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竜操の記憶  作者: ぽぽの
第一章 竜の神託
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四 その日、相棒に挨拶した。

「なにこれ……」


 これがルオの第一声だった。


 期待に胸が膨らんでいた分、失意による落差を大きく感じていた。


「え、待って! こっちも可愛いじゃん!」


 こちらがティリアの第一声だ。


 ルオの竜は最初から翼を羽ばたかせ、宙に滞空していた。……のだが、鼻先から尻尾までの長さは実に三十センチメートル程度。高さもそれに倣い、とても小さい。バランスは良いにしても、とにかく小さすぎた。


 ティリアはルオよりも関心を示し、赤い竜の横腹を指で突いてみる。ぷにぷにとした感触が返ってきた。


 外皮に関しては、鱗と呼べるようなものが一切無く、少し硬めの皮が全身を覆っていた。それでも人間の肌と比較すれば硬いが、竜基準で言えば柔らかい方に分類されるのではないか。


 総合すれば、ルオの竜は置きぬいぐるみが意思を宿して、質感にリアリティを持ったようなマスコットと言えた。


「ルオ、どうしたの?」


「あぁ、いや、ちょっとビックリしただけ」


「この子、すっごく可愛いね。ほら……」


 ティリアが赤い竜を指すと、竜はちょうど欠伸(あくび)をしている最中だった。口を目いっぱいに広げ、人間の動作を真似したように前足を口元に当てていた。


 確かにその姿は可愛い。それにはルオも同感だ。しかし頼りげない。それが一番の懸念点だった。


「挨拶、してみたら?」


「うん」


 ルオはティリアがどいた場所に立ち、目線の高さにいる赤い竜を見つめる。


「よ、よろしく」


 ぎこちなく差し出されたルオの片手。竜は爪をその手のひらに当てるようにして、前足を一つ出す。


 ルオは全く痛みを感じなかった。爪は未発達なのか、鋭利ではなく先が丸く湾曲していたからだ。


 ――しかし、話はそれどころではなかった。


「は、はじめ……まして」


 赤い竜は言葉を喋ったのだ。ルオと似た語り口調で、予想通り弱々しい響きだったが、今はその衝撃が頭から離れなかった。


 神竜こそ言葉を話す竜であるが、二人はそれ以外に会話能力を有する竜を知らない。


 ティリアが真っ先に驚いた。


「ええっ⁉ 今喋ったよ⁉」


「うん……!」


 二人は赤い竜を凝視した。


 赤い竜は物陰代わりとして、ティリアの白い竜の後ろに飛んで行く。


「ありゃー。隠れちゃったね」


 ティリアは白い竜の左側から覗いては右側から覗いては……を繰り返す。その間、ルオは立ちっ放しで、逃げ惑う赤い竜の姿が何度も見えた。


「すばしっこいなぁ。こりゃ捕まえられそうにないよ」


 先に音を上げたティリアは、後のことをルオに任せるようだ。


 彼が迎えに行くと、やはり契約関係にあり、相棒と認識しているからか、赤い竜は大人しく捕まった。


「さっすがルオ! でもこの子、ちっちゃいね」


 ティリアもようやくルオと同じ土俵に立った。


「そうなんだよね。なんでだろう?」


 同じ室内の顔も知らない子供たちの竜を見ても、みな例外なくメートル単位のサイズだ。


「分かんないけど……赤ちゃんなのかな」


 儀式において幼竜を授かったことなど、ドラゴメルクでは前例のないことだった。


「体の大きさが全てじゃないよ。きっと大丈夫。だから自信持って」


「うん」


 ルオは少し前向きになれた。赤ちゃんということは、他の竜よりも伸びしろが大きいのだと。


「それで、もう名前は決めたの?」


「名前かぁ。言われてみれば必要だなぁ」


 赤い竜も白い竜もティリアの意見を肯定するように頷く。


 授かった竜に名前を付けても付けなくても、どちらでも良い。だが、せっかくならばという気持ちが前進し、名付け親となることの方が大多数だ。


「ティリアはもう決めてるの?」


「ええっとね……ポチ!」


 白い竜は青い顔をした。怒って反抗するより先にそのような反応を示したのは、心配性だからなのか。


「まだ犬のくだり⁉」


「あはは、冗談。では気を取り直して命名しますっ! この子の名前は……ブランカ!」


 今度は真面目な命名だ、とルオは胸を撫で下ろす。


「なにか意味はあるの?」


「カサブランカって花があるでしょ? そこから取ったの。純粋な竜に育って欲しくて。あとついでに王家に相応しくあるように、って願いも込めて」


 カサブランカの花言葉に『純粋』や『高貴』といった意味があるが、ルオは全く知らないので感嘆の声を上げて頷くだけだった。


「この子にはなんて付けてあげるの?」


「そうだなぁ……」


 ルオは悩んだ。名前の候補自体はあるのだが、それが眼前の幼竜と合致しない。


「じゃあこんなのはどうかな?」


「なになに?」


「赤ちゃん!」


 それは『赤ん坊』と『体が赤いこと』を掛けたつもりなのだろうが、誰が判断しても名前としては不適切だ。


「却下」


「ごめんごめん。もうふざけない」


 ティリアは委縮しながら反省した。


「でも、今のでちょっと思い浮かんだかも」


「ほんと⁉」


「グレンにしようかなって」


「ぐれん?」


「本で読んだんだけど、この世界のどこかに刀っていう剣を振って戦う人たちの国があるんだって。〝紅蓮〟っていうのはそこの言葉で、轟々と燃え盛る炎の色なんだって」


「へぇー!」


 初耳です、と言わんばかりの食いつきを見せるティリア。王宮で世界史くらい勉強しそうなものだが、必要な教育がされていないのか。それとも単に忘れているだけなのか。


「私は凄く良いと思うよ」


「グレン、良い名前!」


 赤い竜本体からその言葉が貰え、ルオは自信がついた。


「よし、じゃあ君の名前は今日から……」


 二人は息を揃えて言う。


「ブランカね!」


「グレンだ!」

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