ゴブリンはリッチに協力します3
「……そうね。
私もついカッとなってしまったわ。
あの子に謝らなきゃ」
見た目で年齢は分からないが雰囲気的にオルケもフォダエも比較的若いような感じがしていた。
「それにしてもあなたゴブリンっぽくないわね。
この森の端にもゴブリンいるけれどキーキーうるさくて会話なんて成り立つものじゃないわ。
なのにあなたはとても理性的に会話をしているわね」
フォダエは頬杖をついて感心したようドゥゼアを見た。
うるさいゴブリンならさっさと追い出そうと思っていたのに説明も順序立ててしっかりと分かりやすくしてくれた。
今だって話し合えとゴブリンから諭されたと驚きがあった。
目を見れば分かる。
相手がどれほど知性があって理性的なのか。
その点でいくとレビスもユリディカもかなり理性的であることはフォダエには分かっていた。
だからこそ話も聞いたのだ。
「追いかけないのか?」
「今追いかけてもあの子はまだ熱いままだから。
戻ってきたぐらいに話し合うのがちょうどいいの」
「そうか……なら少し研究について聞いてもいいか?」
「ええ、どうせ他に漏らす相手もいないでしょうから答えてあげる」
人が相手ならアイデアや成果を盗まれる心配なんかもあるがゴブリン相手ならそうはいかない。
オルケが戻ってくるまで時間があるので気まぐれに答えてみる気になった。
「生の肉体に戻るってまた人になるってことなのか?」
「最終的に成功したらそうしたいわね。
でも今の段階ではまだ人は無理なの」
「どういった研究なんだ?」
「生物には魂ってものがあるのよ。
こんな肉体のないアンデッドでも動いていられることから目には見えなくてもそうしたものが存在している。
そうした魂を今の骨の体から分離して別の体に移すっていう実験だよ」
「そんなことが可能なのか?」
魂という存在についてドゥゼアは疑問に思わない。
なぜならドゥゼアは何度もゴブリンに転生しているからで生まれた場所やゴブリンとしての個体の違いはあれど中身は全て同じ自分であったから。
同じドゥゼアの魂があって別のゴブリンとして肉体だけ転生しているのだと考えたことがあった。
「理論上は可能よ」
フォダエは魂について疑問には思わないのかと不思議さは抱えながらも説明しなくていいのなら楽でいいと疑問を押しやる。
「ただ万能ではないわね。
問題も多くて本当に人に魂を移せるかはまだ確実とは言えないわ」
「人以外なら移せるってことか?」
「そうね。
今ところ私たちみたいなアンデッドから強靭な肉体を持つ個体になら魂を移せると思うわ」
「なんだ、強靭な肉体って?」
「色々な魔物がいるけれど今のところ敵していそうなのはリザードマンね。
ほとんど魔法を使わない種族だけどその分体はしなやかで強い。
魂の器として魂を移す時に耐えられるほど強い体じゃなきゃダメなの。
ゴブリンは論外ね」
「大きなお世話だ」
それにわざわざ魂をゴブリンに移したがる異常者などいないとドゥゼアは思う。
「もっと安定性を高めて人の体にも移せるようにしようとしているのが今の段階。
ここを乗り越えれば多分……人にも戻れるはず」
「例えば俺の魂を他に移すことは出来ないのか?」
1番聞きたかった核心の質問。
ゴブリン以外の体になる。
魂を移すことが可能ならば他の体に移すことはできないのかと尋ねた。
「それも可能よ……ただし、理論上はね」
「どういうことだ?」
「アンデッドは骨の体と魂の存在。
言ってしまえばほとんど魂だけと変わりがない。
だからこの体から魂を分離することはそう難しくないの。
でも生の肉体は魂と強く結びついている。
そうなると魂の分離の難易度が大きく変わってくるわね。
私は今のところ生の肉体を持った存在の魂の分離を研究はしていないから、出来るとも出来ないともいえないわ。
でも理論上はできるはずよ」
「そうか……」
最悪リザードマンの体でもゴブリンより遥かに良いと思った。
そう簡単にはゴブリンから脱出できなさそうだとため息をついてしまう。
「……もし人を退けて無事にいられたら研究してあげましょうか?」
「本当か?」
「ええ、あなたにも何か事情がありそうだからね」
「ん、どうしたレビス?」
「ゴブリン、イヤ?」
「うーん、まあなんだかんだ悪くはないがもっと強い体になれるならそれに越したことはないだろ?」
なんだか不満そうな目をしたレビスがドゥゼアの腰を指で突いた。
レビスの不満もわかる。
「それになにも俺だけじゃない……レビスだって強い体になれるならその方がいいだろ?」
置いていかれる。
そう思っていたのだ。
でもドゥゼアが他の体になれるのならレビスも他の体になれるということになる。
ここまで仲間としてやってきたのだから自分だけ別の体になって置いていくつもりはない。
「……そっか」
ドゥゼアは別にレビスを見捨てるわけじゃないと気づいてレビスの機嫌はなおった。
レビス自身も別にゴブリンの体に執着するのではなく、ドゥゼアと一緒ならなんでもいいとすら思っている。
むしろ一緒にと考えてくれていることが嬉しくまであった。
「じゃあみんなでワーウルフになろうよ!」
ドゥゼアがワーウルフになったらどれほどカッコいいことだろう。
ユリディカは1人別の妄想を繰り広げていた。
ゴブリンの今でもカッコいいのにワーウルフになってしまったらもはやメスとして抗えない。
好きにして!とクネクネとして想像が広がる。
「まあ移るための肉体を確保したりも必要だし問題は多いのだけどね。
生きた体から魂を分離する研究も面白そう……」
「ご主人様!」
「オルケ!
えっと……その、話さなきゃいけないことが……」
オルケが帰ってきた。
さっきまで饒舌だったのにフォダエは急にしどろもどろになる。
謝ろうとはしているみたいだ。
しかしドゥゼアはそんなことよりも慌てたようなオルケの態度が気になった。
「人が攻めてきました!」




