第16話「実験-前編」
翔太の顔がそのまま迫って来た。
「目、閉じろよ……」
その少し掠れた思ったより低い声に、華はどきりとした。
心臓が勝手に早鐘を打ってる。華はそれを制止しようと胸を押さえて、ぎゅっと目を瞑る。
どうして、こんな事になってしまったのか――
***
「人の最も優れているところは、『忘れる事が出来る』事である」
いつかプレイした、ゲーム内の大賢者が言っていた。
長雨が続き、季節は逆行している様だった。
雨は憂鬱さの他にも、湿気で電気周りをおかしくさせるので普段はあまり好きではないが、紫陽花だけは別だと華は思った。
この季節に、雨の中でこそ映える花……
この幻想的な情景が、華はとても好きだった。
登校中、雨に濡れた紫陽花を見るだけで、この季節も悪くないと思えて来る。
そんな穏やかな心持ちで登校して教室に入ったのだが、華は黒板を見てギョッとした。
すっかり忘れていたが、日直当番――
隣に「浅川翔太」の文字。
今まで何とか頭から消し去ろうとしていた、名前が蘇って来る。人間はそう簡単に忘れる事なんて、出来ないじゃないか。華は大賢者に悪態を付きたくなった。
うちのクラスは、出席番号順に男女ペアで日直を担当するが、男女の数が違うので少しずつペアがズレて行く。なのでたまたま翔太とペアになってしまった様だ。
なんの因果だろう――
少し前までの自分でも動揺していただろうが、今の自分の比ではないだろう。
というか、怖い――
何故怖いのか、自分でもよく分からない。
ただ、華はなるべく翔太と接触しない様に、日直当番を終えなければと思った。
***
華は翔太との接触をなるべく避けるため、翔太の先回りをして、日直の仕事をこなして行った。
自分が全てやってしまえば、翔太に文句も言われないし、話しかけられる事もないだろう。
ただコソコソしている様で、翔太に対して後ろめたい気持ちもあった。
どうして、こんなに翔太と顔を合わせたくないのか、自分でもよく分からなかった。
ただ運悪く、その日は委員会の集まりがあり、全ての日直の仕事を終える前に、教室を出なければいけなくなったが、逆に残りの仕事を翔太がやってくれれば、今日という日を無事乗り越え、帰宅出来ると考えた。
華は急いで、委員会の集まりへ向かった。
つづく
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