第14話「バイト先にて」
「すみません、失礼しました!」
華はバイト先の喫茶店で、カトラリーセットをうっかりトレイから落としてしまい、大きな音を立ててしまった。
幸い店は、閉店前でお客さんは殆ど残っておらず、ちょっと注目を集める程度で済んだ。
ゲーマーは金が掛かるのだ。ゲームの為に始めたバイトだったが、バイト先の喫茶店は、知る人ぞ知る感じのレトロな古民家カフェで、落ち着いた空間が華は気に入っていた。
マスターが、たまたまオンラインゲームのフレンドで、その縁でバイトをするに至る。
マスターは、お孫さんと一緒に遊びたくて始めたゲームにハマったらしい。ゲームの世界に、リアルの年齢や性別は関係ないなと、改めて思わされる。
自分がゲームの世界にのめり込むのは、そう言った、しがらみのない世界だからかもしれないと、華は思った。
「……華ちゃん、今日ずーとボーとしてるわね? 体調崩してたんでしょ? 大丈夫? 今日、休んでも良かったのよ?」
「あ、はい。大丈夫です。すみません……でも、体動かしてた方が、余計な事考えないで済むんで……」
それを聞いて、カウンター席に座っていた、常連の光さんがニヤリと呟いた。
「これは、男絡みだね?」
華はギョッとした。その反応を見て、光は益々楽しそうに華に詰め寄ってきた。
華は面倒な事になりそうだと、奥に逃げようと思ったが、光が圧倒的圧力で詰め寄ってくる。光は、人の不幸と噂話が大好物みたいな人だった。
マスターが、サイフォンのロート内のコーヒーを、竹ベラで軽く攪拌しながら呟いた。
「……人に話すだけで、案外心が軽くなるものよ」
コーヒーのいい香りとマスターの落ち着いた貫禄だけで、華は不思議と心が緩んだ。
つづく
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