第8話「謝罪」
「……今日は、ありがとうね。楽しかったよ」
「……いや、俺も……」
翔太は、そこまで言って言葉に詰まった。華は伏せ目がちに言葉を続けた。
「……小学生の頃の事……ごめんね。意地張ってないでちゃんと、すぐに謝れば良かった……」
翔太は喧嘩別れした時の事が、鮮明に思い出されて、積を切った様に言葉が溢れた。
違う……違うよーー
「違う……華は何にも悪くない。俺のせいだ。ごめん華……」
俺の方こそ、ずっと謝らないとと思ってた。
「今、華って」
「あ……」
翔太は慌てて口を手を抑えたが、もう遅かった。
そう呼んでくれた方が嬉しいよと、まさに花が咲いた様に華は微笑んだ。
「明日業者さん来るから、wifi直ると思う」
「……そっか。良かったな」
「それじゃあね……」
お邪魔しましたと出て行こうとする華を、待ってと翔太は呼び止めた。
どうしても翔太は聞きたい事があった。
何でどうしても聞きたかったのか、自分でも分からない――
先程のメッセージの事だ。
「何で……あんな事、聞いて来たの?」
「あんな事って?」
「……彼女いるのかって」
あーっと、華はバツが悪そうに視線を逸らした。
「いや、だって、彼女いたら、部屋遊びに行くの悪いかなって……」
え?お前そんな気遣い出来たのかと、華の意外な答えに、翔太は正直驚いた。
「昨日夜中に押しかけといて……今更かよ」
「だから、それは謝ったじゃん!」
頬を膨らませてムキになる華が可笑しくて、ハハハと翔太は自然と笑いが溢れた。
釣られて華も笑う。気がつけば、お互い笑い合っていた。
それじゃまた学校でと、玄関を出て行く華を見送りながら、翔太は自分が少し悲しい気分になっている事に気がついた。
「彼女いるの?」と聞かれた時、自分は心の何処かでもっと別の何か期待をしていた。
それに気がついて、翔太は自分が嫌になった。
ずっと離れていて、自分の中にあった醜くて汚いものが浄化された気でいたが、全然変わってない。
むしろ――
昨日の夜、ベッドに寝転んで眠っている華に、キスしようとした事が思い出されて、そんな自分が心底嫌になった。
何も知らなかった、純粋だったあの頃に戻りたい――でも、もうそれは無理な事は分かっていた。
翔太は、二度と華にこの扉を開けない様にしようと、自宅の玄関の鍵をガチャリと閉めた。
つづく
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