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【完結】遠くて近きは幼なじみ  作者: カムナ リオ
第二章
10/23

第10話「それぞれの想い」

「何やってるんだよ」


 華はその聞き覚えのある声にドキッとして、振り返った。


「あ……翔ちゃん」

「もう、暗くなるぞ。……家、帰った方がいいんじゃない?」


 うんと返事をしつつも、華はブランコから立ち上がらない。何かあったのは確実だと思った。


 暫く沈黙が流れたが、華は帰ろうとしなかった。理由は分からなかったが、華がこう鬱々としている時は、何かで発散した方がいいと分かっていたので、翔太は徐に華に言葉を投げかけた。 


「あのさ……ちょっと、付き合わない?」



***


 翔太が連れて来たのは、近所のバッティングセンターだった。華は来るのが初めてだったので、翔太に習って着いて行った。


 ナイター用のライトがギラギラ光っており、それを見ているだけで、華はワクワクして来た。


 バッティングゲージに入った翔太が、慣れた感じで構えて、飛んで来るボールを捕らえると、軽くバットをスイングして、ボールを飛ばしていた。


 翔太が、野球なんかする所を見た事なかった華は驚いた。


「よく来るの?」

「たまに。打ってみ?」


 と、翔太は軽く、何でもない事の様に促して来た。


「いや、無理だよ。やった事ないし……」


 華がそう遠慮すると、翔太は次に飛んで来たボールもカキンと軽く打ち返した。そして華に向かってフッと笑顔で呟いた。


「スカッとするよ」


 確かにスカッとしそうだ……と華は思った。

 見よう見まねで、翔太の様にバットを振ってみるが、見事に空ぶって尻餅を着いてしまった。


 隣の翔太が、遠慮なくハハハと笑って来た。


 うぐぐ……悔しい……! 


 翔太は昔から、何でも卒なくこなすのだ。初めての事でも、それなりに器用にこなしてしまう。

 昔の悔しかった気持ちも蘇り、華の心に火がついた。


「もう一回、もう一回やって見せて」


「え?」と翔太は思ったが、昔の華が戻って来たと感じた。華はかなりの負けず嫌いだった。


 もう一度スイングして見せると、もう一度、もう一度とせがんで来る。


 この感じ、本当に昔のままだと翔太は思った。華は始め出来ない事でも、こうやって他人の動作を視て、その感覚を掴もうとする。とにかくその洞察力が凄い。


 昔、兄貴に3Pシュートを見せてもらった時、華は夢中になって、練習していた事があった。その時も、何度も兄貴にシュートを見せてとせがんでいた。


 俺はすぐに飽きてしまい、入ったり入らなかったりを繰り返していたが、華は気が付くと、ほぼ百発百中でゴールに入れられる様になっていた。

 とにかく、興味を持ったものへの集中力が半端ない。そして周りが一切見えなくなる――


 華はバットを振り上げて、肩の高さでグリップを構えると、ボールが飛んで来る方を静かに睨んだ。

 ボールが放たれた次の瞬間、体重を後ろ足に移動し、グリップを引く――綺麗なスイングでボールを打ち上げた。


 そのままホームランの的に当る……


 マジかよ……と翔太は絶句した。「見た⁈ 翔ちゃん! 当たった! 当たった!」と大騒ぎする華はもう、さっきの気怠るさは忘れてしまった様で、昔から翔太のよく知るいつもの華だった。


(……単純!)


 翔太は可笑しくなって、笑いを堪えられなかった。


 

 ***

 

 バッティングセンターを出た頃、もうすっかり外は暗くなっており、母親からの買い物を思い出した華は、コンビニに寄るからと翔太と別れようと思ったが、「もう暗いから」と翔太は着いて来た。


 華は何だか嬉しく感じると同時に、ホッとした。


 コンビニからの帰り道、少し斜め前を歩く翔太の後ろ姿を眺めて、華は夕方までの、鬱々とした気持ちが無くなっている事に気が付いた。


 そして、改めて「翔太といると本当に楽しい」と感じた。


 もう一度……もう一度だけ……


「翔ちゃん」

「……ん?」


「あのさ、また昔みたいに一緒に遊ぼうよ。ゲームじゃなくてもいいから」


 真っ直ぐに華は、翔太を見つめて来た。

 その曇りなき眼差しに、翔太は昔の頃を思い出す――


 華は全く変わってない。純粋で真っ直ぐな彼女のままなのだ。

 そしてこれからも、決して変わる事はないだろう。それが「華」と言う人間なのだ。


 それが今更痛いほどに分かって、翔太は自分が惨めになった。


 自分もそんな風に思えたら、でももう俺は――


 せめて昔のままの自分を演じ切れたら、一緒にいても、華を悲しませる事はないだろう。

 でもその自信がない。気が付かれたら、もっと華を傷つけるだろう――


「……無理、ごめん」


 続けて、翔太は自分に言い聞かせる様に呟いた。


「俺はもう、お前の知ってる昔の俺じゃないから」



つづく

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