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やがて王になりし転生ゴブリン〜何度転生してもゴブリンだけど次のゴブ生こそ魔王を倒してみせる〜  作者: 犬型大
第三章

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ゴブリンは獅子王に出会いました1

「なぜ裏切った……アゴン!」


 見上げるとそこに獣人がいた。

 アゴンと呼ばれた真っ白な毛に全身覆われた男の獣人は立っているだけで力強さを感じさせる。


「カジオ兄さんは強すぎたんです。

 我々象徴でもありましたが戦いが終わった後のカジオ兄さんは抱えきれないほど存在になってしまった」


「だから……兄弟同然の俺を裏切ったというのか!」


 カジオと呼ばれたのは獅子のような獣人。

 雄々しいたてがみを持ち、鍛え抜かれた体は目を見張るものがある。


 しかし今は胸のところに剣が突き刺さって体は大きく血で濡れていた。


「これからの平和のためにカジオ兄さんの存在は大きすぎるんだ」


「言ってくれれば……俺はいくらでも表舞台から姿を消した……」


「たとえ姿を消してもカジオ兄さんが存在する限り落ち着かない人たちがいるのさ」


「ははっ、それはお前も同じだろう。

 ……ゲホッ」


 カジオが口から血を吐いた。

 胸に刺さった剣は致命傷だ。


 自分の命が死に向かって消え入っていくのを感じていた。


「ヒューは……どっちだ」


「姉さんは……知らない。

 カジオ兄さんを呼び出してほしいとだけ頼んだ」


 段々とぼんやりとし始めた頭で考えていたのは愛する人の顔だった。

 ここにきたのは愛する人に呼び出されたから。


 なら愛する人は自分を裏切ったのだろうかとカジオは疑いを持たずにはいられなかった。

 しかしアゴンの言葉を聞いてカジオは安心したように笑った。


 愛する人は自分を裏切っていなかった。

 それだけでも十分である


「どうか……恨まないでほしい」


 悲しげな目をするアゴンはカジオの胸に刺さった剣に手をかけた。


「恨むな、だと?」


 カジオは虚になり始めた目でアゴンを見た。


「それは無理な話だな」


 ここは恨まないと言う方がいいのかもしれない。

 けれどそんな聖人になりつもりはカジオにはない。


 裏切られれば怒りも抱くし悔しさもある。

 さらに殺されるとなれば恨まない方がおかしいというものである。


「お前は兄弟同然の俺を裏切った。

 卑怯な手段で俺を殺した。


 お前はもう戦士ではない」


 剣にかけたアゴンの手が震える。


「お前はもう俺を越えることはできない。

 そして俺はお前を恨む……永遠に……お前が罪に潰れるまで……」


「なっ……!」


 カジオは自らの手で胸の剣を引き抜いた。

 そしてゆっくりとカジオの体は後ろに倒れた。


 恨まないことなどできない。

 当然の言葉なのにそれはアゴンの中に重たくのしかかった。


「くっ……うっ……」


 アゴンの手から剣が滑り落ち、頬を涙が伝う。


「せめてあなたの子は守りますから……」


 聞こえていないと思った言葉。

 それがカジオに聞こえているとは知らずにアゴンは涙した。


「なんだよ……これ」


 そしてそんな重たい光景を見ていたドゥゼア。

 この場にいるけどこの場にはいない。


 なぜならドゥゼアがアゴンやカジオに触れようとするとすり抜けてしまって触れないのだ。

 だから今見ているものが幻のようなものだとなんとなく理解した。


 しかしこれが何であって、なぜ見せられているのかそれは理解できないでいた。


「止まった……?」


 生きているはずのアゴンの動きも完全に止まった。

 落ちる涙も空中で停止してしまい、ドゥゼアは何が何だか分からず唖然としていた。


「これは俺の記憶だ」


「……!

 あ、あなたは……」


 後ろから声がして慌ててドゥゼアは振り返った。

 いつものざっくばらんとした口調じゃなく思わず丁寧な口調になったのは相手の威厳を感じたから。


 後ろにいたのはカジオであった。

 また振り返るとそこには胸から血を流して倒れているカジオの死体がある。


 けれどドゥゼアの目の前にはカジオがいる。


「き、記憶……」


「……知能がありそうなゴブリンだな」


 カジオがおもむろに手を上げてパンと打ち鳴らした。

 すると周りの景色が歪んで変化して部屋の中に変わった。


 目の前にいたはずのカジオはテーブルについていた。

 カジオの前には大きなジョッキ、そしてカジオの正面の席にも同じくジョッキが置いてある。


「座るといい。

 少し話をしよう」


 ドゥゼアは素直にカジオの前に座った。


「安いビールだ。

 美味くもないものだが……不思議と飲みたくなる時がある」


 寂しげに笑ってカジオはジョッキに口をつけた。


「ぶはぁー!

 やっぱりまずいな。


 昔はよくこんなものを美味いと言って飲んだもんだ」


 一気にジョッキの中のビールを飲み干して口についた泡を指で拭う。


「飲まないのか?」


「じゃあいただきます」


 手をつけるつもりはなかったけどこう言われて一口飲んでみる。

 そんなに悪いものじゃない。


 ゴブリンの身ではこれより遥かにまずいものもよく食べてきたので久々の酒はむしろ美味く感じられる。


「まずは自己紹介でもしようか。

 俺はカジオ。


 見ての通り獣人で獅子王と呼ばれたこともある」


「ドゥゼアです。

 こちらは見ての通りゴブリンです」


「はっは!

 だがゴブリンぽくはないな!


 俺の知ってるゴブリンはうるさくわめき散らすだけだがドゥゼアは理性的な目をしている。

 座れと言われて座らないし、社交辞令のようにビールを飲んだりはしない」

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