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1前 長いこと住んでても意外と知らない道とかあったりする

 家の裏手にある道を、ちょびっと行った右の方に小さなおやしろがありました。


 おさんぽ中でしたが、妙に気になったので見てみます。うちの近くにこういうのがあるなんて、知らなかったですし。


 みんなからも忘れられてるのか、私みたいに知らないのか、お手入れはされていないみたいです。さびれてしまっていて、クモの巣もはっています。


 ここにどんな神様がおまつりされてるのかも分かりませんが、きっと悲しんでると思います。おそうじしなくちゃいけませんね。


 家からほうきとぞうきん、それにバケツを持ってきました。お母さんにびっくりされましたが、説明はめんどうだったのでしてません。


 木でできたおやしろは雨とかのせいでちょっとやわらかくなってたので、ていねいにおそうじしました。三十分ぐらいかかりました。


 無事、きれいになったので、おまいりしておきましょう。ぱんぱん、ぺこり。ただの気まぐれですけど、なんだかいいことをした気がします。


「ありがとうのう、こんな時代にしてはなんともいい子もいたものじゃ」


 神様の喜ぶ声も聞こえてくるみたいです。もちろん、目を開けても誰もいませんが。


「まあ、流石にわしのことは見えぬか。随分力も失ったし、聖人みたいなのでもなければのう……」


 また声が聞こえてきました。どうやら、さっきのは気のせいじゃなかったみたいです。


 でもどこからかは分からなかったので、バケツを取ろうと下を向いたら金色の目と目が合いました。


「……ん? もしかして、見えとる? わしの声、聞こえる?」


 きれいな金色の髪と、もふもふのお耳と、とてもかわいい顔です。ばっちり見えて、聞こえています。


「聞こえてはおらんのか……? おーい」


 ぶかぶかのおそでを私の顔の前でふりふりしてきます。多分、最近はちょっと夜ふかしぎみだったので寝不足でしょう。


「な、なあ、見えとらんのか? 目は合っとると思うんじゃが」


 不安そうな顔もかわいいですが、反応しちゃったら私が一人でしゃべる危ない子になってしまいます。がまんがまん。


「なんでずっとこっち見たまま止まっておるんじゃ……? こ、怖いのじゃ……」


 涙目になってしまいました。ううん、何回まばたきしてもずっといるし、もしかしたら本当にこの子はいるのかもしれません。


 だとしたら、やることはひとつです。


「おお、やっと動いたか。よかっ……こゃ!?」


 思った以上のもふもふでした。これは、くせになりますね。


「ちょ、急に無言で耳を揉むな! やめい、やめてくれ! そこはダメなのじゃ!」


 ずっと触っていられます。いい匂いもしますね。


「顔をうずめるでない! くすぐったいし、怖いのじゃ! せめて何か言ってくれ!」


「しっぽもありますか?」


「第一声がそれか! あるけど、絶対渡さないのじゃ!」


 残念です。


「そうあからさまにしょんぼりされると、なんというかわしが悪いことしたみたいな気分になるんじゃが……」


 いつか絶対触ると心に決めつつ、私は耳から手を引きました。


「ふう、やっと終わったか。まったく、このわしの耳をいきなり揉んだ上に匂いまで吸うとは恐ろしい子じゃのう」


 とってもよかったです。


「満足気な顔をやめい。して、そなたツクモ家の子じゃろう?」


「知ってるのですか?」


「町内の家ぐらいなら分かるぞ。わしはうん百年はここにおるからな」


 その割には、小学生の私よりも身長が低いですが。


「言いたいことは分かるが、それはお主ら人間達に忘れられて力を失っておるからじゃ。本当のわしはもっと大人のお姉さんなんじゃからな」


 ここで生まれ育っている私も今日初めて知ったぐらいですし、長い間誰にも思い出して貰えなかったのかもしれません。そう考えると、少しかわいそうです。


「まあ、完全に消える前にこうしてお主に見つけて貰ったからの、しばらくは大丈夫じゃ。」


「それなら、よかったです」


「うむ、言うなれば命の恩人じゃな」


 そうしていると、遠くの方から五時のチャイムが聞こえてきました。そろそろ帰らないといけません。


「む、帰るのか。改めて、わしの社を掃除してくれて感謝するぞ」


 もふもふの女の子はそう言って、私についてきました。


 あれ?


「ついてくるんですか?」


「うむ、わしは忘れられると消えてしまうからな、しばらくはお主について行くとするぞ」


 大丈夫ってそういう意味だったんですね。私はいいですけど、お母さん……も多分許してくれますが、お父さん……も大丈夫そうですね。


 なら、大丈夫かもしれません。


 ですが、かしこい私はひらめきました。


「ついてくるなら、ひとつだけ条件があります」


「歳の割に難しい言葉を知っとるのう。なんじゃ?」


「毎日、耳としっぽを触らせて下さい」


「ではな。また気が向いたら社に来るんじゃぞ」


 そんなに嫌ですか。


「そんなに嫌ですか」


「わしの耳や尻尾はそうやすやすと触らせていいものじゃないんじゃ。それをお主は遠慮もなくモフモフモフモフと、恩人でなければばちを与えておるところなんじゃぞ」


「でも私、犬も猫も買ってもらえなくて、でも動物が好きなので、ずっと寂しい思いをしていたんです」


「むぐう、ならまあ……一日一回ぐらいなら……それに家に上がり込めたら退屈もせんじゃろうし……」


 なんというか、悪い人に騙されそうですね。私が守らないといけない気がします。


「もふもふはちゃんときょかを取ってからにするので、うちにきて下さい」


「なんじゃ、いいのか? 急に心配そうな目でわしを見てどうしたんじゃ」


 そんなこんなで、私はもふもふの女の子と一緒に家に帰りました。





「あらあら、まさかくくちゃんが可愛い女の子を拾ってくるなんて……お母さん、嬉しいわ」


「なんとも器の大きい方じゃのう」


 私のお母さんはこの通り、割となんでもすぐに受け入れます。この性格のせいでうちにあやしい商品があふれたりしたこともありますが。


「可愛いお耳と尻尾があるのねえ、もふもふしてもいいのかしら?」


「親子じゃな……耳だけなら、まあ……」


「あらあら、とってもいい手触りだわ」


 そうでしょうそうでしょう。この子、私が見つけたんです。


「なんでお主が自慢げなんじゃ。あの、そろそろいいか?」


「あら、ごめんなさいね。くくちゃん、その子とお風呂に入っていらっしゃい」


「はーい」


 一緒にお風呂……ということは、どさくさに紛れてしっぽチャンスですね。


「わしはお主の後でよいぞ」


 !?


「顔に出過ぎじゃ。わしのしっぽはそうやすやすとは触らせんからの」


 どうやら、ガードは固いようです。よけいにやる気が出てきたので、なんとしても一緒にお風呂に入ろうと思いました。

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