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竜操の記憶  作者: ぽぽの
第一章 竜の神託
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三 その日、竜をお披露目した。

 役人により解散が告げられると、神竜がついさっきまでいたというのに、子供も大人も揃って騒ぎ立て始めた。


「はぁー! 終わったー!」


 ティリアは格好に見合った行動を心掛ける訳でもなく、大きく伸びをした。


「終わったー、じゃないよ。怒られた時はどうなるかと思ったよ」


「えへへ、ごめんなさい」


 こんなにもヘラヘラ顔のお姫様がいて良いものなのか、とルオはティリアの将来が心配になって仕方がない。


「パパ、怒ってるかな?」


 ティリアは雑踏に隠れるように、その隙間から国王を覗き見上げる。


 だがちんけな隠れ身の術は意味を成さず、彼は笑顔を向けて娘を一点見つめていた。いつからかは不明だが、少し前から彼女を目で追っていたようだ。


「お父さん、ああいや王様、機嫌良さそうだよ」


 ルオは国王に向かって小さく一礼した。それに反応したのか、挨拶代わりの手振りが返ってくる。


「ああ……あれは後で怒られるやつだ……」


 ルオには見極める基準が分からなかったが、ティリアの首筋に汗の雫が湧き出るのを見るに、冗談を言っているつもりはないらしい。


「どうする? 先に謝りに行く?」


「ううん、後でいいや。――それよりもさ!」


 ティリアはルオの両手を掴む。


「ルオはどんな竜を貰ったの?」


「えっと……ここで出すのはまずいんじゃない?」


 周囲を見回せば数人の子供が、授かった光を竜に変換している。そのせいで余計に圧迫感に苛まれる。


「そうだね。確かこの宮殿の中に自由に使える部屋があったと思うから、そっちに行ってみよっか」


「うん」


 母親と合流することも忘れ、ルオはティリアに手を引っ張られて最奥を後にする。


 空き部屋はたくさんあった。どれもが儀式を執り行った部屋と見劣りしない広さで、中を覗けば既に数人がひっそりとお披露目会を開いているではないか。


 人が最も少なく見える部屋を適当に選んで入ると、二人は向き合った。


「それで、どうやってさっきの光を出せばいいのかな?」


「うーん、分かんない!」


 ルオは思わずコケた。王族であるのに、国の象徴でもある竜のことをよく把握していないのは一体なぜか。英才教育を受けている訳ではないのか。そんな疑問が浮かぶルオだが、ティリアらしくもあると思ってしまった。


「とりあえず念じてみれば? 出でよーっ、りゅうー! って感じで」


 両手を開いて突き出したティリア。ルオは見ていられなくなり、目を細めたが――。


 すぐに目を見開いた。ティリアの体内から抜け出るように、白い光の球が現れたからだ。


「えっ、ほんとに出た!」


 本人が一番驚いている始末である。


 そして光は竜の姿に形を変え、


「これが私の相棒……!」


 光と同じ白い鱗に覆われた、全長五メートル、高さは一メートル強程度の身体。竜にしては珍しく体の大きさに対し両翼が極端に小さい。一般成人男性の手の大きさくらいだ。四つん這いの体勢でいて、尻尾も長くない。そして角も生えていない。


「なんか、思ってたのと違うけど……」


 ティリアはおぼつかない足でその竜に寄り、


「すっごく可愛い!」


 自分の頬を竜の頭部に擦り付けた。


 ティリアの竜は透き通った黒目で彼女を見つめていて、嫌がる素振りを一つも見せない。


 穏やかな気性なのか、その姿はまるで、


「犬みたい!」


 ルオは白い体毛の犬を想像して、それを同じ縮尺で巨大化させてみる。


「い、言われてみれば……」


 ルオは頷いてからそう言った。


 しかしモフモフした肌触りではなく、やはり鱗特有の硬質さは感じる。犬よりもサイズは遥かに大きく、目の前の生物が犬と似て非なるもので、竜であることは確かだった。


「でもこの子、空飛べなさそうじゃない?」


「そうねんだよねー……」


 ティリアは自分の竜の周りを一周しながら唸る。


 竜が空を優雅に飛行すること。それが彼女たちの常識的な概念だったからこそ、自分もいつかは大空に羽ばたける日が来るのだと期待していたのだ。


「まあでも、その分陸での動きに強そうだし、この子に乗っかればいいか!」


 こういう時にこそ、ティリアの気持ちの切り替えの早さには感心してしまう。


 彼女は言葉の通りに行動を試みるらしく、竜に両手をついて、右足を向こう側にかけようとした。


「ちょちょっと!」


 ルオは慌てて左手でティリアの背中を支え、右手で右足の素肌が出た部分を掴む。


 彼女がもっと勢いに身を任せていたら、ドレスは裂けていただろう。


「そんなはしたない所、またお父さんに見られたらどうするの?」


「平気平気。パパは忙しいから、ここには来ないよ」


「それに乗っかっちゃったら、もう犬じゃなくて馬だよ」


「あ、そっか」


 眼前にいるのは犬でも馬でもなく竜であることを、二人は分かっているのだろうか。


「あと……その……」


 なぜかルオが目を背けて赤面する。


「パ、パンツ……見えそう」


 流石のティリアも、ドレスの裾を押さえて同じ反応を示した。


「つ、次からは気を付けるよ……」


 もじもじしながら彼女は言った。


 その言葉がいつまで持つのか。この宮殿を出るまでは大丈夫だろう。ルオはそう思いながら、ティリアの身体を支えて、彼女が下りるのを手伝った。


「ふぅ、ありがと。これからよろしくね」


 ティリアは今に対する詫びも込めて、白い竜の背中を撫でる。


 竜はグゥゥウウウと、挨拶を返したのだろうか、前向きに聞こえる鳴き声だった。


「次はルオのを見せてよ」


「うん、いいよ」


 ルオは手を胸に当て、口に出さず念じる。


 浮き出た赤い光が弾けるように消え去り、その中心から真っ赤で強靭な竜が現れた。


 しかし、そう思ったのはほんの一瞬のことで――。

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