。
理性と本能の美的感覚が異なっていることにオルケは気がついていない。
魔物的な感覚で見れば多少の醜さなど全くもって許容範囲。
当然魔物にも好みはあるのだけどオルケの体の元の持ち主的にはそんなにドゥゼアの見た目を忌避するものでもなかった。
だから改めてそうした目で見てみると案外悪くないかもなんて思えてしまった。
「いやいやいやいや……」
それはない。
そう言い聞かせてオルケは頭を振った。
レビスとユリディカもいるのだしドゥゼアを好きになることなんてない。
「どうした、大丈夫か?」
「う、なんでもない……」
明らかに不審な態度のオルケにドゥゼアが気づいて声をかけた。
こうして細かく見てくれているところは良いと思うとオルケの気持ちと関係なく尻尾の先が丸くなってしまう。
「具合が悪くなったりしたら言えよ?
無理して攻略を進めることはないからな」
「分かってるよ」
体が大事。
健康第一。
生きてさえいれば何度でもやり直すことができる。
「……ずるいよなぁ」
こんな風に優しくしてくれる人に人だった時に会いたかったとオルケはちょっとだけすねたような思いも抱いた。
ドゥゼアたちは地図を確認しながら行っていないところへと少しずつ探索範囲を広げる。
もしかしたらもう一つぐらい宝箱ないかなと期待もしていたが特にそうしたものが見つかる気配もない。
「ドゥゼア……!」
「俺も見えてる」
そうしてのんびりとボスを探していたらとうとう見つけた。
木立もなく広い草原の真ん中に草を集めたようなふかふかとした寝床があった。
その上に大きなアイアンテールウィーゼルが丸くなっていてスヤスヤと眠っていた。
他のアイアンテールウィーゼルよりも遥かにでかい。
トラなどの大型の魔物と同じぐらいの体格がある。
「金属部分は……尻尾と爪、背中の3か所か」
全身金属でなくてドゥゼアはホッと安心した。
あの大きさで全身金属だったらそれこそどうやって倒したらいいのか分からないところだった。
「どうする?
今やる?」
「いや……まずは観察と休息だ」
もっと力があるならば挑んでもいいかもしれないがまだまだドゥゼアたちは弱い。
安全に戦うために相手の行動パターンを観察する。
寝ている今が1番のチャンスのような気がしないでもないけれどより攻撃に適した状況が生まれるかもしれない。
あるいは寝ていて隙だらけに見えても寝ていない可能性だってある。
隙があるように見えるというだけで突っ込んでいくのは意外と危ない。
それに加えてボスを見つけるまでも戦いがあったり歩き回ったりした。
ダンジョンの中で気づきにくいが疲労だって多少はある。
ボスと戦うなら万全を期せねばならない。
なのでボスを観察してみることにした。
距離を取って起こさぬようにしながら何かアクションはないかと交代で見張る。




